ヴェリルナイト王家②
神子様が重傷者の騎士をその日の内に治してしまった。
その代わり魔力欠乏症に陥り倒れてしまったが・・・
城にあるA級、B級、C級の回復薬でも治せない怪我を負った騎士達、唯一の希望、霊薬は尽きている。
光魔法のヒールでも治しきれない
時期が悪く、強力な治癒の使い手である聖女も居ない事でただ死を待つか、手脚を失い重篤な後遺症を抱えて生きるしかない者達。
いや、時期が悪いのではない、聖女は神子様が王都に来るに当たって遠ざけたのだ。
その間の悪さは3年前からの神子様と聖女の因縁なのかなんなのか苦笑するほか無い。
「頭が上がらぬな・・・」
「マリアさんの事?」
「ああ・・・」
「仕方ない、とは言いませんが、巡り合わせには感謝せねばなりますまい?」
「巡り合わせなどと不確かなものより、マリア殿には最上の感謝をしなければなるまい」
「そうね」
「で、どう見る」
「いい子だと思いますわ、そして3年前のクロード様の判断は間違いなかったと思います」
「ふむ・・・、息子達はどうか?」
「第一王子コーディーはダメでしょうね、聖女に傾倒していますし教会派に近過ぎます。
第二王子は独特な完成を持っているから顔を合わせないとなんとも・・・
第三王子ケビンは、まだ子供ですから話になりませんわね」
妻であり母のエリステラ、実の子の評価は辛辣で頬が引き攣るシルヴェスター
だが同様の事を考えていたので首肯する。
こと、神子様に関しては王族であろうと私情を捨ててあたらねばならない、身内贔屓で何かあってはならないのだから。
「婚約者の居ない、年齢の近くて問題の無い子息はどれだけ居る?」
「公爵家に5人、侯爵家に2人、伯爵家に20人程ですかね・・・」
「お待ちになって!嫡子を除き、かつ年上で第一第二の騎士が良いと思いますわ」
「ん?どういう事だ?」
「貴族の家に入れば均衡が確実に崩れます、かと言って国外には出せません。
マリアさんは見た所、姫らしい姫といった性質を持っています、欲は無く、純粋なそれは絵巻物の中の姫と言っても良いくらい。」
「確かに、欲は確実に無い、いや薄いか、または・・・」
「『神子』の立場を既に自覚為さって居られるか」
だとしたら、それこそ本当に頭が上がらない
生粋の王族でさえ10歳ではその域に達しないのだ
神子様は7歳まで庶民、こちらの世界に来てたったの3年
となれば、
「本人の元々の性格か、・・・それで?」
「ひと目会っただけですからラフィスタ家と話し合う必要はあります、何より御本人の気持ちが最優先が大前提ですが。
『神子様』を守りたいと考える騎士は多いでしょう」
「ああ」
「そういう事ですか」
神子の活動は定期的に公表している
魔瘴の森の討伐に参加している事で騎士達は最低でも尊敬はしているし、今回の重傷者の治療は更に彼女の敬愛へと繋がるだろう。
最初から良好な関係は築きやすい
そして各家の均衡を考えると嫡子は除く
伯爵家以上なのは後ろ盾としてそれだけの格は必要だから。
男爵、子爵では少し弱い、平民では言わずもがな・・・
勿論本人の気持ち優先になるのは確かな事であるが、高位貴族である方が安心だ。
ラフィスタ辺境伯家は名家、先代神子様の血筋でもあるし100年単位で国の防衛を担ってきた家と釣り合いは出来るだけ取らなければならない。
年上と言うのは、二つ返事で騎士の治療を受けてくれたマリアを心配した王妃の心遣いだ。
まだ子供なのでこれから賢く大人になる事である程度は何とかなるが、優し過ぎるそれは利用されやすい
ならば伴侶が年上で頼れる人物が良いだろう、頭が回るなら尚良し。
「中々敷居が高いな・・・」
「ですな」
「そうね」
うーん、と国王、王妃、宰相は頭を悩ませる。
嫡子とは、つまり次期当主を意味するが、それは長男と言う訳では無い
基本長子継承ではあるが、優秀であればそちらを当主にするのは貴族の世の常。
そうなれば、神子に宛てがわれるのは2番手以降になるのは明白なのだ。
神子様と縁続きになれるなら!と最も優秀な子息を差し出す家も出て来る可能性はある
しかし、そんな利益目的の家に神子様は任せられない
伯爵家以上で、出来るだけ優秀、かつ利を度外視して神子マリアを見れる騎士。
片手で足りる人数しか居ない・・・
「せめて近衛騎士からも選べたら・・・」
「近衛では話になるまい?」
「聖女殿との関係も難しいですからね」
近衛騎士団は城での王族の警備が主。
聖女召喚されてからは聖女もその対象に入っている
第一王子のコーディーが責任者として聖女の世話を焼いているが、その聖女が問題になっていた。
聖女が第一王子を気に入った、そこは良い
聖女と言う立場だけで十分王子妃には成れる。
だが、近衛騎士も気に入っているのか懇意にしていると影からは報告があった
近衛は王族の警備、各種儀式や公式行事の場を任される性質上、皆高位貴族の子息なのだ。
詳しく調べてみると、聖女、近衛騎士共に便宜を図るような関係になっているとかで政に影響を与えている
そして聖女の最大の後見人は教会、聖女召喚時の技術協力に教会が入っていたのでどうしても排除出来なかった、そう教会の干渉が国政に入り始めていた。
頭の痛い事である。




