203_真里姉と続く日々
桜の下の邂逅を経た、数日後。
込み上がる想いの一つ一つ向き合っていると、私の心は次第に凪いでいった。
それもこれも側で見守り、時に分かち合ってくれた真人と真希のおかげだ。
私独りでは、泣き暮れて心の整理がつくのにもっと時間がかかったと思う。
「御影さん達との約束を果たせたことを含め、ほんと二人には感謝しかないね」
噛み締めるように呟き、ふと脳裏に浮かんだのはMebiusの皆のこと。
思えば久しくログインしておらず、あちらでも心配を掛けているかもしれない。
そう思ったら居ても立っても居られず、私はその夜ブラインドサークレットを装着し、Mebiusの世界へ降り立った。
ホームの自室で目覚め時刻を確認すると、朝の八時を回ろうとしていた。
この時間、いつもなら食堂を開くために階下からレイティアさんやライルの声が聞こえてくるはずが、しんと静まり返っている。
何かあったのかと考え、直ぐ私が原因であることに気付いた。
唐突にログインしなくなったため、作り置きした料理が切れたに違いない。
提供する数を調整するといっても、限度があっただろうしね。
「ちゃんと謝ろう、でもその前に……」
まずはこの世界での家族を喚ぶことにした。
現れたギルスとヴェルは、ほんの少し戸惑った様子を見せた後、私の姿を確認するなり、駆け寄ってきた。
「マリアっ!」
「ピヨっ!!」
体ごと抱きしめてきたギルスに、ギルスの肩から私の肩へ飛び乗り、頬を寄せてくるヴェル。
籠められた力の強さから、二人の気持ちが伝わってくる。
「心配掛けてごめんね」
溢れそうになる感情を堪え口にすると、二人は何も言わずただ微笑んでくれた。
気にするなと、言葉なく告げて。
現実でもMebiusの世界でも、私は家族に恵まれている。
感謝の念を新たにし、二人の手に自分の手を重ねた。
ありがとう、という呟きと共に……。
その後少しして、私達は階下へと降りた。
いつも調理するカウンターへ向かい、クラン共有のアイテムボックスを確認すると、やはり作り置きした料理が無くなっている。
にも拘わらず、よく使う食材は豊富に収められていた。
まるで、いつ戻ってきてもいいかのように。
「……沢山作ろう、不在にしていた分も含めて」
目元から溢れる雫を拭い、私は定番のカスレを作ることにした。
何も言わず、ギルスが調理に必要な道具を用意し始め、ヴェルは白インゲン豆を凝視し、未成熟な豆を取り除いてく。
ただ嘴で突く姿はつまみ食いしているようにしか見えず、私は笑いを堪えるのに必死だった。
一生懸命手伝ってくれているのだから、笑ってはいけないよね、うん。
【下拵え】や【促進】のスキルを使いつつ、いつも以上に丁寧な仕上がりを心掛ける。
より美味しく、喜んで食べてもらえるように、と。
やがて煮込まれたカスレのいい匂いが漂い始めた頃、どこからか扉の開く音が聞こえた。
鍋を覗き込み仕上げをしていた顔を上げると、離れから入ってきたルレットさんが、目を見開き驚いていた。
私も突然の再会に驚き、固まってしまった。
ただそれはルレットさんも同じらしく、見詰め合って数瞬の後。
「「ふふっ」」
と同時に笑いが漏れた。
おかげで固さが解れ、伝えるべき言葉がするりと口を出る。
「ただいま、ルレットさん」
「お帰りなさい、マリアさん」
緋色の目を優しげに細め、返される。
するとその遣り取りを見計らっていたかのように、ルレットさんの後ろからカンナさんとマレウスさんも姿を現した。
カンナさんには抱き付かれ、マレウスさんからは『一言くらい残せ』と叱られたけれど、私を見る二人の目に安堵の色が浮かんでおり、無性に嬉しくなった。
確かな居場所を、皆の中に感じることができて……。




