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麻薬寄生植物ソムヌス 〜祖母殺しの英雄〜  作者: みずのと うさぎ
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薬草学者シレンス

 この国は薬草で栄えた国だ。

 薬草と化粧品は他国へ高値で輸出され、国の主産業として経済を支えている。

 そして毒薬と解毒薬は王家の裏側で使われてきた。


 薬草研究所長の地位は国王と比肩するほどだ。

 薬草研究所長室の中にいた研究所長シレンスは、老兵エジスとウーヌスたちの前で静かにソムヌスの話を始めた。

 

 「麻薬寄生植物ソムヌスは実験段階では雑草のような小さな草だった。

 生きたソムヌスの根から麻薬が出るので、枯らさないようにソムヌスの根を実験動物の傷口につけておくと鎮痛作用があると考えられた。

 人体実験はこれからという段階だった。

 

 ある時、前王様は、錯乱した正妻エル様のお心が安らかになるよう薬草学者たちに命じた。

 薬草学者シレンスが進言した案が「麻薬を出す寄生植物ソムヌス」だった。


 エル様の首に小さな傷をつけ、生きたままのソムヌスの根を傷口につけた。 

 決して植えた訳ではない。

 傷口からソムヌスの根の麻薬が入っていくように包帯で巻いておいた。

 

 錯乱状態だったエル様は嘘のように穏やかになり、美しく優しい姫様に戻られたので、さすがこの国の薬草研究は世界一だとみんなが喜んで褒めた。

 

 ただ、側室フィーア様だけは喜ばなかった。

 エル様殺害を企て、私のライバルである薬草学者ポイゾにエル様の殺害を命じた。

 ポイゾは私の研究したソムヌスが失敗してエル様が亡くなったという筋書きにするため毒をエル様に与えた。 


 ところがエル様の毒をソムヌスが根から吸い取り、ソムヌスは誰にも予期できない生物になった。

 雑草のように小さかったソムヌスは、みるみるうちにエル様の首から体内に根を伸ばし、後頭部から背骨に沿って血のような真っ赤な花をたくさん咲かせ、枝や葉が知性を持ったように攻撃的に動き始めた。

 

 一年が経ち、侍女ヨルドがエル様のお髪を整えるときに、頭の赤い花の中に種を結んだところがあるのを見つけたと薬草研究所に報告してきた。

 

 雑草のようなソムヌスが大きく成長して花を咲かせたのは初めてだったし、種をつけたのも初めてだ。

 種を採取して薬草研究所でいろいろな実験を重ね続けた。

 

 しばらくすると、城の使用人が、赤い花を首につけた犬に襲われた。

 城の使用人を襲った犬は兵士に切り殺された。

 

 しかし、切り殺された犬は、体から出ている内臓を引きずりながら、他の使用人に襲いかかった。

 犬は火をつけられ、黒炭になって、やっと動かなくなった。

 

 その後、城下町でも赤い花をつけた鳥や犬猫に襲われる被害が広がった。

 鳥犬猫だけではなく、赤い花を首につけて人を襲う馬や牛も出始め、それらは体が大きい分、凶悪であった。

 

 エル様は城から山の上の薬草研究所に隔離された。

 種が飛ばないように、何重もの窓と扉はきつく閉められた。


 国の宝と褒められた薬草学者シレンスは、まるで悪魔の手先のような扱いを受け、薬草研究所の中に閉じ込められてしまった。

 

 薬草学者シレンスは今まで国や第二夫人のために様々な薬を作って影から仕えてきたのに、口封じのように薬草研究所に閉じ込められ、恨めしく思ったが後の祭りだった。

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