聖女①
私の名前は有栖、ある日異世界転移した先で「聖女様」になったの!
最初は戸惑ったけど、この世界は最高だった。
王子様が私を聖女様と呼んで、まるでお姫様の様に扱ってくれた
どうやら「聖女」は特別な立場で凄いみたい、国王様でさえ敬語を使っていたからそういう事よね!
最初は帰りたいと思っていたけどスグに私は考え直した
だって「勉強しろ」って口煩く言うお父さんもお母さんも居ない
好きに寝て、美味しいものを食べて、綺麗なドレスを着るまあ慣れるまでは窮屈だったけど・・・
宝石は勝手に増えて行くし、教会のおじさんは毎月ズッシリと重い金貨袋を置いて行く。
最高の世界だ。
魔法で怪我人をサッと治しただけで褒められる
私の光魔法は普通の人より強力で
お城の人が治療に数分掛かる怪我も数秒で治せる
でも血塗れとか脚がなかったり腕がなかったりする人は無理!
汚いし、気持ち悪い・・・
多分治そうと思えば治せるけど、第一王子のコーディーは
「無理をすることは無い」
って言ってるからいいよね。
それにしても騎士団って筋肉ムキムキで怖い顔の人で怪我人ばかり、私の周りに居る騎士は綺麗な顔でカッコよくてスラッとしているのに怪我は全くしない。
きっと私は特別だから恰好良くて強い騎士が付いているのね!
そう言えば私専属の侍女タチアナ
彼女は男爵令嬢で貴族でありながら庶民にも近く、日本では普通の家庭で育って来た私に此方の世界、国の常識を教える役割を持っていた。
でもタチアナは私に向かって早く起きなさい、とか
好き嫌いしてはいけません、とか、事ある事に煩かった。
分厚い本を持って来て、やれ勉強致しましょう。
マナーを、ダンスを、とうるさい・・・
宝石が増えると、受け取るならお礼状を、あっちは受け取るな!こっちは大丈夫。
教会の金貨は絶対に返すべき
怪我人の治療は1週間に1度でなくて少人数でも毎日するべき
最後の方には「王子には婚約者が居るので二人きりで会ってはいけません」なんて言い出した、本当にうるさい!
違う侍女が言う、こっちは伯爵令嬢だっけ?
「タチアナは所詮貧乏男爵家の行き遅れ、なんでも手に入れたアリス様に嫉妬し嫌がらせしているのですわ」
「そうなの?」
「ええ、ねえ皆様?」
他の侍女も同意していた、そうなんだ!
だからクビにしてやった、すると・・・
「アリス様、貴女様は15歳、この国においては成人の定義に入りますが貴女は未熟です、何故宝石を贈られるのか、何故金貨を贈られるのか、ドレスも食事も無料ではありません、ご自身の行動が他人から見てどう思われるのか理解するべきです」
と最後まで小言を言い、去って行った。
なんなの!?
アリスは気付かない
笑顔でいる隣人が腹の底では何を考えているのかなんて
思春期に親元から離れ、大人に傅かれて贅沢を知った彼女は知らず知らずに変わって行った
無償で得られるものなんてないと言うのに
日本で15歳まで育った彼女は、この異世界の15歳の中では遥かに幼かった
貴族なら相応の教育が終わり責務を知っている
平民なら10歳前後で働き始めるのもザラな世界で
苦労を知らないアリスは王国貴族の生活に触れた事で少しずつ歪んで行った。




