第六章 十九、カミサマの取り扱い
第六章 十九、カミサマの取り扱い
エルトアはとりあえずと言って、私が貰ったのと同じ布をカミサマにもくれた。
「その衣の肌触りは、特別良いのですが……分かりますか?」
「あ、はい。とっても」
スベスベ感が本当に心地良くて、私は即座に返事をした。
「あぁ。……そうでしょう。そちらのカミサマとやらは、如何ですか?」
エルトアは、不意の言葉に一瞬私を見て、そして明らかに気遣ったのが分かった。
(カミサマに話しかけたのに、私が返事をしたから驚いたのね)
「えっと……そういうことか。造られた体なのに、違和感が無いくらいはっきりと分かります。まるで本当に、自分の体みたいに」
口調が、元のカミサマに戻ってしまった。
(綺麗な声だから、それに似合う話し方をしてほしい)
「よく、すぐに気付きましたね。そうです。ドールとはいえ、人の相手をするものですからね。感覚も全て、人と同じか、それに近いものを備えています」
「……無駄に思えますが。護衛用ならばなおさら、痛覚など無い方が戦い易いはずですよね」
「どうして護衛用と?」
「力の感覚です。人を超える筋力というか、かなりの重量でも持てますよね。それに、意識を込めれば鋼鉄のように硬くなる」
「素晴らしい。その通りです。その体、筋骨格、皮膚、髪の毛一本に至るまで、ほとんどにオロレア鉱を使っています。もちろん、部位によって合金や繊維化をしてありますが」
「どうりで……。でも、それなら重さは一体、どのくらいですか? 人に乗ってしまったら潰してしまうのでは」
「ええ。身長が百六十センチに対して、体重は一トン以上ありますから」
「……うかつに人に近寄れませんね」
「とは言いいましても、周囲に対する保護機能は最大限に取り入れていますから。危惧すべきような事は何も。男の相手も務められますので、想う方がいらっしゃるならお試しください」
「お、男の……? あの……この素晴らしい体は大変ありがたいのですが、もしも男性タイプがあれば、そちらに替えて頂けませんか……」
「はて? まさかそのゴースト、元は男性だったのですか?」
「はい」
「ふむ……実は、人の大きさをしているドールは、女性型しかないのです。大きさが何でも良いと仰るなら、あるにはありますが」
言葉を濁すエルトアは、右手で何かを操作する仕草を見せた。
すると、壁の一面が別の場所になった。
「……工場の画像ですか?」
カミサマは、それが何なのか分かるらしかった。
「そうです。男達は皆、ああいう形が好みらしく。どれも大体、二十メートル前後のものばかり造るのです。弾切れを起こすというのに、古臭い実弾兵装を好んだりと、意味が分からないので放置していますが」
「ロボットだ……」
壁の向こうは、実際の場所ではなくて映像というものらしい。
聞き慣れない言葉が多くて、私には会話がほとんど分からないけれど。
「あなたもあれが良いというなら、掛け合ってみましょう」
「あっ。い、いえ! 大き過ぎます! この体を、ありがたく頂戴します……」
表情が涼やかなので分かりにくいけれど、カミサマは明らかに落胆している。
それが分かるくらいには、同じ体でずっと一緒に居たのだから。
「察します。が、そもそもゴーストに、性別など反映されないはずですが。記憶以外に男女を識別するほどの、強い欲求などお持ちではないでしょう?」
「強い……欲求?」
「男であるなら、これらのドールを見て少しでも欲情しませんか?」
エルトアは右手を動かすと、今並んでいたドール達の半数が壁の中に消えた。それと入れ替わりに、別のドール達が出て来た。
容姿は様々だけど、どの人も美形で綺麗な体をしている。
「その機能は無くとも、衝動が少しでも出て来るはずでしょう。この子達は皆、それを促すように設計してあるのですから」
「言われてみれば……どれも、男性が好きそうな容姿をしていますね」
「それだけですか? あなた自身は? 気に入った子がいれば、後で相手をさせましょう。その体でも楽しめるはずですから」
何だか、私は聞いていてはいけない話な気がする。
(でも、カミサマがそういうのをずっと我慢してきたのなら……少しくらい、発散したらいいと思うし)
「……確かに、皆可愛いし綺麗だと思うんですが……正直、それ以上は何も感じません。エラの体に入ったばかりの頃も……綺麗な方の裸を見たのですが確かに何も、感じませんでした」
「えっ? 誰のを見たんですか」
カミサマが見たのなら、身近な人のはずなのに私は知らない。
そう思うと、咄嗟に声を出してしまった。
「エラ……その時は目覚めてなかったのかな? 体がようやく動くようになった頃、シロエにお風呂に入れてもらってたんだ」
「……体が動かない頃は知りませんでしたけど、言われてみれば……シロエやリリアナとは、よく一緒に入っていますね」
カミサマも私と同じ感覚だったから……近い記憶でも、当たり前の光景として意識にさえ残っていない。言われてみれば、たくさん一緒に入っていたんだった。
「それで、如何されますか? 正直、この手の話題はあまり好きではありません。希望はお聞きしますから、お好きなドールをお選びくださいな」
エルトアは、本当にこの話題を早く終わりたい様子で、少し苛立ちが見える。
「あ。いいえ、結構です。俺は……また戦えるなら、それで良いらしいので」
「欲よりも、ゴーストを突き動かすのは強い意志です。恐らくですが。あなたにはそれがあるから、ここまで人格を残しているのでしょう。普通なら肉体から離れた時点で、消滅するでしょうから。何度も取り出せないか実験しましたが、一週間以上の成功例はゼロでしたので」
「実験……」
(実験って……)
カミサマと私は、同時に同じことを考えたのかもしれない。
「あら。妙な詮索はなさらないでくださいね? 残酷な事など一切しておりませんよ。観測は出来ていたのですが、まさかオロレア鉱が必要だとは思いもよらなかったもので。でも……あなたのお陰で、また先へ進む事が出来そうです」
何だか……この人は怖い。
今も、きっと恐ろしいことを言っている気がする。
「そうですか……俺も、この話はこれ以上しないようにしましょう」
カミサマは今何か、情報を隠したんだと思う。
エルトアと同じ言い回しをして、誤魔化したんだ。
そのくらいのことは、私にも分かった。
「……データは、こちらに常時送信するようにしてあります。あなたはどうやら、色々と理解出来る知識をお持ちのようなので、先に言っておきます」
「そうですか。まあ……そうなるだろうとは思っていました。一つだけ確認したいのですが……」
「どうぞ。恐らくですが、心配ありません。とだけ申し上げておきます」
「……なら、良かった。もしもこの科学力で攻め込まれたら、ひとたまりもありませんので」
「ふ……。そんな事がしたいだけなら、とうの昔に世界中を滅ぼすか、支配していますよ」
「ですね。先にお答え頂いた時に、そうだろうなと思いました」
会話の流れが意味不明だったけれど、カミサマはこの人達が、あのミサイルや光線で攻めて来ないかを心配したんだ。
「理解が早くて助かります。それで、その体のスペックですが、後でご確認ください。兵装から何から、全てその記憶領域に意識をすれば読み取れる事でしょう」
「分かりました」
「あぁ。忘れていました。一つだけ。……動力については機密事項で入れていませんが、間違っても胸を開いたりしないでくださいね。暴走すれば国ひとつ吹き飛びますよ?」
国が吹き飛ぶものが、今のカミサマの、胸の中に入っているということ?
「……頭は?」
「記憶が、ドールなのかあなたのゴーストなのかによりますが。まあ、破壊されるような事にはならないでしょう。もしそんな事態が起きれば、あなたがどうなろうともその周辺は、我々が焼き尽くします」
「……分かりました」
とにかく、カミサマの体を壊されたら、国はお終いということ……?
オロレア鉱……白煌硬金で出来た体なら、そんなことにはならないだろうけど。
「話が速い。では、今日はお泊りください。エラ様の翼の修理は、明日の午後までかかるでしょうから。部屋を用意してあります。エラ様とご一緒が良ければ、壁が開くようになっていますので」
「ありがとうございます」
(やった。一緒に寝れるんだ)
「ああ。そうでした。これだとエラ様には何もお渡し出来ていませんね。何かご希望はありますか?」
「……ふぇ? わ、私ですか? ……私はもう、翼が帰ってくるなら、それで十分です」
ドールとか、なんだかいかがわしいものもいらないし。
(もしかすると、シロエが喜ぶかしら?)
ううん。だめ。そんな破廉恥なこと、いくらシロエが変態だったとしても……。
「そうですか……なら、あなたは? 追加で欲しいものがあれば、用意いたしましょう」
「どうしてそこまで?」
「……情報の見返り。と言えばご納得なさいますか?」
「なるほど」
この二人の会話は、どうして色んな言葉を隠して話すんだろう。
情報って、どれのことだろう。
それでもお互いに成立してるのが、不思議……。
「今急がなくても、そのスペックを見て吟味されてからでも良いですよ」
「そうですね……。では、刀を作って頂けませんか? この剣は、エラに持っていて欲しいので」
「カタナ……とは? 剣の亜種ですか?」
「この体から記憶情報を抜き出せますか?」
「ええ、可能です」
「知っている限りをイメージするので、オロレア鉱で作って欲しいです」
「……やってみましょう。少し、時間がかかるかもしれませんが」
「ありがとうございます!」
どうやら、商談は成立したみたい。
私は何を話しているのかさっぱり。
エルトアは少し危険な感じがするけど、カミサマは食いつくようにお話していた。
でも、カミサマが……目の前に居る。
私のカミサマが、目の前に。
この、こみ上げてくる喜びは……どうやって表現したらいいんだろう。
さっきからずっと、ずーっと。
早くカミサマに抱きつきたくて、お話したくて。
でも、「俺」って言うのだけはやめてほしくて。
だって、あの綺麗なお顔で……受け入れようと思ったけど、やっぱり「俺」だなんて似合わないから。
それから……今日は、一緒のベッドで眠ろう。
手を繋いでもらって、お互いに向き合って。
……私が甘えてばかりね。
今までのお礼を、これからずっと、お返ししていくんだ。
面白い。続きが気になる。まぁもう少し読んでみてもいいかも。
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