フリーダー皇国の三人
フリーダー皇国の人と会話をしてみたい。
そんな安易な考えで地上にA1達を派遣しようかと思ったのだが、エイラに止められた。
「流石に、防衛の拠点である城内に堂々とゴーレムを突入させ、軍関係者らしき重要人物を誘拐するというのは……余計な恐怖心や敵愾心を植え付けてしまうかもしれません」
エイラはそう言ってから「差し出がましいことを言いました」と謝ったが、俺は成る程と頷いた。
確かに、未確認飛行物体が空へと誘拐する様子は恐怖の対象となるだろう。更に、その未確認飛行物体から国としての接触を告げられたら何かしらの疑惑を持つに違いない。
考え直し、咄嗟に思いついた別案を口にする。
「じゃあ、密かにフリーダー皇国の内情に詳しい人に出てきてもらおうか」
その一言に、エイラは可愛らしく首を傾げた。
【ディツェン】
今日もあの黒い物体が空から降りて来たと連絡があった。
逸る心を深呼吸で落ち着かせつつ、馬に乗る。早朝から準備をしておいたので、いつも通り私が一番に現場に辿り着いた。
最近では兵達のあの黒い物体に対しての警戒心が薄れており、だらだらと現場に現れるといった様子だ。
あんな珍しい物に興味が湧かないなど私としては理解出来ないが、一人でじっくり観察出来るのならばむしろ都合が良い。
私は空に浮かぶ黒い物体に顔を近づけて、分析する。
「素材はやはり金属だな。だが、鉄とも黒鉄とも違う。ミスリルでも無い……それに、羽根も不思議だ。丸く、高速で動く羽根……丸い図形を描くということは、羽根の形状は……」
頭を捻りながら唸っていると、遠くから人を撥ね飛ばしそうな勢いで向かってくる馬車が目に入った。
「……あの天然兄妹め」
ボソリとそんな一言を呟くが、誰もあの二人を止める者はいない。程なくして、二人を乗せた馬車はこちらへ辿り着いてしまった。
「おお! 今日も飛んでいる!」
「本当ですね、ヤヌアル兄様。飛びますか?」
「いや、今日はじっくり見たいからこのままで良い!」
二人はそんなズレた会話をしながらこちらを見上げ、変な声をあげた。
「ん? 何だ、アレは!」
「何かひらひらと揺れていますね」
何か?
その単語に眉根を寄せ、黒い物体の下を覗き込む。
すると、黒い物体の胴体から紐で吊るされた小さな紙包みのような物が揺れていた。
「これは……!?」
思わず、大きな声が出た。これは、この物体が確かに誰かが作った人工物であるという証ではないか。
それもどうやら故意に括り付けられた代物らしい。
一大発見だ。
たまらず、引っ手繰るようにして紙包みを手に取った。謎の結界の範囲は完全に把握しているので問題は無い。
紐は綺麗な結び目があり、飛び出た部分を引っ張ったらスルリと解けた。
「ディツェン! こっちに持ってくるんだ!」
下から何か声がしたが、聞こえない振りをする。
「ディツェン様、それは何ですかぁ?」
聞こえない、聞こえない。
シミ一つない恐ろしく綺麗な紙包みだ。触り心地も滑らかでザラザラした部分が一切無い。この紙だけで遥かに高度な技術を持つ者だと理解出来る。
興奮を抑えることもせずに、すぐさま紙包みを開いてみた。
紙包みには似た大きさの一枚の紙が入っていた。その表面にはインクを使ったような色合いで、文字が書かれている。
『明日の朝、東の城から南東へ行った先にある海岸に極少数で来てもらいたい』
その文字を見た瞬間、私は紙を握り締めて口を開いた。
「行きますっ!」
魂から直接迸ったような絶叫だった。
「い、逝く!?」
「まぁ、ディツェン様がお逝きに……?」
下から馬鹿者の声がするが、そんなものは無視だ。
例えこの地に帰って来れなくなったとしても私は後悔しないだろう。
この黒い物体を作った者と話が出来ると言うのならば。その技術の一端に触れることが出来ると言うのならば。
私は命を賭す覚悟である。
研究資材を台車に無理やり積み込み、何とか準備を終えたディツェンが陽も上がらぬ頃から街を歩く。
辺りを見回し、誰もいないことを確認したディツェンは街道の端を静かに進んだ。門番に金を握らせて密かに街を脱し、一路南東の海を目指す。
その後ろ姿を、二つ分の人影が追い掛けていた。
「……くくく、ディツェンめ。我らにバレぬようこんな時間を選んだか……」
「眠いです、ヤヌアル兄様」
「ユーリ、僕の名前を呼ぶんじゃないよ。せっかくの変装が意味を失ってしまうだろう?」
「まぁ、ヤヌアル兄様。私の名前を口にされていますよ?」
「おっと、いけない。さぁ、バレる前に街を出るぞ」
二人はそんな会話をしながら畏る門番に片手を振って外へと向かった。
門番や行商人達が背後で何か言っていたが、二人は気付いてもいない。
「さぁ、ディツェンは何処にいった」
「この方向には海しかありません。もしや、ディツェン様は人魚と恋に……」
「それなら祝い金代わりに舟をやるとしよう」
「まぁ、それは素敵です。流石はヤヌアル兄様」
通りがかった通行人が二度見するような見事な刺繍が入ったローブを着込んだ二人は、何処か楽しそうに笑いながら南東を目指して歩いた。
南東の海岸に一足先に辿り着いたディツェンは、登っていく朝日に目を細め、空を見た。
「……まだか」
ソワソワと体を揺すりながら上空を見つめる。
「……まだか」
五分ごとにそう呟きながら待ち惚けていたが、それから二時間ほど経過した時、上空に何かを見つけたディツェンが声を上げた。
「……きたっ! きたきたきたきた! 本当に来たぞ!」
飛び上がって喜ぶディツェンに、豪華なローブを着込んだ二人が声を掛けた。
「何が来たのだ!?」
「おはようございます、ディツェン様」
「なぁっ!?」
ディツェンは目を剥いて背後を振り返り、フードを目深に被った二人を凝視する。
「ば、馬鹿な……天然兄妹に尾けられた……?」
「天然とは誰のことだ!?」
「ふふふ。ディツェン様が飛び跳ねて喜ぶ様子は可愛らしかったですよ」
二人の顔を睨め付けていたディツェンだったが、ハッと顔を上げると、再度上空へと目を向けた。
「馬鹿に関わっている暇は無かった! ついに接触を……」
ディツェンに釣られてヤヌアルも上を向き、口を開く。
「む? いつもと違うな?」
「何だって?」
空から降ってくる黒い影はグングンと大きくなっていき、徐々にその形もはっきりしていく。
「まぁ、今日は本当にゴーレムらしいゴーレムですね」
「ゴーレムらしいゴーレム!?」
ユーリは目が良いのか、すぐにシルエットを正しく判別したようだった。その言葉に、ディツェンは驚愕して目を凝らす。
「あら、今日は一体じゃありませんね?」
「一体じゃないって!?」
「いや、一体じゃないか?」
「ほら、上手に重なっておられますけど、多分三体は……」
ユーリがそう言った瞬間、空から降ってくる黒い影が三つに別れた。
「えぇっ!?」
「おぉ、本当に三体だったか!」
驚くヤヌアルと狂喜して何とも言えない顔になったディツェン、そしてニコニコと微笑むユーリの三人の前に、謎のゴーレムは降り立った。




