帝国の情報
捕らえられたエルフの調査。どう考えても空の上から眺めただけでは見つけられないだろう。しかし、帝国内にドローンを送り込むと天空の国が関係していると確実にバレてしまう。
さりとて、自分自ら潜入なんて怖いことはしたく無い。
ならば、どうするか。
俺はスクリーンに映る異国情緒溢れる景色を眺めながら、口を開いた。
「大丈夫かなぁー……やっぱ、俺が行った方が良かったかなぁ……」
そう呟くと、隣に立つエイラが困ったように首を左右に振る。
「ダメですよ。タイキ様が地上に行かれたら、誰がタイキ様のゴーレム達を管理するのですか?」
「そりゃそうだけどね」
苦笑しながら頷き、左右のスクリーンにも目を向けた。北側の大きなスクリーンには石造りの建物が並んでいたが、東と西のスクリーンには木で作られた家が散見された。
「帝都と他の街。やっぱりちょっと雰囲気が違うね」
「はい。帝都は戦で火が回らないように石造りの家々を増やしているのでしょうが、ここまで徹底しているとは……」
エイラが緊張した面持ちでそう呟く。エイラからすると一度は母国を攻めようとした恐ろしい国だが、根は第三者の自分からすると面白い国である。
地球の歴史でも度々登場するが、突如として近隣諸国から頭一つ抜け、瞬く間に周囲の国を侵略して領土を広げていく国が存在する。
その切っ掛けがたった一人の人物だったり、たった一つの発明だったりするのも面白いところだ。
破竹の勢いで領土を広げて強大になったブラウ帝国も、切っ掛けは恐らく現皇帝その人だろう。その下に余程優秀な人材もいるだろうが、それらを使って国を強大にしたのは皇帝である。
その皇帝が新たな領土を求めるよりも優先したエルフの精霊樹。簡単に諦める筈が無い。
それを裏付けるように、皇帝は徹底したエルフの管理をしている。
殆どは帝都にいるが、ごく一部の力を持つエルフは周辺の街にバラバラに住まわされ、そこで魔術師として働かされているらしい。
もし、帝都のエルフだけを助けたならば、場合によってはその他のエルフ達が殺されてしまうようなこともあり得る。相手は一代で周囲の国々を併合していった稀代の侵略者なのだ。常識ではかることはできないに違いない。
と、いうことで俺は出来る限りバレないように、さりとて素早く動くことにしたのだった。
「……あの、タイキ様?」
「ん?」
声をかけられて振り向くと、エイラが申し訳無さそうな顔でスクリーンの一つを指差していた。
帝都の中の映像が映し出されたスクリーンだ。
「エルフ、見つけたみたいですけど」
「え、早くない?」
驚いてスクリーンを良く見ると、商人風の衣装を身に纏ったディツェンがいた。そして、その遥か後方には鎧を着た兵士達と、共に歩く二人のエルフの姿がある。
エルフは揃って黒いローブを着ており、アイファと同じような見事な金髪だった。男か女か判別出来ないが、どちらも驚くような美貌である。
ディツェンはスクリーン越しにエルフを発見したと身振り手振りでアピールしている。
「……なんか、あっさり見つかったね。それにしても、あんなに沢山の兵士達と一緒に何処に……」
そう口にしてから、俺は最悪な想像を頭の中に思い浮かべてしまった。
これは、もしかしたら大変な場面に出くわしてしまったのかもしれない。
「……よし、一先ずディツェンさんに後をつけてもらおう」
【アイファ】
フードを目深に被ったアイファは街中を軽く見回し、人々が皆してある一点を見つめていることに嘆息した。
人々の視線の先は、自分の真後ろに集まっているからだ。
横目で振り返ると、そこには四角い形状の巨大な人影があった。
灰色の石のような質感の箱を人型に重ねたような形のそれは、一見するとシンプルな形状のゴーレムである。胸の部分にはガラスか宝石のような何かが埋め込まれているようだったが、それを加えても地味な印象を拭えないだろう。
動きもその見た目に似合う鈍重なもので、周囲の人々はそのゴーレムを見て何とも微妙な顔をしていた。
「……なんか、あまり強くなさそうなゴーレムだな」
「あの魔術師も根暗そうに顔を隠してるし」
「ばか! そんなこと言うんじゃねぇよ! 帝国の紋章が入ったローブじゃないってことは、あの魔術師は野良だぞ」
「野良魔術師か……あまり関わらない方が良いな」
そんな会話が何処からか聞こえてきて、アイファはもう一度静かに息を吐く。
「……私とはバレていないようだ」
小さく口の中でそう言うと、アイファは街の奥へと歩き出す。
アイファが先を行くと、四角いゴーレムはのっそりのっそりと後を追った。
その光景を、人々は奇異の目で眺め続ける。
「……もう少し、目立たない方法は無かったのだろうか」
アイファはそう呟き、逃げるように入り組んだ路地裏の中へ足を運んだ。
【メーア】
「……広過ぎる」
フードを目深に被ったメーアは愚痴を口にすると、肩を落として周りを見た。
帝都ほどではないが、その街は随分と広く立派な作りだった。石畳の道は綺麗に整備されており、家々も頑丈そうである。
行商人も多く行き交う賑やかな街の中を、メーアはアイファが連れていたものと同じゴーレムと一緒に歩き回っていた。
面倒臭そうな顔をするメーアに、同じようにフードを被ったトレーネが眉根を寄せる。
「ダメでしょう、メーアったら。せっかくタイキ様に大きなお仕事をいただいたのだから、しっかりとお役目を果たしましょうね」
やんわりと諭されたメーアは、口を尖らせて歩き出した。
「はいはい」
ゴーレムを連れて歩くメーアの後ろ姿を眺め、トレーネは一人苦笑したが、すぐに目を細めて首を傾げた。
「私とメーアに一体。ラントとシュネーに一体。ディツェンさんに一体。ユーリさんに一体。アイファさんに一体……更に自分の身の回りに一体と、個室で待機してもらっているヴィオレットさんの監視に一体……これだけ複雑な命令をゴーレム一体一体に与えているのに、タイキ様に負担は無いのかしら?」
トレーネは声のトーンを落としてそう呟き、軽く首を左右に振った。
「考えても分かるわけないわね。さぁ、頑張りましょう」
気持ちを切り替えたトレーネは、少し先で頬を膨らませて自分を待つメーアに気が付き、早足で後を追ったのだった。
※ロボットに箱を被せるようにしてゴーレムに見えるように偽装しています。胸にはドローンが隠されており、そこからタイキのいる操作室に映像が送られている状態です。




