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24話 レンとアリス

 野田の経緯について話そう。

 野田は俺と村田のケンカの乱入前、噂について聞きたくて俺を探していた。

 そして、俺がピンチの現場に遭遇。

 現場から大体の事情を把握した野田が乱入。

 ということだ。

 ちなみに、胡椒は家庭科の授業の時に間違って持っていったものらしい。

 まあ、どうやったら間違うか検討もつかんが、それも含めて野田は停学二週間になった。

 さて、俺は停学初日。

 菓子と飲み物を持ってレンの見舞いに来ていた。


「ケガの調子はどうだ?」

「まあまあだな」

「……そうか」


 呟きながら、レンを見る。

 手当てした箇所は、包帯やガーゼの代わりに、絆創膏が貼ってあった。

 治りがある証拠だ。

 それとも、俺が過剰に手当し過ぎたかもしれないな。

 レンの身体を見ながらそんなことを考えていると、レンと目があった。


「で、なんで平日にも関わらずお前はここにいるんだ?」


 レンがジーと俺を睨む。

 俺は目を逸らした。


「ちょ、ちょっとした問題起こして停学になった」

「ちょっとした問題ね……、ゲガはなかったか?」


 どうやら、誤魔化せなかったみたいだ……。


「……少し、した」

「そうか、すまなかったな」

「なぜ謝る?」


 そう聞くと、レンは微かに頬を赤くした。


「だって、……ボクの敵討ちをしてくれたんだろ?」

「……」


 かわいい……はっ! いかん、俺はなんてことを!

 俺は頭を抱えて踞りたい衝動を抑えながら、言葉を紡いだ。


「そ、そんなこと……、あるかな?」


 何故か疑問系になってしまったが、レンはそれを怪しむことなく、礼を言った。


「そうか、ありがとう」

「……ああ」


 俺は照れ臭さを感じて、目を逸らすのであった。



〈菜月視点〉


 今日は絶対に失敗はできない。

 もし、失敗すれば凪沙くんを助ける方法はもうないだろう。

 わたしが会長に協力して三日が経った。

 そして、今日がその山場だ。

 準備に怠りはない。

 それでも、わたしは不安に思いながら壇上を見詰めた。

 今、体育館では会長が急遽開いた全校集会が行われようとしていた。

 しかし、行事と重なり来ている生徒は三分の二くらいだ。

 会長は壇上に上がると、優美に一礼した。

 釣られて、体育館にいる生徒や先生も一礼する。

 会長は頭を上げ、マイクを調整する。


「皆さん。おはようございます。生徒会長の凉ノ宮アリスです」


 会長の声が体育館に響いた。


「本日皆さんに集まって頂いたのは、とある問題が起こっているからです」


 会長は少し間を開けて言った。


「……我が校では現在、いじめが起こっております」


 ざわめきが起きた。


「原因は社会問題にもなっている同性愛への差別です」


 ざわめきが大きくなった。

 だが、予定通りだ。


「皆さんは同性愛の差別についてどうお考えでしょうか? 男性が女性になったことにより、恋をすることはいけないことだという、モラルが生まれてきました。しかし、それは正しいことなんでしょうか?」


 会長の問いかけにざわめきが消えて、生徒と教師は耳を傾けた。


「恋愛をすることは罪ではありません。それどころか、恋愛とは人を愛せる美しいものです。それを軽蔑し差別することはわたしは間違っていると思います」


 会長は凛とした態度で続ける。


「そして、間違っていることを正すことが生徒会長のわたしの役目です」


 会長は胸に手を当てた。


「わたしはここに宣言します。生徒会並びに風紀委員会は同性愛を支持します。更に新たな校則を作り、差別や軽蔑の抑制に取り組みます」


 会長がそう言うと、小さく拍手がなった。

 それに便乗するかのように、拍手が広がっていく。

 そして、体育館に拍手の音が響きわたり、会長の一礼によって、全校集会は幕を閉じた。




〈海道レン視点〉



 ケガが大分治り、久しぶりに学校にきた。

 そして、目を疑った。

 何度も瞼を擦り、確認する。


「夢か……?」


 ボクは呆然と呟いた。

 目の前では、学校にも関わらずイチャイチャしているカップルが多数いた。

 ありえないことだ。

 そんなことをしたら、いじめの的にされるのは明白である。

 なのに、なぜこんなに堂々としているのだろう。

 そう考えていると、頭に柔らかい物が乗せられた。


「久しぶりね」

「ね、姉さんっ!?」


 乗せられた物が胸だと知り、ボクは慌てた。

 こんなとこ見られたら、アリスがいじめられるっ!?

 ボクは離れようとするが、アリスはボクを優しく抱き締めた。


「大丈夫よ」

「大丈夫じゃないっ! 早く離れないとっ!」

「なぜ、そうするの?」

「じゃないと――」

「もう、いじめは起こらないわ」

「えっ?」


 いじめは起こらない……、どういうことだ……?


「ここでは話しにくいから場所を変えましょ」

「……わかった」


 アリスはボクから離れると、歩き出した。

 後を追う。

 ついた場所は生徒会室だった。

 アリスはボクが入ると、鍵をかけた。


「で、どういうことなんだ?」

「どういうことて……、見たままよ。同性愛に対するいじめはなくなった。堂々と恋愛が出来るようになった。以上」

「……」

「ふふっ、冗談よ」


 ボクの表情が可笑しかったのか、アリスは笑った。

 それから、ボクが睨むとアリスは真剣な顔になって語りだした。


「半年掛かったわ」

「……」

「この計画を思いついたのは、人のある変化を知ったことがきっかけよ。なんだか分かる?」


 アリスの問いかけに、ボクは首を横に振った。


「……同性愛者の増加よ。月が経つことに増えていったのよ。わたしが確認している分では、現在この学校は七十パーセントの生徒が同性愛者になったわ」

「……」

「でも、同性愛は差別された。当然よね、自分の気持ちに気づかない場合だってあるわ。例え、自分の気持ちに気づくことが出来たって、日常的に行っていたことを止めることは難しいし、カミングアウトしたところで自分がいじめの対象になる危険がある。だから、わたしは背中を押すことにしたの。集団の力というやつでね」


 アリスは続けた。


「まず、わたしは同性愛者を増やすためにある本をばらまいた。レンが知っている『女の子になったボクは』という本よ。これは実体験を元に書かれたものだから、気づいていない人にとって良いきっかけになっわ。次に、全校集会を開いたの。わたしが華麗なる演説をして生徒が支持し、同性愛を支持することを学校全体の空気にしたの。もちろん、下準備はしていたわ。同性愛者ではない生徒を全校集会に出さないために行事を作り、全校集会の生徒に何人かさくらを交ぜといたりね。おかげで、全校集会は成功。学校は百合の楽園になりました、てわけよ」


 一通り説明を聞いて、からくりは理解できた。

 さすが、アリスだ。

 だが、ボクはどうしてもわからないことがあった。


「……なんで、そこまでして同性愛の差別をなくしたかったんだ?」


 そう訊ねると、アリスは目を丸くした。


「わからないの?」

「わからない」


 そう答えると、アリスがゆっくり近づいてきた。

 思わずボクは後退しようとするが、後ろに壁があってできない。

 アリスはニッコリと笑いボクに密着した。

 そして、耳元で囁いた。


「レンと恋をするためよ」

「!」


 鼓動が高鳴った。

 同時に身体が熱くなる。


「レン、わたしは知っているのよ。今でもレンがわたしのことを姉以上の気持ちで思っていることをね」

「っ!?」


 知ってたのか……!


「そ、そんなわけないだろ……」


 ボクは否定した。

 正直に言えない理由があるからだ。


「なら、試してみる?」

「えっ?」


 アリスは耳元から顔を離すと、ゆっくりと唇に顔を近づけてきた。


「や、やめろ……」


 弱々しく抵抗するが、アリスからは止める気がしない。

 アリスの顔が目の前に迫り、吐息が唇にかかる。

 キスされるっ!

 ボクは目を閉じた。


「レンと泉さんのキスした写真見てわたしがどんな気持ちだったか想像できる?」


 突然の問いかけに、ボクはゆっくりと目を開けた。

 アリスの綺麗な瞳がボクを捉えた。


「レンを今すぐに監禁したいとまで思ったわ」


 そんな狂気なことを言った瞬間。

 キスされた。

 唇と唇をくっつけるだけの軽いキス。

 直ぐに唇は離された。

 恥ずかしさが込み上げて、ボクは顔を俯かせた。


「どう? 久しぶりのキスの感想は?」

「……無理やりするなんて、……強猥だ」

「そんな顔で言われても説得力がないわよ」

「……どんな顔だよ」

「さあ」


 アリスはボクの顎を親指と人指し指で、持ち上げると、いたずらな笑みを浮かべ、また、キスをしてきた。

 あっという間に舌でボクの口を開けて、口内を蹂躙し、舌を絡める。

 熱い息が混ざり合い、静かな生徒会室に、いやらしい音が響いた。

 唇を離すと、銀色の線が伸びて、ぷつりと切れた。

 そして、乱れた息を整える。


「これで分かったかしら?」

「……なにが?」

「レンが今でもわたしが好きなことを」

「……」


 言いたくても言えない。

 ボクは無力だからだ。

 この世界でアリスを守ることはできない。

 ボクはアリスから目を逸らそうとした。

 しかし、アリスはそれを許さなかった。


「レン、もう自分を誤魔化さないで」


 アリスは両手でボクの顔を挟んだ。


「レンがわたしのためを思って、無理に別れたことは分かっているわ……でもね、レン。わたしは強いの。差別撤廃の一歩を踏み出す勇気を与えるくらいに、レンを守れるくらいね」


 アリスは柔らかい、母性に満ちた笑みを浮かべた。

 頼もしいなアリスは……。

 それに比べて、


「……情けないな。女に守られる男て……」

「そうね……でも、レンはわたしを守ろうとしてくれた。そのことは誰にも真似出来ることではないわ」


 そう言って、アリスはボクの頭を撫でた。

 心地よい……。

 しばし撫でられて、自然にその言葉が出た。


「……ボクは……アリスのことが好きだ……」


 偽るのをやめ、本心を伝えた。

 気が楽になった。

 アリスの表情に花が咲いた。

 よかった、と思ったのもつかの間。


「エッチなことしましょ」

「な、なに言ってるんだっ!? こ、ここは学校だぞっ!?」


 突然の誘いに、ボクは慌てて離れようとふるが、アリスにいつの間にか両肩を抑えられていた。


「萌えるわね」

「……」


 ああ、そうだ。

 アリスはこんなやつだった。

 アリスは荒い呼吸をしながら、ボクの制服を脱がせる。

 久々に見たアリスの変態振りに、ボクは苦笑いした。

 ボタンを開けられて、下着が露になると、アリスの手が止まった。

 どうしたんだ……?


「……レン、ケガしたんだったわね」


 そう言えば、まだ傷跡が残っていたな。


「ああ」


 ボクが頷くと、アリスはボタンを閉め始めた。


「傷に障ってはいけないわ」


 そう言うアリスの表情はどこか落ち込んでいた。

 そこまで、エッチなことをしったかったみたいだ。

 仕方ない、今日はサービスといこう……。


「キスだけなら、傷に障らないと思うぞ」

「……え」

「だから、キスだけなら……その……」


 途中から自分の言ってることが相当恥ずかしいことに気づいた。


「ふふっ、そうね。キスだけにしましょうか」


 どうやら、意味は伝わったらしい。

 アリスは唇に指を当てて、無邪気な笑みを浮かべた。

 ボクとアリスは時間を忘れてキスに夢中になった。

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