神子と薔薇の花束②
ガウェインさんと庭園をゆっくり回る
流石王城、見たことの無い花や植物も多い
他国からの贈り物や遠い地から持ち帰ったものも沢山、そういったものは配られずに丁寧に植え替えされるらしい。
戴けるのは一般的な植物で数があるもの
薔薇園もあるのでそういった花束を持った人と多くすれ違っている。
「あっちで花束を作って配っているみたいだ」
「はい」
エスコートされて、人の多い方へと向かう
大きな薔薇園だ、赤、橙、黄、青、色々な薔薇が咲き乱れていた
そこでは小さな令嬢がブーケを作って貰っていたり、夫人は1輪だけ胸元や髪に飾ったりと、とても賑わっている。
それと、
「あれ? 意外と男性が多い?」
そう、女性も居るには居るけど男性の方が圧倒的に多い
貴族の当主のような格好の人、子息、騎士と
老いも若きもといった感じで半数は男性が花を受け取っていた。
「妻や婚約者、恋人に贈ろうとしているみたいだ、城の薔薇と言えば特に喜ばれるからな」
「恋人・・・」
「あ、ああ、俺も、いや俺はどうせなら一緒に庭園を鑑賞した方が良いかと思って、だな」
「はい・・・」
何だろう、最近は本当に婚約者とか恋人という言葉をよく聞く。
マリアがガウェインを憎からず想っている事も
ガウェインがマリアを口説いている事も
周囲の人間にとっては常識になりつつあるのだが
マリアが気持ちを意識してからは「好き」と軽々しく言えていないし
ガウェインは口説いているつもりで相応の贈り物をしているが、こちらはこちらで「好き」「愛してる」などの直接的な物言いをしていない為、互いに膠着状態になっていた。
マリアは顔が赤くならないように静かに息を整え
ガウェインは自分が発した言葉に自分で動揺していた
「妻や婚約者、恋人に贈ろうとしているみたいだ、城の薔薇と言えば特に喜ばれるからな」
などと言って、マリアを庭園に誘っているのだから
告白同然の事を口走ったと・・・
若干の気まずさを周囲の賑やかさと花の香りにお互い気を逸らし、やはり手は離さずに薔薇の園を見ていく。
ふとガウェインさんが、ある庭師の人に声を掛けた
「頼んでいたものは?」
「勿論、へへへ旦那も隅に置けねえな、こんなに可愛らしい恋人を連れて」
「・・・それは、良いから」
こ、恋人・・・
「マリア、ちょっと待っててくれ」
「え?はい」
ガウェインさんは近くにある生け垣の裏に行ったかと思うとすぐに戻って来た、両手にはいっぱいの薔薇の花束を持って。
「実は知り合いに頼んでいたんだ、流石にこの本数だと時間が掛かってしまうから」
「凄い、綺麗・・・」
目の前に差し出された薔薇は生気に溢れ、たった今摘まれたかのような瑞々しさがあった。
花束を受け取ると視界いっぱいの薔薇と、見上げた所にあるガウェインさんの顔しか見えない・・・
ガウェインさんの両手にいっぱいの薔薇の花束なので
私にとっては両手いっぱいどころの騒ぎじゃない
両手いっぱい、胸いっぱい。
「少しキザかなと思ったんだが・・・」
「いえ、嬉しい、です」
ポリポリと頭をかいて照れるガウェインさん
照れるといつもは太陽の方を向いて目を逸らすのに
今日ばかりは違って、真剣にジッとオレンジの目と合う
そして躊躇いがちに口を開いた。
「マリア、良ければ俺とこん「ガウェインさまぁ!どうして近衛騎士のお話断ったんですかぁ?」
途中、横から突然割り込んで来た人影に、言葉は続かなかった。




