天空からの書状
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「ゆ、誘拐!?」
俺がそう言うと、ドゥケル達は深く頷く。
「正直、タイキ殿が本気でアツール王国に敵対すると言えば、王国は降伏する以外の術を持たん」
「恐らく、強大なるブラウ帝国であっても同じことでしょう」
ドゥケルとハイラートが前のめりになってそんなことを言った。
「……だから、俺がエイラを、アツール王国の王女様を誘拐したと言えば……」
そう口にすると、二人は再度頷く。
「どちらとも、この空飛ぶ島から人が出向いたとしたら何らかの接触は試みることでしょう。ですので、レティーツィア王女を誘拐したという旨を記した書状だけで結構です。一方的に書状を送り付けるだけならば、タイキ殿にそれ以降お手間は取らせないでしょう」
ハイラートがそう説明すると、ドゥケルが同意する。
「なにせ、この場所に来ることが出来ないからな。文句も言えないだろう」
そんな二人の台詞を聞いて唸っていると、エイラが眉根を寄せて口を開いた。
「そんな……私の為に大魔術師様であるタイキ様のお名前を汚す訳には……」
エイラの言葉にドゥケル達が顔を見合わせるが、俺は苦笑して首を左右に振る。
「別に大した名前じゃないよ」
「そ、そういう訳には参りません。本来なら大国の王以上の待遇を受けるべきなのです。なのに、私のせいで……」
「い、いえ、姫様、ここはタイキ様のご厚意に……」
ご厚意で狂言誘拐するのか俺は。
エイラを宥めようとするハイラートの言葉に心の中でツッコミを入れていると、ドゥケルが「お!」と謎の声を上げて手を叩いた。
皆の注目が集まると、ドゥケルは咳払いをして居住まいを正す。
「……タイキ殿、この俺に妙案が……」
至極真面目な顔でそう言われて、顔が引き攣るのを感じた。
「なにか、嫌な予感が……」
【アツール王国】
「書状……!?」
ライツェントが驚愕の声を上げる中、豪華なローブを着た男が紙を手に頷いた。男は紙の上から、広間の入り口に立つドゥケルへと視線を動かす。
「書状には、あの空飛ぶ島の主……いえ、天空の城の王であるタイキという方からの要望……では無く、一方的な宣告といいましょうか。そのようなものが記されております」
戸惑いの混じる男の言葉に、ライツェントは焦れたような顔で唸る。
「あ、あの空飛ぶ島に住む、王だと……? やはり、伝説の大魔術師ということか。だが、そんな尋常ならざる存在が、我が国にどんな宣告を下すというのか……大臣。書状には何と書いてある?」
判決を待つ罪人のような生気の無い表情を浮かべるライツェントを横目に、大臣と呼ばれた男は溜め息を吐いてドゥケルを睨む。
「将軍はいったいどんな話をしてきたのか……書状には、レティーツィア王女を貰い受ける、とあります」
「王女!? レティーツィアはあの空飛ぶ島にいるというのか!?」
椅子に座っていたライツェントが立ち上がりながら声を荒げると、それまで黙っていたドゥケルが肯定の返事をした。
「確かに、この目で確認しました」
ドゥケルのその言葉に、ライツェントは苛立ちを隠しもせずに口を開く。
「事細かく見てきたもの全てを語れ。空飛ぶ島は、その天空の城とは、王がいるならその国民は……そして、タイキという者はどういった者なのだ。やはり、絵画に描かれる伝説の大魔術師のように、数百年を生きたに相応しい姿の枯れ枝のような老人なのか?」
ライツェントは矢継ぎ早に問い掛けたが、その中に王女に対する質問は無く、ドゥケルの眉尻が上がった。
「……空飛ぶ島は大きな街ほどの大きさがあり、雲と同じほどの高さにあります。天空の城は見た事もないほど豪華絢爛。作りも魔術によるモノなのか、理解の範疇を超えた物が多かったですな。国民はあまり見ていませんが、多くの白い家々が並んでおりました。恐らく戦に介入している間は家屋の中に避難しているのでしょう」
ドゥケルは簡単にそれだけ説明すると、考えるように顎を指でつまんだ。
「後は王であるタイキについて、ですが……なんと言えば良いのか」
「良い。思ったこと、感じたことをそのまま述べよ」
唸るドゥケルに、ライツェントが先を急かした。
「そうですな……タイキ殿は目の前で三体のゴーレムを操って平然としている辺り、伝説の大魔術師の一人であることに間違いないでしょう。ただ、見た目は十代後半にしか見えませんな。衣服も見たことの無いものです」
「十代……いや、それはつまり、老いることは無いということか? まさか、不死の存在というわけではあるまいな」
「そこまでは聞いておりませんな」
ドゥケルが首を左右に振ると、ライツェントは舌打ちをして椅子にどっかりと座った。
「……帝国の第四王子よりも良い嫁ぎ先かもしれんが、問題は帝国の反応だ。あの空飛ぶ島に王女が嫁いだなどと言ったところで信じるわけがなかろう」
そう呟くと、大臣がドゥケルを睨み付ける。
「まったく……何故、独断で使者の真似事などしたのか。私が行けばアツール王国に有利な交渉を……」
大臣がブツブツと文句を口にしていると、ドゥケルが目を細めて口の端を上げた。
「一言ゴーレムに命じれば国を滅ぼすことも出来る相手に、いったいどんな交渉を持ち掛けるつもりで? それに、このドゥケル・クライン、戦働きばかりでなく、外交もやれると知っておいていただこうか」
ドゥケルがそう言うと大臣が目を剥いて頬を引き攣らせ、代わりにライツェントが口を開いた。
「……よく分からんが、何かこちらの要望を通したということか?」
ライツェントがそう尋ねると、ドゥケルは表情を引き締めて顔を上げる。
「はっ! このドゥケル・クライン、天空の王にアツール王国との一時的な同盟を結んでいただきましたぞ!」
ドゥケルがそう告げると、ライツェントだけでなく大臣も目を剥いて停止した。
動かない二人に対して、どこか得意げな表情のドゥケルが人差し指を立てて口を開く。
「このアツール王国からの使者は常にこのドゥケル・クラインか、ハイラート将軍であること。そして、半年から一年に一回、天空の城より使者を連れて行く為のゴーレムを派遣するとのこと。後は、アツール王国が敵対的行動を取らないのならば、天空の王はアツール王国の友である、と」
「ま、待て待て待て! ちょっと待て、ドゥケル!」
指を一本ずつ立てながら同盟内容を語っていくドゥケルに堪らずライツェントが口を挟んだ。
「同盟とはその国の代表同士で調印を交わす程に重要なものだ。そのような口約束みたいな……」
「そ、そうですぞ! それに、何故ハイラート将軍の名が……!?」
大臣がライツェントの言葉尻に乗ってドゥケルを糾弾しようとすると、ドゥケルはあっけらかんとした顔で「あ」と声を漏らした。
「報告を忘れておりましたが、この王都と同じようにファルベにも天空の城よりゴーレムの大軍が降り立ち、帝国軍は撤退を余儀なくされたとハイラートより聞いております」
「はぁっ!?」
大臣の絶叫が広間にこだまする中、ライツェントは椅子の背もたれに寄り掛かった。
疲れた顔で深く息を吐くと、天井へと目を向ける。
「今日は何という日だ。次から次に予想を超える報告を受ける」
そう言ったライツェントの顔は疲労の色が滲んでいたが、先程までよりも血の気は良くなっていた。
ライツェントは苦笑いもかくやといった顔で笑うと、ドゥケルを眺める。
「……良い、分かった。とりあえず、このアツール王国がブラウ帝国に踏み潰される心配は無くなったのだからな。次に天空の王と将軍が相対出来る時、こちらからも書状を持たせるとしよう。ドゥケル将軍。天空の王との交渉、大儀であった」
「はっ!」
こうして、アツール王国は天空の城と同盟を結んだ歴史上最初の国となったのだった。




