レジニシオン商会
レジニシオン商会はピンからキリまでの様々な奴隷、武具、日用品、食材、衣服、更には馬や馬車まで扱う百貨店のような大きな商会だった。
まだ不動産などの分野は進出していないらしいが、今後は土地や建物の権利を持つ王族と渡りをつけ、仲介業みたいなこともしたいらしい。
応接室でレジニシオン商会の大まかな説明を受け、成る程と頷く。
「我が商会はインゲ伯爵様やソラーマ子爵様、他にもビンズ公国のアモンド侯爵様とも長くお付き合いをさせていただいております。その為、王都の外に関しては国内最大規模の商会と自負しております。しかし、いかんせん王族の絡む奴隷達は全てコシュマール商会が独占していますから、中々これ以上王都で力を持つことは出来ません」
と、残念そうに呟き、ラービアは厳しい顔を更に陰気臭くした。
どうやら、戦争捕虜や奴隷落ちした他国の王侯貴族、更にはカルルク王国の貴族が廃嫡して奴隷となった者など、過去重要な立場にあった者が奴隷になった場合、先ず王を通し、次にコシュマール商会を通し、その後奴隷オークションに並び、最後にレジニシオン商会などの一般商人の元に卸されるらしい。
何故王族やコシュマール商会を通すのか。それは王族が気に入れば奴隷は王族のモノになり、コシュマール商会の目に留まれば奴隷はコシュマール商会の手によって売られるからである。
つまり、奴隷オークションは残りモノを並べていると言うことだ。
「ん? しかし、今日の奴隷オークションでは随分と由緒正しい方が……」
疑問を口にすると、ラービアは浅く頷いた。
「カテリーナ・ハーフェン嬢。フルーク王国の上級貴族の娘だったお方ですね。彼女の場合は事情が特殊です」
「と、言いますと?」
聞き返すと、ラービアは僅かに声を潜める。
「……カテリーナ嬢は隣国にまでその美貌が知れておりました。なにせ、十二歳の時に大国を含む三国の王族や公爵家の子らから求婚を受けたほどです。 フルーク王国は小国なので、じっくり時期を見極め、最大の効果を得られる同盟を結ぶ為に相手を吟味しました。しかし、あのブラウ帝国の電光石火ともいうべき侵略を受け、隣国の助けを借りる間も無く滅んでしまったのです。まぁ、あの時のブラウ帝国の神がかった侵攻には周辺諸国も慎重にならざるを得ませんでしたからね。どちらにしても助けは来なかったでしょうが」
前皇帝が崩御して助かりましたよ、なんて言いながら曖昧な顔で肩を竦めるラービアに、俺は内心冷や汗を掻きながら軽く頷いておく。
「まぁ、そんな理由で現在内政に掛り切りのブラウ帝国から大量に売りに出された捕虜の中にカテリーナ嬢も居たわけですが、その宝石は大量の石の中にあっても目立ち過ぎました。故に、経済大国とはいえ戦う力は大国に劣るカルルク王国の王族が、そっと最安値で叩き買いするなんてことは出来なかったわけです」
まとめると、カテリーナを狙う周辺諸国の有力者が多過ぎた為、今回はカルルク王国側が遠慮したということか。
まぁ、話を聞く限り他にも見目麗しい元貴族の奴隷もいただろうし、王族側もそこまで無理をしてカテリーナを手にしようとはしないのだろう。
「……それにしても、聞けば聞くほど人間が物扱いで売買されてるんだなぁ……」
辟易しながら小さく呟くと、聞き取れなかったラービアが微妙な顔で首を傾げた。
「と、話が長くなってしまいましたね。それでは、ディエゴ。お礼の品を」
「はい!」
ラービアが指示をすると、ディエゴは二つの長方形の箱を出した。蓋を開けると、中には細身のナイフのような物が鎮座している。
片方はとてもシンプルな直刃のナイフで、もう片方は見事な装飾のされた銀色のナイフである。
「どちらか一つ差し上げましょう。どうぞ、お選びください」
ラービアのセリフに、俺は腕を組む。素材も違うようだし、多分シンプルな方が良いナイフなのかもしれない。
そう思って眺めていると、エイラとユーリが揃って口を開いた。
「珍しいですね。ミスリルのナイフと」
「こちらは銀のナイフですね」
二人が一目で看破したことが意外だったのか、ラービアが目を丸くし、ディエゴが驚きの声を上げた。
「なんと、流石ですね。子爵様でもミスリルはあまり手にできないのですが……やはり、タイキ様は上級貴族の……」
ディエゴのコメントを他所に、エイラとユーリがナイフを観察しながら首を傾げる。
「……でも、こちらのミスリルのナイフ。色が少しおかしいような……」
そう言って、エイラは右手人差し指にしている指輪を見た。
「え!? ミスリルの指輪!? しかも、装飾入り!」
エイラの指輪がさり気なくミスリル製だったらしく、ディエゴが驚愕する。
「私のものとも少し違う気がしますねぇ〜」
そこへ、追い討ちのようにユーリが胸元から一本の短剣を出した。見事な白い鞘を抜くと、豪奢ながら繊細な両刃の短剣が姿を見せる。
「そ、総ミスリルの短剣!? それもなんと豪華絢爛な……王族しか持ち得ないような逸品ですぞ!?」
叫び、ディエゴが泡を吹きそうになる中、ラービアは冷や汗をかきながら無理矢理笑みを浮かべた。
「お、お人が悪い……まさかこちらのお二人が主人であろうとは……いや、言われれば納得の気品でございます。いずれはさぞ立派な御国の王族の方々かと思われますが……」
混乱しているのか、ラービアの言葉遣いがおかしい。そんな様子に苦笑していると、それまで黙っていたアイファが仏頂面で余計なことを口走った。
「失礼な。タイキ様が王であり、この二人は別の国の王族だ」
そんな爆弾発言に、ラービアとディエゴの時間は一時停止したのだった。




