婚約交渉。
「マリア嬢と婚約をお願いします」
「・・・ああ、良いだろう」
ラフィスタ辺境伯別邸、応接室にはクロード・ラフィスタ辺境伯、ソフィア辺境伯夫人、ギルバート・ルクシード伯爵、アイシャ伯爵夫人、そしてガウェインが膝を突き合わせて話をしていた。
内容はマリアとガウェインの婚約についてである。
ガウェインが居住まいを正してクロードに婚約の申し入れをした
返事は是、あまりにあっさり許されたのでルクシード伯爵家側は皆驚いている。
「クロード殿、良いのですか?」
「意外ですか? ギルバート殿」
「そうですな、まさかとは思っています」
「大事な娘の婚約について考えているのは昨日今日の話ではありません、私達ラフィスタ家が望むのはマリアの幸せのみです」
「マリアがガウェインさんのプロポーズを受け入れ私達に報告した、失礼かと存じますが此方ではガウェインさんとルクシード伯爵家について隅々まで調査させて頂きました」
「いえ、マリアさんの身上を慮れば当然の事ですわ」
全員が頷く、マリアの立場である神子はそれだけ配慮しなければならない
「だが、全く無条件とはいかない」
「それは勿論ですとも、それで条件とは?」
「まずはガウェイン殿、騎士団を辞めていただきます」
「・・・はい」
「そして、ラフィスタ家に婿入りしていただく」
「なんとっ」
「まあ」
マリアの穏やかで幸せな生活を考えるとガウェインに選択肢は無い。
ラフィスタ家は力を持ち過ぎた
その為、権力の中心地である王都に居を構える訳にはいかない、辺境で静かに暮らすのが1番簡単で国のバランスを取りやすい。
マリアを妻に貰ったガウェインが騎士団の副団長、行く行くは騎士団長にも成りうる人間が城に居ては要らぬ争いを呼びかねなかった。
ラフィスタ辺境領地に居を構えるならばラフィスタの名を冠していた方が都合が良い、その為には婿入りしかないのだ。
ガウェインもその辺りは予想していたし、覚悟もしていたので問題はなかった。
「無論、こちらの都合なので相応の立場と職は用意させていただく」
「具体的には?」
「討伐隊隊長、または領の一部の代官か辺境伯代理、次期辺境伯のロイドの片腕になっていただきたい」
「っ!」
ルクシード伯爵家側は皆、息を呑む
破格の条件だった
それだけにどれだけ娘マリアを大事にしているか分かった
ギルバートはガウェインと視線を合わせると、無言でガウェインは頷いた
「ルクシード家としましては有難い話です、宜しいので?」
「構いません、ですが騎士から討伐隊は兎も角、代官や代理に関してはこのままとはいきません、此方の領主教育を受けて貰います」
「宜しくお願いします」
クロードは頷くとベルを鳴らして人を呼ぶ
「ガウェイン殿をマリアの部屋に案内してくれ、待ちわびているだろうからな」
「はい」
「詳細はギルバート殿と詰めさせてもらう、ガウェイン殿」
「はい」
「娘を、マリアを頼む、幸せにして欲しい」
一度言葉を切ってクロードとソフィアは立ち上がり頭を下げた。
辺境伯がたかが伯爵家の次男坊にする礼儀としては過分だった、ガウェインはピンと背を伸ばしてまた頭を下げた。
「必ず幸せにしてみせます」




