表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/295

第四章 四、兵器と呼ばれたもの(五)


  兵器と呼ばれたもの(五)



 わたしは今、馬車の中に居て……これからガラディオに怒られるところだ。

 他の者に示しがつかないからと、その配慮をしてもらった形だけど……二人きりは良くないと思う。それに……本当に、怒られたくない。



「さてと……何度言っても分からないお嬢様からは、何か言い訳がおありでしょうかね」

 体の大きなお義父様も入れるのだし、ガラディオもやっぱり入れるんだ。などと現実逃避をしながら彼を見上げている。

 その彼の顔は、怒りを通り越して微笑んでいるようにも見える。ただ実際には、よく見ると感情の無いお面のような表情をしている。



「えぇっと……エイシアに敵が居ると教えてもらって。そう、それで時間も無いし、わたしなら無傷で対応できるだろうと思っ……い…………ました」

 目を逸らし続けながら、あった事を思い出しながら述べていて、ふと、彼と目が合った瞬間だった。

 わたしは怖さのあまり、言葉に詰まってしまった。



「そ、そんなに睨まないでよ。あなたって、怖い顔しないほうがいいわ。女性が寄り付かな……いえ、なんでもありません」

 無反応で、そして怒りを押し殺した無表情で見下ろされるのが、こんなに恐ろしいとは思わなかった。その目だけが血走っていて、鬼か悪魔に処刑される直前のような気持ちになった。



「ごめんなさい……」

 とにかく、謝ろうという事しか頭に浮かばない。

「……何についてのごめんなさい。でしょうか?」

 抑揚が無く、圧のある低い声色。



「や……その。また飛び出して、しまったこと……です」

「ほほう。正解ですよお嬢様。……ちなみに、その羽で飛ばれたら誰も追い付けない。分かっているんだよなぁ?」

 普段、わたしには使わない敬語だったのも怖かったけれど、急に静かな怒声を……それも、怒りを抑えきれない威圧感の籠った低音で言われると、もう失神しそうだった。



「ゆ……ゆるして……」

 顔を背けて、背もたれに助けを求めるも、無機質にそこにあるだけだった。

「こちらを向け。目を見て話せ」

(なんでリリアナは居てくれなかったの。わたしのこと、助けてほしいのに……)



「これで何度目だ。言ってみろ」

 彼は、大きい岩のような手で、わたしのあごをつまんで前を向かせた。

「ゃだ……。ほんとに、こわいから……」

 カミサマは、どうやってこんなに恐ろしい人と普通に会話していたのだろう。



「俺を怖がるような奴が、なんで矢の雨に突っ込んでいくんだ? おかしいよなぁ?」

 ああ……。あの時にはもう、しっかり見られていたのだ。

「前には俺や重騎士が出る。お前は後ろからだ。この言葉の意味が、分かっていなかったのか?」

(だめだめだめ。もうむり。ムリよ。誰か助けて。ガラディオは怖すぎる……)



「答えろ。こんな基礎的な隊列も出来ないなら、お前は戦場に出さんと言ったよな」

 ふるふると首を、横に振ってはいるものの……彼の言葉は頭に入ってこない。ただ恐ろしくて、イヤイヤをしているにすぎない。



『申し上げます! ドーマン以下三百騎、出発準備が整いました! エラ様にお伝え願います!』

 敵だったドーマンが、とてもいい人に思えた。

 わたしは、わなわなと震えながら「ひゅ、ひゅっぱちゅ、ひゅるって……」と、伝えるのが精一杯だった。

 ガラディオは、「ちっ!」と強く吐き捨てて馬車を出ていった。



「了解した! 今よりドーマン以下三百は、俺の指揮下に入れ! そのまま前方を受け持ちファルミノへ迎え!」

「はっ!」

 というやり取りが聞こえている最中に、リリアナが馬車に入ってきた。



「私も……怒られちゃった……ガラディオって、怖いわよね」

 ものすごく落ち込んだリリアナを見るのは、初めてだ。

 まさしく意気消沈していて、わたしにさえ目を合わせない。



「リリアナ……わたしのせいですよね。ごめんなさい」

 わたしが出るのを、わざわざ手伝ったとあっては示しがつかないとか何とか、言われたのだろう。馬車にはリリアナと入れ違いで入ったので、わたしの前にもう、怒られていたのだ。



(王女に怒れる……部下。……部下だよね?)

 元は王国騎士団の団長だったというから、立場は割と強いのだろうか。



「エラ……私、あんなに怒られたの、初めてだわ……」

「リリアナに、そんなに言えるのって――」

 国王や王妃、もしくはお兄様方の王子達くらいしか居なさそうなのに。

「――よっぽど怒らせちゃったんですね。ほんとに、向こう見ずな事をしてしまって、ごめんなさい」

 立ち上がってお詫びしようとしたところで、「出発します」と御者から声が掛かった。



「あ。はい――」

 馬車が動き出す前に頭を下げようとしたけれど、間に合わなかったらしい。

「――わっ、きゃっ」

 揺れに対応出来ずによろめき、躓いてリリアナに向かって倒れ、抱き付いてしまった。



「ご、ごめんなさい……」

 反射的にリリアナも受け止めてくれて、抱き合う形になっている。

 頭同士でぶつからなくて良かった。



「……フフ、あなたがコケるなんて、珍しいわね。いつも浮いているみたいにスっと立っているのに」

「え、エヘヘ……」

 体の扱いは、カミサマのように出来ていない……という事だ。



 という事は、あまり接近した戦闘は、しないほうが――。

 ――(――するな。人魔としての魔力は今のお前が上だが、身体操作は見るに堪えん)

 エイシアの声が、急に頭に飛んできた。



 ――(失礼ね。……でも、そんなにひどいの?)

 ――(あの男の命令に従っておけ。本当に死ぬぞ。まぁ、我には都合が良いが)

 大人しく、馬車の側から離れないエイシアは、ガラディオの逆鱗には触れていないらしい。

(なぜ助けないんだ。くらい言われたらいいのに)



「エラ……その姿勢、つらくないの? 私は抱き合っているのも構わないけど」

 中腰で片膝をシートに乗せた形で、彼女にぎゅっと抱き付いたままだった。

「あ。いえ、はしたないですよね。きちんと座ります……」



 その後は、二人とも何も話さなかった。

 時折目が合っては、照れ臭く笑うくらいで。

 ガラディオに本気で怒られたショックが尾を引いて、楽しい話題が見つけられない。こんな時は、シロエやアメリアが居てくれたらなと思う。



(もうすぐ、フィナにも会える)

 リリアナにも、シロエが必要なんだろうと思った。長年連れ添った侍女が側に居ないのは、やっぱり寂しいだろう。わたしでさえ、フィナとアメリアが居なくて心細いと思うのだから。





 ファルミノに入る直前に、隊が止まった。

「あいつらの処遇について、話し合っているみたいです」

 御者は一旦降りて、確認に行ってくれた。



「ありがとう」

 ちょうどリリアナと揃ってお礼を述べたのが、少しこそばゆい気持ちになった。

 リリアナも同じだったらしく、お互いにクスクスと笑っている。



「はあ、久しぶりに落ち込んだ。シロエも居ないし、エラには格好いいところだけ見せていたかったのに」

「私なんて、恥ずかしいところばかり見られているので、少しくらい良いじゃないですか」

 もうすぐ、皆に会えると思うと元気が戻ってきた。自然と会話が生まれる。



『食料は半月分はあります! それまでに処遇をお願い致します!』

 ドーマンの声が遠巻きに聞こえてきた。

 きっと、街にすぐ入れるわけにはいかないと、そういう感じの状況なのだろう。



 たしかに、ついさっきまで敵として命を狙って来た人達を、易々と信用は出来ないだろう。

 わたしの魅了の力も、どの程度なのかが分からないのだし。

(一生続くのか、しばらくして効果が消えるのかさえも)

 側に居ないといけないのか、全く別の所にいても大丈夫なのか。何も分からないままの力だ。



 彼らで、少し試さなければと思った。

 わたしの力を確かなものにしなければ、安心して使えない。



 ――(人体実験というやつだな。恐ろしい事を思い付くものだ)

 ――(そ、そんな大それた言い方しないでよ!)

 ――(力とは、そうした実験の積み重ねだろう。遠慮する必要はない)

 ――(心にくるものがあるから、そういう言い方しないで……)



 エイシアには、なぜ記憶の網があって、わたしには無いのだろう。あれば、もっと色々と知れるのに。

 悔しい気持ちと、『実験』という言葉に心を(えぐ)られてしまった。

(エイシアは本当に、いじわるよね……)



お読み頂き、ありがとうございます。

年始初投稿出来ました。なんとなく、元旦にあげたかったので。

本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。今後もお付き合い頂けると幸いです。


  **


読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。


*作品タイトル&リンク

https://book1.adouzi.eu.org/n5541hs/

『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ