第五章 二、新たな刺客(三)
第五章 二、新たな刺客(三)
エイシアは、本当に来ないつもりだろうか。
外の護衛騎士の反応が無いということは、ここには少なくとも敵が二人。最悪の場合、エイシアの見つけた四人が合流してしまったということだ。
私が……捨て身で一人でも多く倒すしか、リリアナ達を護れない。
そんな決断をしようとした時だった。
小さな殺気を正面から感じた。
やはり、ベッドの方には来ていない。
扉の近く、レンガ造りの暖炉脇。
そこらへんだと思うのに、しっかりと視認できるだけの光量がない。
けれど、じっと待っていても、扉からは敵しか来ない。
(行くしかない。迷ったら迷った時間だけ、取り返しがきかなくなるんだ。きっと)
声を上げたら、扉の外に居る敵に、異変が起きたと知らせてしまう。
(行くんだ! 私! 行け!)
――唇をぎゅっと閉じて、敵が居るであろう正面のあたりに、めちゃくちゃに剣を振り回しながら突撃した。
ザク。
鈍い切断音と、「うっ」という男の声。
壁の少し手前で、それは起こった。
そして暖炉脇の、その壁が揺らいだ。
実際に近くで見ると、壁の色味と全く同じの、大きな布だったのだ。
その布ごと、敵の脇腹から反対側の脇まで。
私の剣は横一文字に、敵を斬り裂いていた。
斬った瞬間、布は上の三分の一を残してパサリと落ち、後を追うようにして残りの布が、敵の体と共に崩れ落ちた。
どちゃ。という、血と生ものの塊が落下した音。
それを見届けて束の間、安堵と恐怖で頭が混乱しそうになった。
(まだだ。まだ扉の外に、敵が一人以上居る!)
次に何をすればいいのか、全く思いつかなかった。
扉越しに剣を差して、万が一護衛騎士に刺さったら……そう考えると、扉が開くのを待つしかないように思えたからだ。
思考が固まると、体も動かない。
(だめ。動かないと、こちらの位置は把握されてるかもしれない)
なんとなく、その経験則が頭に流れ込んできた。
――カミサマが、手助けしてくれている。
そんな気がした。
(ううん。気のせいじゃない――すごく心強い。だから勝てる。勝つんだ!)
自分にそう言い聞かせて、そっと足音を立てずに、数歩下がった。
リリアナ達の前に立つように。
――敵との射線を、私で塞ぐ。
(息が詰まって苦しい。早く逃げ出したい。助けてほしい。誰か――)
ここでふと、最悪のケースが頭に浮かんだ。
ガラディオを呼び戻してという、リリアナの指示が途絶えていたら――。
彼は来ない。
ガラディオがずっと来ないまま、この場を切り抜けなければいけない。
(――出来るの? 私に。たった一人で……)
……扉が開いた瞬間、敵と私が向かい合う位置にいる。
先手を取りたいけど、敵が複数居るなら……無策で飛び込むのは自殺行為だ。
(そうだ。光線を撃てば、貫通して一気に倒せるんじゃ……)
――だめだ。
どこまで貫通するか分からない光線が、そのもっと向こうに居るかもしれない屋敷の誰かを、貫いてしまうかもしれない。
最強の力も、使いどころが限られては意味がない。
飛び込めない。待つしかない。
でも、待ったところで私に出来るような戦闘技術は……ない。
(どうしよう。本当に)
緊張のあまり、膝までがくがくと震えて止まらない。
感情が昂り過ぎなせいか、髪も青く光っている。
(そうか、魅了の力はどうだろう)
暗殺者にも効くなら、投降させればそれで済む。
――一瞥するだけの間があれば。
勝機が見えたところで、私は扉が開くのを待った。
(なんだ。私に勝てる人間なんて居ないじゃない。緊張して損した)
強がりを何度も、頭の中で繰り返した。
私は負けない。私は勝てる。
魅了の力で、敵さえ無力化出来る。
……そのはずだ。
しばらくして――扉が、勢いよく開かれた。
ガツッ!
という音と一緒に、暗殺者が一人飛び込んできた。
(一人だ!)
しっかりとその姿を見て、「止まれ」と命じた。
……何のことはない。それは素直に従ったのだろう。立ち尽くしてしまった。
(終わった……?)
他に敵が居ないか、私は開かれた扉と通路に視線を移した。
「魅了も調査済だ!」
叫ぶような、勝利を確信した声の主。
立ち尽くした男の脇から、目の前にもう一人が飛び込んで来た。
それは勝利を手にしたつもりの、油断じみた動きではなかった。
必死に、その振り上げた剣を今まさに、私に落とそうとしている。
――けれど、それも私の視界に入ったが最後。
そいつも戦意が消えたのか、ゆっくりと剣を降ろそうとしている。
(やっぱり二人居たんだ)
ただ、少し緩慢な動きというか、さっきの立ち尽くした男とは反応が違うなと思った。
どうにも、おなかから仰け反るような気持ちの悪い動きをするのだ。
その不自然さが目に付くものだから、魅了の効きが弱いのかなと思った。
――その刹那。
鋭い剣先が、その彼のおなかを突き破って目の前に飛び込んできた。
それは、とてもとてもゆっくりに見えるのに、体は思うように動かなかった。
(なぜ剣がおなかから?)
(これは何が起きてるの?)
もう避けられない速度で、私の胸を捕らえている。
あまりにも唐突過ぎて、左右のどちらにも、体は動いてくれない。
――真ん中。
心臓の位置目掛けて、それは突き刺さってしまう。
(間に合わない。これは、後ろにもう一人が隠れてたんだ。それも卑怯な――)
味方を盾にして、味方ごと私を突き殺すという、非道な殺人術。
(がんばったのに……だめだった)
最後の最後で、敵に裏を読み切られた。
(悔しい。卑怯者に負ける――)
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*作品タイトル&リンク
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『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』
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