どうしたものか
大きなテーブルを挟み、四人が席を共にしている。広間には四人の他に、壁に沿ってズラリと兵士が並び、四方の角にはそれぞれローブを着込んだ魔術師らしき男達が固まっていた。
その緊迫した状況下で、ヤヌアルが口を開いた。
「天空の国、か」
そう言ってテーブルの上に並んだ湯呑みのようなカップを手にする。カップを口に運び中の液体を一口飲む。ヤヌアルのその動作を、不思議と皆が黙って見つめていた。
一時の沈黙に、ヴィオレットがもどかしそうに口を開く。
「……それで、皇国の代表としてお答えしていただけます?」
ヴィオレットが威圧的にそう尋ねると、周りの兵士達の表情が怒りに変わった。怒気の込められた視線に眉根を寄せ、アイファが溜め息を吐く。
「我々も帝国の代表として公式に訪問したわけじゃないんだ。余計な圧力なぞ無用だ」
アイファがそう言うと、ヤヌアルが口の端を上げて薄く笑みの形を作る。
「それなら、黙秘しても良いか?」
悪戯っぽい顔つきでそう言うと、アイファが無表情に顔を向けた。
「それは私が個人的に認めない」
「ならば同じではないか」
アイファの回答にくつくつと笑いながらヤヌアルが顎を引いた。その様子をハラハラしながら見つめていたディツェンが声をかける。
「こ、これで何かあったら、皇国と帝国が戦争に……?」
「ならん。この二人は開戦如何の為に来たわけじゃないからな。まぁ、もしどうしても戦争になるとなったらこの二人は確実に殺しておくとしようか」
笑いながらヤヌアルがそう言うと、ヴィオレットの目が鋭く細められた。
「面白いお話でしたね。特に、私達を殺せる、といった部分が……」
ヴィオレットの顔は笑っていたが、その細められた目には確かな怒りが滲んでいる。
その怒りに呼応したのか、ヴィオレットの髪の先がゆらりゆらりとひとりでに揺れた。
兵士達が静かにそれぞれの得物に手をかける中、ディツェンが唾を飲みながら拳を握る。
一気に緊迫感が増した室内を見渡し、ヤヌアルは息を漏らすように笑う。
「皇都の宮廷魔術師やらを連れて来ないとまともには戦えないだろうな。一人殺せたら良い方だ。ドラゴンを相手にするのと変わらん」
言外に今は争わないと告げ、兵士達はホッと胸をなでおろした。
それを満足そうに眺め、ヴィオレットが顔を上げる。
「良い判断でしょう。私達の内の一人をなんとか出来ると思われていることは不服ですが」
と、カップを口に運びながらヴィオレットがそう言うと、ヤヌアルは大きく頷いた。
「うむ。だから、もし戦うならその飲み物に何か仕込むだろうな。解毒出来ないような代物も我が家には伝わっている」
ヤヌアルがそう口にした瞬間、ヴィオレットはピタリと動きを止めてカップに視線を落とした。中の液体が揺れる様子に頬を引攣らせる。
既に一口飲んでしまっていたヴィオレットに、アイファが首を左右に振った。
「それくらいは予想していた」
「言いなさいよ!?」
ヴィオレットが席を蹴って怒鳴ると、ディツェンが拳を握り締めて立ち上がる。
「珍しく殿下が頭脳的な手を! よし、一気にカタをつけ……」
「座れ、ディツェン」
大喜びで術を発動しようとするディツェンを一言で止め、ヤヌアルが鼻を鳴らした。
「コレには何も入れていない」
「なんで!?」
まさかの言葉にディツェンのみならず他の兵士達も驚いた顔を浮かべる。
不安そうなヴィオレットを横目に肩を竦め、アイファが口を開いた。
「戦争になるかどうか分からない状況だが、我々に手を出せば確実に戦争になる。その場合は皇国に未来は無い。実際に手を出すのは最後の手段だろう」
アイファが予測を口にすると、ヤヌアルは首を傾げる。
「いや、違うぞ。今日のお茶が随分と良い味だったからな。混ぜ物などしたくなかっただけだ」
真面目な顔でそう言われ、アイファは口を真一文字に結んで押し黙った。
「入ってないのですか? 本当でしょうね?」
疑ってかかるヴィオレットに応えるようにヤヌアルは自分のカップを口に運び、中の液体を喉に流し込む。
「うん、美味い」
ヤヌアルはカップから口を離し、何処か嬉しそうにそう言った。その態度に毒気を抜かれたのか、アイファは僅かに体を弛緩させて口を開く。
「……帝国との戦争には反対であり、我々と争う気も無いと理解した。ならば、天空の城の情報も話してもらえるのだろうか」
アイファが確認するようにそう呟くと、ヤヌアルは不思議そうに首を傾げる。
「何故? 正式な書状も持っていないのならば、そちらの身分は使者でも何でもなく、ただの旅人だろう。なぜ情報を開示せねばならないのだ」
平然とそう答えられ、アイファとヴィオレットは思わず目を丸くした。
「……我々とやり合えるつもりか?」
アイファが低い声でそう尋ねると、ディツェンがそっと視線を外に向けた。
そして、声をあげる。
「あ」
「ん?」
声に釣られてヤヌアルが外を見ると、窓から見える外の景色の中に、空飛ぶ物体を見つけた。
それは紛れもなく、空の上にいるはずのロボットだった。




