2歳になるあーけーてーおばけが、禁断のアレを開けてきた!
我が家にもあーけーてーおばけがいるのです。
深夜の変なノリのまま、勢いで書いて投稿しました。
駅から15分の新開発地区に出来上がったピカピカのベッドタウン。
そこには大きくないが、新築で駐車場付きの家。猫の額程度の庭もついている。
ローンは35年だが、実際は10年で返したいところ。
そんな我が家には最近、2歳になる“あーけーてーおばけ”がいる。おばけと言っても小さな足が2本ちゃんと生えている。
言葉が出始めた息子は、何かと持ってきては、子どもらしからぬ低い声で「あーけーてー」とゆっくり言うのだ。
それ以外の時は可愛らしい声だな、と親バカと分かっていても、顔を大きく崩して微笑んでしまう。
なのに、この時だけは呪文のごとく「あーけーてー」と連呼するのだ。
おもちゃの小さな紙箱を持ってきて「あーけーてー」。
パカッと開けてあげる。
支度中のキッチンから拝借したヨーグルトの蓋を「あーけーてー」。
また、パカッと開けてあげる。
次第に増える「あーけーてー」に、俺は“あーけーてーおばけ”と心の中で名付けた。
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「あーけーてー」
今日も“あーけーてーおばけ”が忍び寄ってくる。
「あれ? お菓子の袋開いてるじゃん。自分で開けたの?」
200円位して4連になっている袋菓子。
2歳の息子には開けられそうにないが、袋菓子からは中の揚げ菓子が顔を見せている。
「あーけーてー」
息子が両手でペットボトルを持ってくる。
パカッ
「えっ!?」
ひとりでにペットボトルが開いた。
息子は何かに開眼したのか、“開けゴマ”のように“あーけーてー”の呪文を使い始めた。
部屋を見渡すと、昨日受け取った宅配荷物の小さな箱。
それを息子に渡すと、両手で抱えた箱をじっと見ている。
「あーけーてー」
パカッ
やはり、箱が勝手に開いた。
その箱の中を覗いて、歯ブラシを持ってくる。
「あーけーてー」
パカッ
幼児用の歯ブラシの使い手に大人用はまだ早い。
しかし、それを取り返す前に息子は口の中に入れてしまった。
「あちゃー」
俺は悔しそうに声を上げた。
息子はつまらなそうに口からすぐに出して、ぽいっと捨てた。息子のよだれまみれの歯ブラシは床に転がる。
「あっこら」
そんなことを言いながらも、巧みをし始める俺。
「よし、お散歩に行こう。帰りにジュース買ってやるからな」
「おさんぽ、いくっ!」
俄然やる気の息子。
靴下は履かない。
靴は自分で履かせろの攻防戦にようやく勝利。
スタート地点から10メートルで、早くも躓き、石を拾い始める息子。
「見てみて! うわぁっ、あれなんだろう!?」と謎のオーバーリアクションでバスへの誘い込みに成功。
手を繋ぎながら駅前のコンコースにたどり着くと、ビルも増えて行き交う人も多い。
息子は何が開けられるのか。
それが気になって人混みまでやってきたのだ。
息子は新鮮なのか顔を色んな所へ向けて忙しそうだ。
「あーけーてー」
呪文が始まった。
「うわっ財布が勝手に開いた!」
近くで上がった声を追うと、中年のおじさんが驚いていた。
──
「あーけーてー」
今度はどこだ?
「きゃっ」
近くのお姉さんのズボンがオープン。
これはなんともラッキースケベ、いやいやけしからん!
息子を盾にして、お姉さんの方をちらりと見る。
──
「あーけーてー」
今度は──。
それは社会へと繋がるけど、公共の場では開けてはいけない窓!
「おまわりさーん!!」
近くの人が大声で呼んじゃった。
おっさん、勝負パンツだといいなぁ。
その後も続く恐ろしい呪文。
「あーけーてー」
どこがあいた?
「あっスマホのロックが117年23時間47分だったのに、開いたー!」
息子と俺は盛大な拍手!
「あーいーたー!」
息子も達成感。
「あーけーてー」
「ポテチが勝手に開いちゃった」
謝りに行くついでに、ポテチをもらう。
うん、美味い!このバター、幸せなやつ!
「あーけーてー」
「あっ彼ピのスマホ開いちゃった。この女誰よ!」
「このおんら、だれよ」
「こらっ、真似するんじゃない!」
怖いお姉さんに睨まれる俺。
「あーけーてー」
「同性もありかも!?」
違う扉開けちゃってごめんね。
俺は息子を抱えてダッシュ!
「あーけーてー」
「わぁ、札束がいっぱい!」
ATMを使っていたお兄さんが嬉しそう。
「いっぱい、いっぱいだねー!」
「本当に駄目なやつ! 行くぞ!」
「おかねー銀行ごーとー」
「物騒なこと言うんじゃない」
俺は息子の力に怖くなり、お腹を抱えてバスに乗り込んだ。
ジュースを両手に満足そうな息子。
飲み終わると、また呪文が始まる。
「あーけーてー」
「あれっ?」「あいちゃった?」
「んん? よく聞こえんのう」
メガネケースを開けたり、知恵の輪解いちゃったり、おじいちゃんの補聴器から電池が飛び出てきたり──。
いろいろとあったが、ようやく家にたどり着いた。
「もうここまで来たら大丈夫だろ」
目の前には我が家の玄関。
10年連れ添った妻には隠すことは何もない。
もう何を開けられても、困ることはないのだ。
そう安心して玄関の扉を開けた。
いや、1つあった。
絶対に開けてはいけない、禁断の“アレ”の存在を──。
俺は息子の口を塞ごうと躍起になった。
たまたま出てくる我が家のかかあ天下。
「おかえりー、またジュース買ったの?」
「あーけーてー」
「待ったぁぁあぁあぁあ!!!」
玄関にある郵便ポストの底に外から張り付けてあったものがポロリと落ちる。
「まぁ!」
声を上げる我が家のかかあ天下は、“それ”にロックオンした。
封筒からはみ出たのは、俺が長年大事に大事に育ててきた“へそくり”だった。
───────────────
その後。
我が家のかかあ天下はプロポーズをした時のような煌めく瞳をこちらへ向けて、没収。
少し厚みの減った封筒が返ってきた。
「今日は焼肉よ!」
わーい!
今年の夏休みはめでたく沖縄旅行に決まった。
ひゃっほぉーい!!
って、俺の金か。
我が家は今日も平和です。
「あーけーてー」
⋯⋯やっぱり平和じゃないかも。
お読みいただきありがとうございます!
笑ってやってくださると、嬉しいです!




