作戦変更?
天空の城コミカライズ版は4月26日発売のコンプエースにて連載開始です!
【ディツェン】
まだ混乱したままのフィアトーラに連れられ、我々は下の階に降りた。
幾つか大きな扉の前を通り過ぎて通路を進み、また階段を降りる。外から見るよりも中を歩く方が広く感じる。
窓は全く見当たらないが、綺麗に敷き詰められた白い絨毯と、石壁の途中途中に現れる絵画や花瓶などのお陰であまり暗い雰囲気は無い。
不思議なことに天井自体が発光しているようだが、もしかしたらタイキ様の天空の城と同じ技術が使われていたりするのだろうか。
もしそうなら、帝国が周辺国を次々に併合していった理由も分かる。
タイキ様と同等のゴーレムを所持していたなら、無理も無いことだろう。
「……いや、それは無いか……?」
聞くところによると、皇帝はタイキ様の天空の城を見て驚愕し、己が手に入れん為アイファを派遣したという。それに、アツール王国との一戦で惨敗したという話も聞いた。
行動を鑑みるに、帝国がタイキ様と同等の技術を保持している可能性は低いか。
ならば、シュバルツの言う通り、この塔が例外なのだろう。王族であるシュバルツも知らないとなると、一体いつ、誰が建てたのか。
是非調べてみたい。
うずうずしながら天井を見たり壁に手を触れてみたりしていると、前を歩く面々が足を止めた。
フィアトーラが一つの大きな扉を開けたからだ。
「こちらです」
そう言って中に入るのを見て、シュバルツを先頭に後に続く。
案内されたのは大きな広間だ。豪華な天井や壁の装飾だが、部屋に窓は一切無い。しかしながら暗いこともなく、こちらも天井が発光して室内を照らし出しているようだった。
そして、その広間の奥には白い室内用の簡易ドレスを着込んだ中年の女性が静かに椅子に腰掛けている。
今でもはっきりと美人だと言える外見だが、おそらく二十年も前ならば絶世の美女と呼ばれたことだろう。
そんな女性が、シュバルツを目にして目を見開いて立ち上がった。
「あ、あぁ……! まさか本当に……!」
そう口にすると、女性はシュバルツから目を離さずに歩み寄ってくる。我々のことなど見えていないかのように、真っ直ぐにシュバルツの下へと向かった。
すると、シュバルツは硬い表情を僅かに崩し、深く頷く。
「少々、挨拶が遅れました……母上」
そう言った後、二人は無言で抱擁し合う。
「母と子の再会なのですね……」
その光景にユーリは静かに呟き、そっと目元を拭った。
むむ。ということは、あの方は皇后か。年齢が若過ぎる気がするけれど、この空気が嘘ということは無いだろう。
何故か善行を行なったような気分になるが、今は感動している暇は無い。
「……とりあえず、フィアトーラさんを連れて行きますねー?」
一応そう言っておき、フィアトーラに対して手を縦に振り、おいでおいでをする。
だが、当のフィアトーラは困ったような顔で動かず、代わりに母親と再会を終えたシュバルツがこちらを向いた。
抱擁を終え、皇后の肩に手を置いたまま嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。
「……空気を読めん奴だ。だが、時間が無いのも事実。急ぎ、こちらも準備しよう。母上、御助力ください」
その言葉に、皇后はまだ涙の滲む目を鋭く細め、口を開いた。
「……そう。分かりました。覚悟を決めたのね、シュバルツ……ならば、母たる妾が力を出し惜しむ事は致しません」
二人はそんなやりとりをすると、揃ってこちらに身体を向けた。
「この二人は協力者だ。報酬はフィアトーラを含むエルフ達……問題無いな、二人とも」
「え? 協力? 報酬?」
急に話を振られて困惑していると、隣に立つユーリが柔和な微笑みを浮かべて頷く。
「はい。問題ありません。こちらとしても、最良の結果となりそうですもの」
ユーリが答え、皇后とフィアトーラは何かを察したように表情を厳しいものに変えた。
普段は何処か抜けた性格をしているというのに、何故かヤヌアルもユーリも政治や経済が絡むと頭が急に回り出すのだ。
そして、王侯貴族に属する人物はその辺りをぼかして喋る癖がある。
「……誰か、これから何をするのか説明してくれません?」
そう呟いてみると、皆が目を瞬かせて私を見ていた。
【タイキ】
メーア達が帝都へと戻る様子を眺めつつ、口を開く。
「さて、最後の一人はどうするつもりなのか」
「やはり、秘密裏に連れ出すことは出来ないと判断したのではないですか?」
「そうだね。ということは、予想通り帝国とは争うことになりそうだ。ちょっと、ヴィオレットさんに持って行ってもらう手紙を用意しようか。アイファさん達が残ったみたいだし、多分こっそり城の中に侵入してるだろうからね。こちらもその間に準備を進めておこう」
苦笑しつつそう言って立ち上がると、エイラが心配そうにこちらを見た。
「タイキ様のゴーレムがいないのに、三人で城内に忍び込んで大丈夫なのでしょうか……」
「アイファさんは宮廷魔術師でしょ? よほど下手なやり方をしない限り城内には入れるんじゃないかな? ねぇ、ヴィオレットさん」
話を振ると、ヴィオレットは面白くなさそうに肩を竦める。
「どうとでもなるでしょうねぇ。一人で城内に入り、二人を後から城内に入れることも出来るでしょうし、二人を箱に詰めて荷馬車で入ることも出来るでしょうからねぇ」
ヴィオレットは鼻を鳴らしてから俺の意見に同意を示した。
「そういうことだね。ただ、皇帝に会ってしまえば色々と面倒なことになりそうだ。だから、もしもに備えてこちらも準備をしないとね」
まさか、強行突破のようなやり方はしないだろう。アイファは皇帝に奴隷の印を押されているんだから、強引な手法ではリスクが高過ぎる。
アイファは冷静そうだったし、無理はしていないはずだ。
そう考え、俺はゆったりと皇帝への手紙を用意するのだった。




