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天空の城を貰ったので異世界で楽しく遊びたい  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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来訪者

【ディツェン】


 ユーリ様が空へと旅立ってしまってから二日が経った。


 もどかしい想いを全てトイレの研究にぶつけているのだが、いまだに機能の一つも再現出来ていない。形ばかり良く出来たトイレに座り、鬱屈とした気分で唸る日々だ。


 そんな日の午後、私の家の扉を叩く音が聞こえた。


 まさか、空からの使者か!?


 そう思って慌てて扉を開けたのだが、そこに居たのはボロボロのローブを着たエルフの男だった。髪は乱れ、露出した肌の部分にも擦り傷や汚れがあるのに、その中性的な美しさは損なわれていない。


 まぁ、エルフの美貌など興味も無いが。


「……お前がディツェンという魔術師か」


「あ、はい。私がディツェンですが」


 そう答えると、エルフの目は鋭く細められた。声の質と雰囲気から男だと確信したが、この表情で修羅場を潜り抜けた兵士であることも分かった。


 思わず息を飲む迫力だ。


 私が膝を震わせて怯えていると、エルフは扉の縁に手を掛けてこちらに身を乗り出してきた。もう泣きそうだ。


「な、な、何でしょうか?」


 エルフに恨まれる覚えなど無い。


 そう目で訴えたのだが、エルフの眼光は変わらなかった。


「……お前が天空の国に行ったことは分かっている。知り得た情報の全てを話せ」


「いや、天空の国には行けなかったので何も知りません」


 思わず真っ向から否定してしまった。エルフも予想外に強く否定されて面食らったのか、口を閉じて黙り込んでいる。


 すると、エルフの後ろから紫色の髪の美女が顔を出した。紛うことなき美女だ。エルフ同様、多少髪の乱れや鎧に傷や汚れはあるが、それでもハッキリと美女と分かる。


「何をグズグズしているのですか」


 鎧の美女は背筋がゾクゾクしそうな冷たい声でそう言った。


「ん? 鎧?」


 紫の髪に以前は真っ白だっただろう鎧。そして、鎧の胸の位置にはブラウ帝国の紋章。


「……まさか、帝国の魔女……」


 掠れた声が口から漏れた。女でありながら宮廷魔術師の座を捨てて戦争に参加し、ついには将軍の地位を得た帝国の魔女、ヴィオレット。その名は苛烈な戦いぶりと常勝無敗という派手な戦績と共に伝わってきている。


 私の声を聞いた美女は口の端をついっと上げてエルフの横顔を見る。


「どうやら私の方が他国での知名度は上のようですね、アイファ?」


 美女がそう言ってもエルフは気にした素振りも見せずに口を噤んでいた。


 だが、それを聞いた私はそれどころでは無い。


「アイファ……」


 帝国の魔術や魔術具の飛躍的な進歩をもたらしたとされる人物である。既に何十年も帝国に仕えているが、エルフは本来ならそういったしがらみこそを嫌う性質だ。


 故に、アイファが帝国に仕えている理由は謎とされている。


 そんな謎に包まれた帝国屈指の術師が、目の前にいた。


「……な、何故、帝国の宮廷魔術師と将軍が、皇国の地に……」


 一瞬、頭の中に戦争の二文字が浮かんだが、答えは既にアイファの口から語られていたのを思い出した。


 彼らは空飛ぶ島、天空の城……天空の国についての情報を集めているのだ。


 その理由など、考える必要すら無い。


「……天空の国を手に入れるつもり、ですか」


 そう口にすると二人は顔を見合わせた。そして、魔女が口を笑みの形にする。


 何故か、その光景に身の危険を感じた。


 声が漏れないように口の中で術式を呟く。何か考えるような間も無く、自然と身体が動いていた。


「む……っ!」


 鼓膜が破れそうな暴風が吹き荒れ、瞬く間に入り口をつむじ風が覆う。


 狭い空間での回避が難しい風の術を瞬時に発動出来たのは我ながらよく出来た。


 アイファの声を背中で聞きながら、弾かれるように部屋の奥へと走り出す。


 扉を開けるとごちゃごちゃとした研究室があり、更に奥には実験場がある。だが、実験場は袋小路で逃げ場が無い。


 素早く走る方向を変え、上半身分ほどしかない窓に飛び掛かった。


「ずりゃあああっ!」


 両手で頭を守りながら窓を突き破り、外の道路へ転がり出る。


 石畳で手のひらを擦り剥いたが、痛みを感じる前にまた走り出す。口を動かし、思い切り地を蹴って飛び上がった。


「さ、流石にあの二人は相手が悪い!」


 空を飛びながら叫ぶ。その辺の術師ならば負けない自信もあるが、噂が本当ならば一対一でも勝てないだろう。


「私はまだ死ぬ訳にはいかない!」


 必死に空を飛び、城を目指す。まさか、あの二人であっても一個の軍を相手に戦おうとはしないだろう。


 逃げ切れば勝ちだ。飛翔術ならば城まであっという間である。


 そう思いながら、背後を確認した。


 だが、視界に入ったのは無表情にこちらに向かって飛んで来るアイファとヴィオレットの二人の姿だった。


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