205_真里姉と託された物
ダメージから復活するために、マレウスさんはいつも以上の時間を要した。
息の合った連続攻撃をあれだけ食らったのだから、無理もない。
むしろ立ち上がれたのが不思議なくらいで、事実あのギルスが珍しく褒めていた。
ただ多少影響はあるらしく、記憶に若干の混濁があるようだった。
「酷く恐ろしい夢を見た……車の正面衝突に巻き込まれ続ける、そんな身の毛がよだつような夢だ」
「それは恐ろしいデスネ」
思わず片言になる、私。
ここに鏡がなくてよかった。
マレウスさんは今、顔がパンパンに腫れ別人のような有様になっている。
そんな姿を目にしたら、夢から醒めてしまうからね。
悪夢みたいな夢を見たままなのと、どちらがいいのかは判断に迷うけれど……。
「クランの全員が揃っていますし、箱の中身を一緒に確認しませんか?」
空気を変えるように、努めて明るく提案する。
するとさっきまでの荒れっぷりから一転、カンナさんとルレットさんが喜色を露わに反応した。
「あら、気にはなっていから嬉しいわ!」
「あの人がマリアさんだけに託した物ならぁ、凄いのが入っていそうですねぇ!」
よし、無事空気を変えることに成功。
マレウスさんも何か言いたそうにしていたけれど、口をパクパクさせ言葉には出ないようだった。
空気を読まず興味の赴くまま口にしたのがあの惨劇に繋がったことを、本能的に理解しているのかもしれない。
「では開けますね」
皆に見守られながら、箱を開ける。
中に入っていたのは、青く透き通った丸い珠。
手に取り確認すると、説明にはこう書かれていた。
【彼岸の奇魂】
持ち主を真に望むものへと到らせる、知を宿した物体。
無限の可能性を秘めている反面、扱うものに極めて高い知性を要求する。
並の物との組み合わせではその真価を発揮することはない。
どこか既視感のある説明と、“魂”という文字。
ギルスに宿る【厄災の荒御魂】と同じような物かな?
ただ容易には扱えそうにないし、どうしたものだろう。
途方に暮れる私とは対照的に、説明文を見た三人の反応はやる気に満ちていた。
「随分と俺達を煽ってくれるじゃねえか!」
「高い知性に並の物、なんて言われたらね!!」
「私達の本気を見せる時ですねぇ!!」
溢れ出る闘争心。
これはギルスの時のように、しばらく離れにお籠もりコースかな?
後でレイティアさんに伝えておこう、皆がまた空腹で倒れないように。
差し入れは何がいいかと考えていたら、背後から肩を掴まれた。
ただならぬ気配にぎこちなく後ろを向くと、そこにはエステルさんが。
細められた目、適度に持ち上がった口角。
一見すると、慈母のような微笑みを浮かべている。
ただ隠しきれない威圧感は凄まじく、ヴェルはおろかギルスでさえたじろいでいた。
無言で手を引かれ、エステルさんの部屋へ誘われる。
誰か止めてくれないかと、一縷の望みをかけ皆を見たけれど、目が合うことはなく。
王様にいたっては既に姿を消していた。
いつの間に!?
驚く合間にも歩みは止まらず、私は教会の奥にあるエステルさんの部屋へ着いてしまった。
入るなり、カチャリと扉に鍵がかけられる。
決して逃がさないという、意志を示すかのように。
その後エステルさんの激情が収まるまで、私はひたらす天井の染みを数えていた。
(マリア:マリアネーター Lv50)
カルマ(王都) 170,000 → 200,000
カルマ(帝都) 70,000
カルマ(海都) 130,000
ジェイドさんから託されたせいだろうけれど、リベルタのカルマが十三万も増えている!?
王様もなんでこっそり三万加算しているんですか!!
合計四十万というカルマを前に、私は本日二度目の“途方に暮れる”を味わった……。




