制限時間
最近忙しくて話がごちゃごちゃしてしまい、申し訳ありません…。
書籍版では大きく加筆、編集していますので、そちらでまた話の大部分を修正させていただきます。
【タイキ】
スクリーンに映し出された光景を眺めながら、静かに息を吐く。
スクリーンの中では、周囲の兵達を瞬く間に吹き飛ばしたロボットの姿があり、奥には元気よく走るメーアとトレーネの背中が映っていた。
兵士達に取り囲まれ、放電か何かによる火花を伴った炎が画面を覆い隠した時は内心かなり焦ったが、すぐさまロボットは敵を排除し、メーア達にも怪我はなかったらしい。
とはいえ、ロボットを置き去りにして走って行くメーア達は明らかに危険だ。ロボットがすぐに追い付くだろうが、それまで二人が無茶しないように祈るしかない。
と、そんなことを思っていると、隣に立っていたエイラが口を開いた。
「……これで、最低でも二週間以内には皇帝の耳に……」
「うん。あの街は早馬だと一週間で帝都に着くって言ってたからね。皇帝なら、もしかしたら天空の国の関与まで辿り着くかも」
そう答えると、エイラは難しい顔で頷く。
なにせ、異常な強さのゴーレムを連れた謎の猫獣人二人がエルフを誘拐するのだ。どう考えても裏に何者かがいると判断するだろう。
それを帝国に反する個人や組織と見るか、それともアイファの反乱と見るか。
いや、皇帝ならそのゴーレムの話を聞いただけで天空の国にまで思い至るに違いない。
これで、計画は大いに前倒しする必要性が出てきた。
俺はエイラに顔を向け、短く息を吐く。
「仕方ないさ。こうなる可能性も考えてたし、急ぎで帝都内のエルフの居場所を押さえよう。とりあえず、あの街のエルフを助けることが出来たらメーア達は此処に帰ってきてもらおうか」
そう言って苦笑すると、エイラはゆっくりと頷いた。
「トレーネさんは大丈夫そうですが、メーアちゃんはあまり隠密行動に向いてない気がします。メーアちゃんはこちらに残して、今度は私が……」
「いや、それはダメでしょ」
覚悟を決めたっぽい感じで喋るエイラにそう告げると、エイラの目が丸くなった。
それにまた苦笑し、首を左右に振る。
「エイラの場合は顔を知ってる人がいるかもしれないからね。帝国の領土とはいえ、辺境にひっそりと暮らしていたメーア達の方が潜入するのは向いてるよ」
そう言うと、エイラは不承不承頷いてくれた。
本音を言えば、帝国と因縁がありアツール王国の王女だったエイラが見つかってしまえば、アツール王国にも帝国の矛先が向くかもしれないという懸念もあった。
そして何より、少しおっちょこちょいなエイラが帝都に潜入してエルフを上手く助け出す、そんな光景が想像出来ない。
俺はそんな大変失礼なことを思いながら、エイラに対して困ったような笑みを向けるのだった。
【メーア】
徐々に通行人の数が増えてきた。エルフを連れた兵士達の姿は視界に入っているが、すぐには追いつけそうにない。
「捕まえろ!」
「斬り殺しても構わん!」
殺気立った声が四方八方から聞こえてくる。エルフを連れた兵士達が逃げながら周囲に声を発し、見回りの兵士達を集めているのだ。
一々相手にするわけにはいかないが、反応の良い兵士などは剣を抜いて切り掛かってきたりしている。私はナイフを出してその剣を弾き返し、私を捕まえようとする腕を掻い潜って走った。
すぐ後ろから剣を打ちつけ合うような音が聞こえ、次の瞬間にはくぐもった男の声が響く。お母さんだ。私が剣を弾いた兵士に追撃をしてくれているのだ。
お陰で、後ろから別の兵士達に追われるような事態にはなっていない。
お母さんはいつもそうだ。何も言わず、私の失敗の尻拭いをしてくれる。そして決まって後で優しく諭すように私の間違いを正すのだ。
悔しい。
私は、知らず知らずの内に、自分は何でも出来ると思い上がっていたみたいだ。
家事では褒められ、王女様であるエイラ様に料理を教えたりし、ユーリ様からは魔術の才能を褒められた。
そして、今回はタイキ様にお願いされてエルフの救出劇に参加している。それもタイキ様のゴーレムを一体借りて、だ。
勝手に、自分は一人前と自惚れていた。
恥ずかしくて涙が出る。
私は昂ぶる感情をそのまま足に籠めて走った。向かってくる剣を避け、ナイフで弾き、飛び掛かってくる兵士を飛び上がって躱す。
徐々にエルフとその周囲を囲む兵士達に追い付いてきた。
「絶対に逃さない!」
そう叫んで更に加速する。もう兵士の背中は目の前だ。
「メーア! 気を付けなさい!」
後方からお母さんの叫ぶ声がした。
反射的に、私は一足飛びに横に転がる。肩から硬い地面の上を転がり、体勢を立て直して顔を上げた直後、すぐ目の前で大きな火柱が上がった。
轟々と燃え盛る炎に思わず呆気に取られる。
そして気が付いた。あの炎はさっきのゴーレムを攻撃する際に使われた魔術具だ。
逃げる兵士の誰かが私も気づかない内に投げたらしい。あの兵士達は他とは別格の精鋭なのだろうか。
「危なかったわね」
その言葉に振り向くと、そこにはお母さんがいた。お母さんは厳しい表情で逃げていく兵士達を見据えている。
「相手が何かしそうな気配がしたから声を掛けたけど、間に合って良かった」
そう呟いて、お母さんは優しく笑い掛けてくれた。
「……お母さん、私、その……」
謝ろうと思ったけど、上手く声が出ない。すると、そんな私を眺めていたお母さんが、目を鋭く細めて顔を上げた。
「話をしている時間はないでしょう、メーア? さぁ、今度こそ捕まえましょう」
お母さんがそう口にすると、見計らったようにタイキ様のゴーレムがお母さんの隣に立った。
「……うん。今度は追い付く」
私は立ち上がり、そう言った。




