レジスタンスに会いに行こう
リヒトの案内により、俺達は城壁の抜け道を使って街の中に入った。
無数の削り出した岩を組み上げて作られた堅牢な城壁だが、リヒトはせっせとパズルのように石壁を解体していく。
暫くして出来たのは人一人が腰を屈めて入れるような丸い入り口だった。よく崩れないものだが、城壁の耐久性は間違いなく下がっているだろう。
もし、この城壁が破壊されてこの国が滅んだら、間接的に元奴隷達の復讐は成功したと言えるのではなかろうか。
「……そういえば、遥か昔にもコンクリートみたいな建材があったと思うけど、今のところ見てないな」
そんなことを思ったり呟いたりしながら、俺達は街の中に入る。
が、そこで問題が発生した。
小さな抜け穴ではA1達が入れなかったのだ。二体の大きなロボットが懸命に身を屈めている様は涙を誘う。
「……ゴーレムは外で待たせたほうが良いだろう」
「だ、大丈夫でしょうか」
アイファの一言にエイラが不安そうな顔をしたが、ユーリがぽわぽわと笑顔を向ける。
「アイファ様もおられますし、微力ながら私もおります。何より、大魔術師であられるタイキ様がご一緒です」
ユーリが説得すると、エイラはホッと胸を撫で下ろした。
「そ、そうですよね。タイキ様がいらっしゃるのに、私ったら」
照れ笑いを浮かべてこちらに一歩近づくエイラ。
すみません。俺も守ってもらう側になりたいのですが。
そう言いたいのをグッと堪え、アイファとユーリを見る。
「お二人が護衛してくれるなら大丈夫ですね」
「任せてもらおう」
「はい」
良い返事が返ってきた。一安心である。
「A1、レティシアさんのところで待ってて。もし危ない奴がきたらしっかりレティシアさんを守るんだよ?」
振り返ってそう告げると、A1は穴の向こう側で這いつくばったまま、項垂れるように首肯した。
そして、二体連れ立って立ち去っていく。
「……離れてても動かせるんですかい。流石はタイキ様だ」
その様子にリヒトが感嘆の声をあげる。エイラが自慢げに話したことにより、リヒトも俺が大魔術師であると誤認してしまっていた。
誤解は解きたいが、ロボットについて深く説明出来ない為保留としている。
リヒトは「タイキ様は凄い人だ」などと興奮気味に呟きながら城壁の穴を手慣れた様子で補修していった。ぽんぽんと石をはめ込んでいく割に、かなり綺麗な仕上がりである。恐らく、本当にパズルのように形や色ごとに石をはめる順番があるのだろう。
そんなことを考えていると、あっという間に城壁は元どおりに復元された。
「お待たせしました。さぁ、こちらです」
リヒトがへこへこしながら先導し、歩き出す。
穴が空いた城壁にばかり気を取られていたが、周辺の景色は酷いものだった。
まさに貧民街と言わんばかりの、いや、それ以上の有様である。
城壁のすぐ近くまで転がる崩れた建物の瓦礫。異臭を放つ謎のゴミやボロ切れ。砕けたりヒビ割れたりしている石畳の隙間から生えた雑草も伸び放題。
かろうじて人の死体が無いだけマシだろうか。
そんな悲惨な場所をリヒトはすいすいと歩いていく。
細く汚い路地を曲がって、進んで、曲がって、気がつけば今自分がどちらの方角を向いているのかも分からなくなってきた頃、リヒトが立ち止まった。
「……リヒトか。誰だ、そいつらは」
声がして、路地の奥の曲がり角から男が三人、姿を現した。まるで暗殺者のように暗い色合いのローブを着た男達だ。痩せた顔つきだが、眼はギラギラと薄暗い光を放っている。
「喜べ! タイキ様とその配下たる皆様だ。我々に協力してくださるぞ!」
リヒトは興奮気味にそう答えた。男達に対するその回答は、どう考えても仔細足りず、そして不自然過ぎた。
リヒトの言葉を聞いた三人は無言でローブの下から短剣を出し、構える。ローブの下には使い込んだ様子の鎧が着込まれていた。
「……リヒト。お前が数時間前、貴族らしき者達に連れて行かれたという話は聞いている」
「誑かされたか」
「それとも、何かの薬か」
男達は口々に問いかけながら、少しずつこちらとの距離を潰す。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は操られたりなんかしていない! こちらの方々は、本当に良い貴族なんだ! 俺達の標的のクソ野郎共とは違う!」
慌ててリヒトが声をあげるが、三人は一切警戒を緩めなかった。
「面倒だ。風の魔術で吹き飛ばすか」
アイファがぽつりと呟き、俺は腕を組んで溜め息を吐く。
「ここで争っちゃうと、後々に響きそうだ。出来たら説得したいけど……」
そう言って三人の男とリヒトのやり取りに意識を向けるが、意見はどこまでも平行線をたどっている。悩んでいると、アイファは片手を男達に向けて口を開いた。
「怪我をさせないように注意する」
早々に諦めたアイファが魔術の準備に入った。すると、三人の男も一気に緊張感を高めて動き出す。
「魔術師だ!」
「油断するな!」
「一気に行くぞ!」
一触即発。いや、最早導火線に火が点いてしまった状態だろうか。
そう思ってこれから起こるアイファの無双劇と、その後のボロボロになった三人の男達のケアを考えていると、路地の奥から別の人物の声がした。
「ま、待つのじゃ!」
その声に三人は動きを止め、アイファも詠唱を中断する。
「レイの爺さん」
リヒトが名を呼ぶと、声の主はゆっくりと奥から歩いてきた。何処かで見た、みすぼらしい衣服を身に纏った老人だ。
「あ、お爺さんは」
思い出した。パンを盗んだと言われ、厳つい男達に蹴られていた老人である。俺が思い出したことを察したのか、レイと呼ばれた老人はこちらを見つめながらふらふらと前に出てきた。
レイは、俺の前に立ち、深々と頭を下げて口を開いた。
「あの時は、本当に助かりましたわい。ワシは、あのままあの場で殺されると思って……あの野蛮な輩を倒してくれたばかりか、治療までして頂いて……」
「いえいえ、お気になさらず」
何度も頭を下げるレイに日本人的返事をしていると、リヒトがハッとした顔で三人の男達を睨んだ。
「ほら、見ろ! レイの爺さんまで助けてもらったのに、お前らはまだ剣を向ける気か!?」
怒鳴られ、男達は顔を見合わせてから剣をローブの下に隠した。
そして、何とも複雑な顔で三人がこちらを見て、頭を下げる。
「……申し訳なかった」
「良い貴族がいるなんて、信じられず……」
「あんたみたいな貴族もいるんだな……」
三人の何とも言えない謝罪に苦笑しつつ、俺は争わずに済んだことを内心喜んでいた。




