ゴーレムの王
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ロボットは島に降り立つと、そっと壊れ物を扱うようにヴィオレットを地面に下ろした。続いてアイファもロボットの肩から手を離し、ひらりと地面に降りる。
そして、地面に這いつくばっていたディツェンは服の汚れも気にせず立ち上がった。辺りを見回し、ずっと浮かべていた満面の笑みを僅かに曇らせる。
「……だ、誰もいない? おかしいな……今回もタイキ様が直々に待っていてくれるものと……いや、手紙をくれたユーリ様の姿も無いというのは……」
ディツェンがブツブツと何か呟いていると、その様子を見ていたアイファが眉根を寄せた。
周りを眺め、左右に生えた巨大な木々や、下方に並ぶ白い住居群などを確認する。人の姿が無いどころか、物音一つしない。まるでゴーストタウンのような静けさである。
「普段と違う状況というわけか……間違いなく、原因は我々だろうな」
そう呟くと、澄ました表情でヴィオレットが首を傾げる。
「予定外の来賓を出迎える準備に忙しい、と? それはそうでしょうねぇ。帝国が誇る美将軍と偏屈魔術師が揃い立ったのですから」
「……偏屈魔術師とは私のことか?」
アイファは溜息混じりにヴィオレットを見てそう口にした。しかし、ヴィオレットの指先が微かに震えているのを確認して閉口し、結局文句も言わずに視線を城へと移す。
ヴィオレットはそんなアイファの態度が癇に障ったのか、顔を顰めて拳を握った。
「……それにしても、姿を隠したまた人っ子ひとり現れないというのも失礼ですわね」
ヴィオレットが強がってそう言った瞬間、地面に振動を伴うような低く硬い音が響き渡った。
「城の門が開いたぞ」
城を注視していたアイファがそう告げ、二人の目も城に向く。
開門の音とは違う別種の重い音が無数に鳴り響き、アイファとヴィオレットは自然な動作で臨戦態勢となった。
二人が斜めに構えて腰を下げたのを見て、何故かディツェンも似たような態勢で城の主人の登場を待ち構える。
三人が無言で見つめる中、暗くなった城の中から三つの人影が姿を見せた。
踊り子のような衣装を身に纏い、猫耳と尾をピンと立てた三人の男女。トレーネ、ラント、シュネーである。
三人は揃ってアイファ達を鋭い視線で一瞥すると、門の左右に別れて立った。右側にはラント一人。左側にはトレーネとシュネーの二人だ。
三人が門を挟むように立つと、今度は城の中から明らかに人間では無い巨大な影が姿を見せた。
タイキのロボットである。
まず二体のロボットが出てきて、ヴィオレットの眉間に深い皺が刻まれた。
次に連続して四体のロボットが現れ、アイファの目が僅かに見開かれた。
そして、更に四体のロボットが現れ、ディツェンが飛び上がって歓声をあげた。
計十体のロボットが城の前に整列し、中央に道を作ると、そこにロボットと比べると子供のような人影が四つ姿を見せた。
タイキとエイラ、メーアとユーリの四名である。タイキの後ろには更にもう一体のロボット、A1もいたが、反応したのはディツェンだけである。
タイキは警戒心を向けてくるアイファ達と両手を振るディツェンを見て苦笑し、一歩前に出た。
エイラとメーアも続こうとしたが、タイキが片手を上げて制した為、難しい顔になりながらも素直に立ち止まる。
二人が立ち止まったのを横目で確認したタイキは、A1を引き連れて歩き出した。すると、左右に並んで整列していたロボット達もタイキの歩く速度に合わせて進み始めた。
タイキを中心とした十一体のロボットが迫り来る光景に、アイファは思わずといった様子で周囲を確認する。
「……あれがタイキという男か。他の魔術師は……やはり、城の中か……」
「しかし、気配が感じられませんねぇ……本当に、この島は墓場のように静かで、不気味です」
ヴィオレットが額から汗を流しながらそう答えると、ディツェンが晴れやかな笑顔で両手を広げた。
「馬鹿な! この素晴らしい環境が不気味なんて! 静かで邪魔も入らず、見たこともない未知の技術の山! 術者ならば誰もが夢見るような理想郷じゃないか!」
ディツェンがそう言って高らかに笑い、アイファとヴィオレットは可哀想なモノを見るような目を向ける。
「それはどうも……気に入っていただけたようで」
タイキがそう言って三人の前に立つと、アイファとヴィオレットが目を鋭く細めて睨むような視線を送った。
ロボット達の奥に立つタイキに、アイファが口を開く。
「……お初にお目にかかる。私はブラウ帝国の宮廷魔術師、アイファ。皇帝の命により、この天空の国を調べに来た」
淀みなくそう告げると、タイキはゆったりとした動作で頷いた。
「それはそれは、こんな遠いところまでお越し頂き、ありがとうございます」
タイキがそう言って一礼すると、アイファとヴィオレットは毒気を抜かれた顔で目を瞬かせる。
その二人の表情の変化には気付かず、頭をあげたタイキが柔らかな微笑と共に次の言葉を発した。
「せっかく空の上にまで来ていただいたのですから、出来る限りの歓迎をしましょう。天空の国と敵対しないのなら、ですが……」
冗談交じりといった態度でそう言って笑うと、アイファとヴィオレットは顎を引いて口を噤み、何も答えられなくなってしまった。
二人が押し黙ってしまうと、タイキは不思議そうに首を傾げながら愛想笑いを浮かべ、ヴィオレットに目を向ける。
「……あ、そちらの方は……えっと、なんて言えば良いのか分かりませんが……王国との戦争の際には横から介入してしまって、本当にすみませんでした。それに、貴女のゴーレムも壊してしまって……」
眉をハの字にして謝罪の言葉を口にしたタイキに、ヴィオレットは思わず息を飲んでくぐもった声を漏らした。
「……私のゴーレムを壊した……じゃあ、あの時のゴーレムの製作者は、この少年……? そんな馬鹿な……」
険しい顔でブツブツと呟くヴィオレットに、タイキは困ったように自分の後頭部を片手で掻く。
「あ〜……やっぱり高いヤツだったのかなぁ。他のより綺麗だったもんなぁ……」
小さな声でそう口にしたタイキを、アイファは何も言わずに見ていた。
無意識の内に武力による圧力を掛けてしまったタイキであったが、当の本人はそんなこと思いもせずに「三人の歓迎会とかやったほうが良いのかな?」などと暢気なことを考えているのだった。




