決断
【ディツェン】
「ヴィオレットか……何故、お前がそのゴーレム達と一緒にいる?」
皇帝の一言に、場は静まり返る。
いや、タイキ様のゴーレムが少なくとも十体以上現れたのだから、誰もが動けなくなって当然だ。
だが、ヴィオレットの登場のせいでこちらも動けなくなってしまった。
何故、ヴィオレットがタイキ様のゴーレムを?
まさかヴィオレットが帝国を裏切ったのか。それとも、何か問題が……。
ぐるぐると頭の中で考えていると、ヴィオレットは一人で謁見の間に降り立ち、皇帝に向かって歩き出した。
落ち着いた、優雅な足取りだ。先程まで争っていた皆がヴィオレットに視線を奪われ、動きを止めている。
「動くな、ヴィオレット」
だが、皇帝は別だった。
「……はい、陛下」
皇帝の言葉にヴィオレットはピタリと動きを止める。その様子を、皇帝は目を細めて眺めた。
「こちらに背を向け、服を脱げ」
「へ?」
場違いな指示に、思わず変な声を出してしまった。
しかし、場は緊迫したままであり、皆がヴィオレットを注視している。
「はい、陛下」
当のヴィオレットも、謎の指示に薄っすらと笑みさえ浮かべ、皇帝に背を向けた。
躊躇いもなく、するりと服を脱いでいく。
なにやらいけないものを見ているような気分でモヤモヤしている間に、ヴィオレットは一糸纏わぬ姿になっていた。
そして現れたのは見事な裸体と、背中の奴隷印だった。その奴隷印はアイファの背中にあったものと同じものに見えた。
「……奴隷印はそのままだな」
皇帝が一言口にすると、老齢な魔術師が頷く。
「はい、魔力の流れにも違和感はないかと」
返事を聞き、皇帝は深く頷いた。
「ならば、こちらに来るが良い」
そう言われ、ヴィオレットはローブを羽織り、また歩き出す。
皇帝と魔術師のやり取りを見ていた兵士や魔術師達は、ホッとした顔でヴィオレットと周囲を取り囲むタイキ様のゴーレムを見回した。
逆に、私の胸の上には重石が乗っているかのような不安感が生まれる。あの、想像を絶する技術を持った魔術師が、不意を突かれたとしてもヴィオレットごときにやられるだろうか。
そんな馬鹿なとは思うが、それでも不安は拭えない。横を見ればユーリも硬い表情を浮かべているように見える。私達だけでなく、メーア達も動けないのだから同じ心境だろう。
これはヤバい。もしもタイキ様のゴーレムが敵に回れば、勝ち目など全く無いでは無いか。
「報告せよ」
私が冷や汗を流しているうちに、ヴィオレットは皇帝の前に移動しており、静かに跪いていた。
ヴィオレットは頭を下げたまま、皇帝に報告をする。
「私とアイファは天空の国へと到り、王であるタイキと謁見致しました。そこで見た技術は常軌を逸しており、アイファはその力を借りることが出来れば、エルフを陛下から奪うことも出来ると判断したようです」
「……では、天空の王はシュバルツでは無く、アイファの助力をしておるのか? しかし、それでは意図が掴めぬ。何か裏があろう。通常ならば帝国自体をどうにかしようとするのが道理だ」
呟き、思案するように視線を落とす皇帝。
「……幾つか思い浮かぶが、どれも決定打に欠けるな。ならば、交渉の材料は多い方が良い」
そう言って皇帝が視線をシュバルツ達に向けると、兵士達は慌てて動き出した。
不意を突かれたシュバルツとフィアトーラはすぐさま捕らえられ、地面に組み伏せられる。
「ぐっ」
くぐもった声が響き、ついにシュバルツ、フィアトーラの二人までもが皇帝の手中に落ちた。
三人の首に剣が突き付けられた今、動くことは不可能だ。それこそ、人質の命を見捨てなければならない。
刻一刻と状況は悪くなっていくのに、どうすれば良いのかも分からない。
「さて、これでエルフと革命の旗印、二つは押さえた。残りもそのゴーレムをヴィオレットが動かせるのならば、問題にすらならんだろう」
「陛下の仰る通りです。では、ゴーレムを操ってみせましょう」
確かめるような皇帝の言葉に返答し、ヴィオレットは立ち上がり片手を上げた。そして、手のひらを上に向けてゴーレム達を手招く。
【タイキ】
スクリーンの中でヴィオレットがこちらに手招きしているのが見えた。
突然裸になった時はどうしようかと思ったが、その背中に奴隷の紋様があったのを発見してからは逆に冷静になれた気がする。
急展開に次ぐ急展開に呆然としていたいところだが、ここでぼんやりも出来ない。
俺はヴィオレットが手招いているロボットを選び、前進させた。
「……ヴィオレット将軍は、皇帝に逆らえないのではありませんか?」
ヴィオレットの背中にある奴隷印を見てから黙り込んでいたエイラが、そう呟く。
「大丈夫。ヴィオレットさんには指示する権限は無い。もしなにかしらの指示を出したとしても、命令権は現場ではメーアが最優先になっているからね。動かないよ」
そう告げてから、俺は再度口を開く。
「それよりも、自分の言うことを聞かないと知っている筈なのに、何故呼び寄せるのか……まぁ、何となく分かるけどね。もし違ったらどうしようかな」
苦笑しながらロボットを操作していると、エイラが眉根を寄せてこちらを見た。
「……タイキ様のゴーレムを動かしている風に装い、皇帝の側に呼び寄せる。それはつまり……」
「ヴィオレットも、此処で皇帝を引き摺り下ろすことにした……ってことかな?」
エイラの言葉を引き継ぐようにそう答え、何か違和感を感じた。
ヴィオレットがその気ならば、何故あんな態度をとっていたのか。
これまでの行動は明らかに帝国側に立った行動だったはずだ。
それが、急に此処にきて帝国を裏切る覚悟を決めたというのか。
「何かがおかしい……けど、アイファ達を助けるには、これしか無いよね」
そう口にして、俺はロボットに皇帝を捕まえるように指示を出したのだった。




