新たな国
光と闇の国、カルルク王国。
国土が狭いながらも様々な国の交易路の中心地として栄え、経済的には大国にも劣らない力を持った国である。
南には大きな湖があり、過去には水の国とも呼ばれていた中堅ほどの国の一つだった。
しかし、隣国が大きくなり、街道が整備されて魔物の被害が減ってからというもの、行商人達が必ず立ち寄る立地のカルルク王国は急激に豊かになっていった。
それに伴い、カルルク王国内での貧富の差も激しくなり、持たざる者への酷い差別が一般の民にまで広まってしまう。
それでも僅か十数年で、カルルク王国の財政は潤い、仕事を求める移民や難民により人口は膨れ上がった。
そして、借金奴隷の数も他国の比ではないほどの割合となってしまったのだった。
光と闇の国。この通称は、経済大国となったカルルク王国の現状を皮肉を交えて付けられたものである。
「……中々大変そうな国だねぇ」
ユーリとアイファからの説明を聞きながら、俺はそんな感想を口にした。
隣に座るエイラとお茶を運んできたメーアも顔色を悪くしている。奴隷になった過去のある二人には一際恐ろしい国だろう。
アイファはそれに静かに頷き、スクリーンを見上げる。
「……奴隷の数が多いだけに、奴隷や奴隷商人の数も、奴隷に付けられる値段の差も多種多様だと聞く。カルルク王国で高級な奴隷は他国では数倍の額になるし、カルルク王国で安い奴隷を探せばゴミのような値段の奴隷が手に入るとも」
「奴隷印の研究も盛んなので、奴隷印の種類も他国の比では無いとのことです。財産としての価値が無くなるので普通ならしませんが、契約者が死んだら一緒に奴隷も死んでしまうような奴隷印まであるとか……」
聞けば聞くほど恐ろしい話に、もはやエイラの顔は真っ青である。
「ただ、移民や行商人が多い国なら、人知れず見に行くのは簡単かな? 街の外にも人が溢れてるように見えるくらいだし」
スクリーンに映る映像を見てそう言うと、アイファが軽く頷いた。
スクリーンには大きな城壁に囲まれた街が映し出されており、その中心にはまるで塔のように背の高い城が建っている。中心に行くほど土を盛ってあるのか、城の周囲を取り囲むような形で背の高い建物が並び、その周りには一段下に建物が並ぶといった形になっていた。
山の斜面に家が並んでいるような街の作り方である。見た目的にはとても面白いが、街の下の方から城を見上げたら威圧感が凄そうとも思う。
「色んな国から商人が来るなら、街の中を歩きやすくした方が良さそうだけどねぇ」
そう口にすると、ユーリが眉をハの字にして首を傾げた。
「それはそうなのですが、やはり様々な人が立ち寄るということは、少々危ない方々も来てしまうということにもなります。なので、王侯貴族や特に裕福な商人は中心である貴族街に、店持ちの商人や騎士団などのそれなりに豊かな民が住む商人街。行商人や奴隷商人、移民などの貧しい民などが住む露店街があり、外から来た者の殆どは露店街までしか入ることは出来ないと聞きます」
「へぇ……じゃあ、あの城壁の周りにいる凄い数の人は露店街に入りきれないから外に?」
そう尋ねると、ユーリは難しい顔で眉根を寄せる。
「いえ、あれは街の中に住むことが出来なかった移民や難民達ではないでしょうか。ヤヌアル兄様が懇意にしているやり手の商人の方もそのような事を申しておりました。確か、二つの交易都市は然程でもありませんが、王都はかなりの通行料を取られてしまう、と」
「うむ。私もそう聞いている。確か、一人につき銀貨一枚だったか。払えない額では無いが、移民や難民には厳しいだろう」
「なるほど」
二人の台詞に成る程と頷く。逆に考えるなら、あまりにも移民や難民が増え過ぎてパンク寸前になり、高い通行料をかけて制限をしているのかもしれない。
と、そんなことを考えながら遠視カメラを操作していると、巨大な門とは別の、扉も何も無い城壁の前に無数の小さな家があることに気がついた。
木材を貼り合わせたような貧相な家だが、その辺りの村の規模よりも遥かに多く建っている。
「王都を囲む城壁の周りには所々に移民が住み着いていると聞くが、あの小屋のような家々がそうなのだろう」
「え? 王都に入れないから外に家を建てちゃったの?」
アイファの台詞に思わずそんな言葉を口にした。すると、これまで黙っていたエイラが悲しそうに口を開く。
「普通の人間は、街から街まで移動するのに命懸けとなります。商人ならば護衛を雇えますが、ゆとりのない民はそれも出来ません。だから、比較的安全な城壁の前に仮の住処を求めたのでしょう。うまく騎士団の出兵などがあれば随行することも出来るかもしれませんが、カルルク王国のような豊かな国は騎士団は各街にあり、大きな移動は無いでしょうし……」
三人の解説を聞き、溜め息を吐く。
モンスターに出くわす可能性の高い森よりはマシだが、荒んだ街もかなり怖い。
いや、アイファが護衛として一緒に行くなら大丈夫なのだろうが……。
悩んでいると、ユーリが微笑みを浮かべてこちらを見た。
「あの街は周辺の国々から流れた様々な品物が売り買いされていると聞きます。私も是非見て見たかったので、タイキ様に御同行させていただきたいです」
ふわふわとした様子でユーリがそう言い、晴れやかな笑顔で返事を待っている。
答えに窮していると、今度はエイラが少し慌てつつ口を開いた。
「わ、私も、タイキ様が行くなら同行したいです! その、奴隷印が研究されているなら、逆に奴隷印を消す方法もあるかもしれませんし……!」
「なるほど」
エイラの言葉に腕を組んで頷く。
微妙に怖いが、アイファに加えてユーリも行くならかなり安心な気がする。
もちろんA1には来てもらうが、エイラも行くならもう一体はロボットを連れていこう。腕利き魔術師二人にロボット二体……いける気がしてきた。
「……よし。それじゃあ、行ってみようか。あ、お金とか持っていかないとね」
そう呟くと、メーアが小走りにエレベーターに向かっていった。そして、暫く待っていると顔の大きさほどの皮の袋を両手に抱えて帰ってくる。
「お金」
満足げな様子でそう言い、俺の前に立つメーア。
「ありがと」
俺はメーアの頭を撫でてそう言い、皮の袋の中身を見た。
眩いばかりの金貨がジャラジャラ入っているが、通行料に銀貨一枚とられるならこれくらいいるのだろうか。
と、頭を捻っていると、エイラが横から覗き込んで眉根を寄せた。
「……貴族街に家を建てられそうな額ですが、こんなに必要でしょうか……」
やはり多かったらしい。だが、指摘されたメーアは意に介さず袋をこちらに突き出す。
「いっぱいあったら何でも買えます。お肉とか」
そう言って瞳を輝かせるメーアに肩の力が抜けた。
「お土産目当てかい」




