メーアの到着
月刊コンプエースにてコミカライズ版もスタートしております。
まさかの巻頭カラー!
【メーア】
窓を金属製の柵ごと破壊し、城内に突っ込んだ。激しい音と衝撃の中、タイキ様のゴーレムにしがみ付く私は歯を食いしばり、周囲を見回した。
それまで城の外まで漏れていた炎や風、氷の魔術が嘘のように消えて無くなる。
辺りは突入に伴って巻き上がった砂埃などで濛々としていて良く見えない。
「シュネー」
そう呼びかけてから、私はゴーレムの肩から降りた。
瓦礫や埃に紛れて通路の真ん中に立った私とシュネー。そして私達を囲むように立つタイキ様のゴーレム達。
その姿を認識し、奥に立つ魔術師風の男が目を鋭く細めるのが見えた。
「……まさか、壁を登ってきたのか? いや、どちらでも良い。どうせゴーレム三体だ」
それだけ口にすると、男は杖をこちらに向けた。
「兵士達よ! 盾を掲げてゴーレムの歩みを塞ぎ止めよ! その間に、我らは魔術を展開する! 押し潰されるなよ!」
指示を発し、詠唱を始める。それを合図に、男の周囲にいた四人の魔術師も詠唱を始め、通路を埋め尽くす兵士達は盾を構えてこちらに向き直った。
「さっそく命の危機だよ!」
そう叫び、シュネーは慌ててタイキ様のゴーレムの背に隠れる。
「攻撃される前に叩き潰せば良い!」
私がそう言って魔術師達を指差すと、魔術師達の顔が醜く歪んだ。こちらを馬鹿にするような視線と持ち上がった口の端に、私は眉間に皺を寄せて口を開く。
「突撃して!」
そう言った直後、ゴーレム達は魔術師に向かって走り出した。壁のように並んでいた兵士達は、まるで道端の小石のように弾き飛ばされていく。
あり得ない光景に、魔術師達は一瞬で余裕を失い、魔術を発動させた。
人一人飲み込むほどの巨大な炎と氷の槍が、放たれた矢のようにこちらに向かってくる。
だが、そんな魔術もタイキ様のゴーレムの一撃で消え去った。走りながら行われた腕の一振りで炎は四散し、氷は粉々に砕ける。
「ば、馬鹿な!」
魔術師達が目を見開いて叫ぶが、もう遅い。もはや逃げることも出来ないほどの距離に、ゴーレムは迫っている。
まるで嵐が吹き荒れるようにゴーレムの一体が暴れ、魔術師達は四方に弾き飛ばされた。勢い良く石の壁や床に叩きつけられたのだ。生死は定かではないが、明らかに戦闘不能だ。
その光景に兵士達は驚きと共に硬直し、ゴーレム達が暴れる様を呆然と眺めている。
「シュネー、走る!」
「へ? あ、ああ! 急ぐよ!」
この機を逃すものかと叫んで走り出すと、シュネーも戸惑いながらもすぐに後を追ってきた。
さぁ、一気に帝国を潰……いや、エルフを助け出すのだ。
【ディツェン】
「さぁ、どうでる? 私はどちらでも構わんぞ?」
面白そうな物を見るような目でこちらを見て、皇帝はそう言った。
目の前には三十人を軽く超える人数の騎士と十人ほどの術師。そして、首に刃を押し付けられたアイファの姿がある。
広く奥行きのある謁見の間の最奥の椅子には皇帝が座しており、動けずにいる我々を見て口の端を上げていた。
「ど、どうします……? というか、アイファ殿の馬鹿は何故こんな場所まで攻め込んで……」
私がそう口にすると、ユーリが困ったような顔で笑う。
「皇帝に奴隷印を受けた身だから、足手纏いになると思ったのではありませんか?」
「いや、今まさに足手纏いになっているような……」
困惑しつつそう呟くと、ユーリでは無く捕らえられたアイファ本人が口を開いた。
「……私のことはいい。フィアトーラを連れて逃げてくれ」
などと告げるアイファに、ユーリは可愛らしく小首を傾げる。
「少々難しいかもしれませんね。私達はシュバルツ様にご協力するとお約束しておりますので」
そう答えたユーリに、皇帝が息を漏らすように笑った。
「協力? ふ、はは、ははははっ! 中々の魔術師のようだが、まだ中身は幼子のようだな! 物語の中に入り込んだつもりになっていたか? シュバルツの言葉を聞き、覇道を知ったつもりになったか?」
馬鹿にするように笑いながら、皇帝は尋ねた。シュバルツとフィアトーラが奥歯を噛み締めて睨み返す中、ユーリは不思議そうに目を瞬かせる。
「まさに、英雄物語のような革命の話かと思っておりましたが、違うのでしょうか?」
ユーリがそう聞き返すと、皇帝を守る騎士や魔術師が堪え切れないように笑い声を上げた。
しかし、皇帝は逆に冷めたような目つきになり、背もたれに寄りかかる。
「……ただの馬鹿であったか。アイファが、シュバルツが協力を頼み、さらには王の椅子を奪わんと決意するほどの助勢があったのかと期待したが……つまらんな」
皇帝がそう口にして片手を上げ、騎士達に何か命じようとした瞬間、ユーリが一歩前に出て声を上げた。
「さて、それはどうでしょうか」
含みのあるその台詞に、皇帝は片方の眉を上げて口を開く。
「どういう意味だ?」
僅かに興味を持った様子を見せる皇帝に、ユーリは柔らかな微笑を浮かべた。
「陛下ともあろう方が、目に見えるものだけで状況を判断するのは如何なものかと……」
そんな回答に、皇帝よりも先に騎士の一人が声を上げた。
「なんだ、その無礼な物言いは……!」
怒鳴り、手にした剣の先をこちらに向けてくる騎士に、私は思わず息を飲む。
皇帝が一言命じれば、我々の命は瞬く間に奪われる状況なのだ。それが分かっているから、シュバルツもフィアトーラも剣と杖を手にしながらも動けずにいる。
しかし、ユーリはまるでそんな状況が見えていないかのような平然とした顔つきで頷いた。
「ご無礼は承知で申し上げさせていただきます。陛下。恐らく、これが最後の機会となりましょう。穏便に、シュバルツ様に皇帝の座をお譲りくださいませんか?」
ユーリがそう言った瞬間、家臣の騎士や魔術師達から怒りの声が噴出する。今にも切り掛かりそうな騎士や杖を構える者も中にはいた。
そして、当の皇帝、ケーニヒス・ブラウは、理解できないといった表情でこちらを見て、次にシュバルツを睨む。
「……つまるところ、未だ城内には貴様の手勢が潜んでいるという話か? どちらにせよ、この場で貴様を取り押さえればその手勢も意味は為さないと思うがな」
面白くなさそうにそう告げると、皇帝は一言「捕えよ」と命じた。
その直後、大きな地響きと破壊の音が何処かで聞こえる。足元を揺らすような衝撃を伴うその音に、騎士達の足も止まった。
そして、謁見の間の扉が外から破壊される。
分厚い扉や壁の破片と一緒に、甲冑を纏った兵士達も謁見の間の床を転がっていた。
「……! 早く奴らを捕えよ!」
いち早く冷静さを取り戻した皇帝の指示に、騎士達が慌てて動き出し、離れた位置にいた魔術師達は揃って謁見の間の出入り口に向かって攻撃を開始した。
流石は謁見の間を守る者達だ。動きは素早く、的確である。
だが、その魔術も巨大な腕の一振りで儚くも散った。
見慣れた巨大な人影が、ぬっと謁見の間に姿を現わす。
「た、助かった……!」
私は必死に迫り来る刃を躱しながら、そう叫ぶのだった。




