フリーダー皇国
大陸南部の西側を支配する国、フリーダー皇国。
半分近くが海に面した海産資源の豊富な国であり、アツール王国よりも少し南に位置する暖かな気候と豊かな食糧事情から、温和で明るい国民性を有している。
ブラウ帝国と隣接する北部は大きな川が流れており、その川に棲む大型のモンスターのせいで住む人は少ないが、しかし、細かく別れた河川により農業が盛んな中部、海に面した西部と南部、森に面した東部には資源も人口も多い。
そんな特徴から、フリーダー皇国は周辺の国と積極的に関係を持つことは無く、ブラウ帝国ともアツール王国とも違う文化を構築している。
という、かなり堅い説明を受けた俺は曖昧に頷きながらスクリーンを見た。
「ふぅん。確かにあの丘の上にある街は個性的だね」
そう言って小高い丘の上にある赤い街並みを眺めていると、エイラが可愛らしく笑った。
「タイキ様。あれはフリーダー皇国の東部を守る城ですよ。フリーダー皇国はその豊かな資源と人口の多さを活かして大きな城を作ります。平べったく見えるかもしれませんが、あの城壁は見上げるほど大きいとのことです」
「行ったことは無いの?」
「 アツール王国とフリーダー皇国は隣国ですが、海の近くまで大森林が広がっており、馬車二台分程度の細い崖を通らないと辿り付けないということで、あまり交流はありません。行商人や冒険者の方々は多少行き来しているようですが、残念ながら私は一度も……」
苦笑するエイラを横目に、頷いて納得する。
「じゃあ、ちょっとフリーダー皇国の城を見物してみようかな」
カメラを操作して赤い城を拡大していくと、長方形の城門らしき映像が映し出された。馬車や商人らしき人々が並び、門の近くには兵士達がいる。
赤い城に合う、茶色の鎧の兵士達だ。
何故か皆がカメラ目線で何か言っているような気がするが、気のせいだろう。今回は雲の中に飛行島を隠しての移動なのだから、こちらの姿は見えない筈だ。
「うん。人の大きさがあれならあの壁は何十メートルもありそうだね。凄いなぁ」
気を取り直して城の見学に戻った俺は、今度は門から城の中へと映像を映していく。
門を潜り抜けるとまず広い中庭のような空間が広がり、奥には物見櫓付きの二階建ての四角い建物が壁のように隙間無く並んでいた。
その建物を乗り越えると、今度はしっかりと通りがある街並みがあった。大通りには人々や馬車が行き交い、活気がある様子が見てとれた。
「あれ? なんかインドの民族衣装みたいだな」
「インド?」
スクリーンに映し出される人々はヒラヒラとしたカラフルな衣装を着込んでいる。刺繍の入った綺麗な布を巻き付けたようなデザインだ。
服を見比べていると、エイラが横からスクリーンを指差して口を開いた。
「服もそうですが、建物も特徴的ですね」
「建物……ああ、本当だ。上の階でくっ付いてる? いや、渡り廊下とか、橋みたいなのがあるのかな?」
映像を拡大しながらエイラのコメントに同意する。
大通りは馬車が行き交うほど広いが、左右に伸びる小道はかなり細い。その道の上に建物と建物を結ぶ連絡通路のような橋が幾つもあった。建物の周囲をベランダらしき部分が囲んでいる場所もある。
「面白いな。立体的な街作りだ。あれ? この辺りは木製の建物ばっかりだね」
そう呟くと、エイラは街の中央を指差す。
「城壁と兵の住む外側の建物、そして中央にある領主の建物だけが石造りとなっています。フリーダー皇国は他の国に比べて石材があまり手に入らないので、重要な施設以外は木材で作られているそうですね」
「ああ、なるほどね。建物の形も個性的で面白いなぁ」
と、そんな会話をしていると、またも通りを歩く人々がカメラ目線になって口を開閉し始めた。
「なんだ? 皆こっちを見てるみたいだけど」
「島が雲から出てしまったのではありませんか?」
「う〜ん……?」
エイラに言われて他の三つのスクリーンを見やる。正面のスクリーンだけは遠視カメラだが、他の三つは城の西、北、南の映像を映している。画面には白く霧がかった島の風景が映し出されているし、雲の中にいるのは間違い無い筈だ。
「雲からちょっとはみ出してたりするのかな? でも、その割には皆が皆気付くのも変な気がする……」
何故だろう?
そう言って、俺とエイラは揃って首を傾げたのだった。
【東の城】
城の中に街を囲うフリーダー皇国特有の城の一つ、東の城。
敵意を持つ者が街の中に入るには大きな城壁を抜け、有事には兵で溢れる中庭と頑丈な兵舎を突破しなければならず、住民はある意味で平和呆けしていた。
この広く、強い城を攻め落とすことなど簡単なことでは無いに違いない。
住民は固くそう信じていた。
実際には北部は大きな川に棲むモンスターの力があり、東部には大型のモンスターが潜む大森林と海があるという部分が影響しているのだが、この地で生まれ育った者にはどうでも良い事実である。
そんな事情故に、フリーダー皇国の領地は外敵に殆ど荒らされず豊かであり、盗賊などの犯罪者も少なかった。
そんな平和で緩やかな日常に、突如として異物が紛れ込む。
「な、なんだアレは!?」
誰かが叫び、何人かが声を上げて空中を指差した。
空に丸い形の黒い物体が浮いていた。その物体は静かに空中に佇み、時折緩々と動く。
大通りを上から見下ろすように進むその物体は、下から覗くと動物の骨を組み合わせたように隙間だらけであり、不気味だった。
「も、モンスターか?」
「薄っすらとだが、羽根のようなものも見える」
「虫型か?」
「いや、どう見ても生きているようには見えないぞ」
混乱する住民達は、その物体に興味はあれど恐怖は感じていなかった。
大きさはどう見ても人の半分ほどであるし、牙や爪も見当たらない。身体はスカスカで空が隙間から見えている。
戦えば兵士達の方が強いだろう。
そんな程度の認識だ。
だが、一部の者は違い、大きな声を出して注意を呼び掛けた。
「誰か今すぐ領主に知らせろ! 恐らく、ブラウ帝国の新手のゴーレムに違いない! 間者に何かしらの合図を送っているのかもしれん!」
「あんなゴーレムいないだろ」
「ブラウ帝国の間者って……あのオッさん、頭がおかしいぞ」
ざわざわと騒がしくなった大通りを、その物体は何も気にせず進んでいく。
向かう先は中央にある大きな城だ。
そこへ、ターバンを巻いた黒い衣装の男を連れた兵士達が走って来る。
馬に乗ったその者達は、黒い物体が浮遊しているのを見て足を止め、馬から降りた。
「術師殿! あれです!」
兵士がそう言って空を指差すと、術師と呼ばれた男は眠そうな顔で目を擦った。
「んん? 何だ、アレは?」
寝起きの欠伸混じりの声でそう呟くと、ムニャムニャと口を動かす。
そして、フワリと空中へ浮かび上がった。
静かに黒い物体の進行方向の背後から近付き、至近距離で観察する。
絶え間無く空気を振動させるような小さな音を立てる物体に、術師は空中で胡座をかいて顎を摘んだ。
「…………いや、本当に何だ、コレ?」
疑問符を浮かべる術師に、地上から兵士が声をかける。
「術師殿ぉーっ! 何か分かりましたかー!?」
「いや、そう言われても……」
兵士の言葉に小さく返事を呟きながら、術師はジッとその物体を眺める。
「……素材も分からないしなぁ。いや、誰かが作ったのは間違い無いか? 骨だけで飛ぶ新手のモンスターってわけじゃないだろうし……」
ぶつぶつと呟きながら頭を捻る術師だったが、不意にその物体が動きを変えた為、身体を緊張させた。
ただ前に進んでいくばかりだった物体が、ふわりと弧を描いて更に上昇したのだ。
まるで術師を観察するようにゆっくりと術師の上を回る物体に、術師は片手を顔の前に出した。
手のひらを上に向けた瞬間、術師の周りを走るように風が巻き起こる。
「……何か解らないが、とりあえず回収してみるか」
術師はそう言って、頭上でゆっくり旋回する物体を見た。
四つのプロペラで回る円形のその物体、ドローンは、ただ無言で術師の周りを飛んでいた。
実は帝国で島の下部から出た黒い物体がドローンでした。通常のカメラは島の備付けですが、遠視カメラは全てドローンです。
天空の城の特別製でバッテリー不要!電波は何処まで入るのか不明!




