後日譚
ソムヌス退治の後、片足と片目を失ったデュオは、小さな港町の食堂兼宿屋で女房のイテルと子供たちと4人で幸せに暮らしていた。
デュオは義足の扱いも上手になり、食堂兼宿屋に来る客と酒を飲んだりカードで遊んだり、町の人気者に戻っていた。
徴兵された寄せ集め兵のほとんどは城に残って、そのまま城の兵士になった。
元々城にいた兵士はソムヌスとの戦いで失われていたので、兵士不足だったからだ。
トリーは、ツェーン姫と一緒に祖母エル様を怪物ソムヌスから救った英雄になっていた。
現王が美談を作らせて流布したのだ。
トリーの冒険活劇は芝居や小説になって他国にまで広まっていた。
トリーもツェーン姫も、短い髪になっていた。
あの日、新薬草研究所の温室に入った者は、ソムヌスの種を持ち出さないように髪も眉も剃られたからだ。
血と毒汁のついた衣服も全て焼却された。
侍女ヨルドは今は丸坊主ではなかった。まだ短い髪だが城の侍女に戻り、ツェーン姫に仕えていた。
薬草学者シレンスは薬草の研究室で若者たちに薬学を教えながら一緒に研究していた。
老兵エジスは退役を希望したが、兵士不足の城の兵士育成のため働き続けていた。
今日はトリーもツェーン姫も、ソムヌス征伐後の会議に参加していた。
最後のエル様のソムヌスを焼き殺してからは一度もソムヌスは発見されていないが、どこかの山や森で繁殖していることも考えられるので、監視は緩められない。
ソムヌスだけではなく、他国の脅威のためにも、兵士や軍力の増強は急務だ。
会議の間、トリーはツェーン姫が気になって横目で盗み見たり、偉そうな発言をして気を引こうとしていた。
ツェーン姫は貴族の高等教育を受けて育ったので、田舎育ちのトリーが幼稚に見えていた。
幼稚に見えるが、トリーがツェーン姫をソムヌスのツタから命がけで守ってくれた事実は何より大きいと思っていた。
貴族は口では綺麗なことを言うが、命がけで助けてくれるかわからない。
あの日のソムヌスとの戦いでは、最初にツェーン姫が飛び出してトリーに防御魔法をかけ、その後にトリーがツェーン姫をツタから助けたのだが、いつもツェーン姫は「トリーが私を命がけで守った」という部分だけ何度も思い出していた。
それと、ツェーン姫はトリーの水色の髪と目を、とても気に入っていた。
トリーはマナーや教養がダメだけど、それは補佐する人がいれば何とでもなる。
だが、水色の髪と目は誰にも真似できない。貴族にだけ遺伝する貴重なものだ。
花嫁衣装のツェーン姫の横に水色の髪のトリーが並ぶ姿を想像して、なかなか良いと思っていた。
会議が終わったのでトリーとツェーンは一緒に祈りの塔に向かった。
城の北側に、エル様とウーヌスと亡くなった多くの人や動物の死を悼む「祈りの塔」が建てられたのだ。
この惨事に、悪人はいなかった。
「あの時こうすれば良かった。あの時あんなことをしなければ良かった。」と、後悔と悲しみばかりの惨事だった。
トリーとツェーンは目を閉じて祈りを捧げた。
トリーは「おじいちゃん、おばあちゃん、どうか俺とツェーンと結婚させてください。」と祈っていた。




