帝国軍の戦力
作るのに時間と費用が掛かり、それでいて時と場合によっては作った当人である魔術師が戦った方が強い場合もある。
だが、それでもゴーレムという存在は戦争に必須の存在だった。
才ある魔術師は有限だが、時と金さえ使えばゴーレムは無限である。そして、城や街、歩兵を相手にする場合ならば、ゴーレムは最高の戦力となる。
ゴーレムを大量に用意出来る国。それはつまり強大な国力と大勢の魔術師を有している国である。
つまり、ゴーレムは指標でもあるのだ。
ゴーレムの質が高い場合は魔術的な研究が進んでいることの証明にもなる。
故に、一流の魔術師は一度は必ずゴーレムを作る。自らの知識と技術力の証明の為に、最高のゴーレムを作ろうとするのである。
帝国軍はそんな最高クラスのゴーレムを合計二百体用意してきていた。そのうちの百はファルベに、もう百は王都に向けられている。
百のゴーレムは横列に並び、帝国兵や傭兵を引き連れるように歩き、それぞれの目標目掛け進軍する。
【王都】
王都の街は混乱を極めていた。上空に突如として出現した黒い影。そして、帝国軍の襲来。
中には雲と同じ程の高さに浮かぶ黒い影を、帝国軍の開発した魔導兵器である等と予測する者も現れ、市民は恐怖に慄いた。
その混乱は王城の中でも蔓延していた。
「新しい情報は無いか!?」
「依然として、飛行物体に動きはありません!」
「帝国軍は!?」
「早馬の報告はまだ……!」
怒鳴り声が響き渡る玉座の間で、玉座に腰を下ろしたライツェントが深く息を吐く。
「……今日の夕方には帝国軍がこの王都に迫る、か。偶然ではあるまい。あの飛行物体は、帝国軍の動きに関係しているようだ」
ライツェントがそう呟くと、ローブを着た老人が眉を上げた。
「あの飛行物体がどうであれ、今一番の問題は帝国軍ですぞ。ファルベが一日で陥落する筈がありませんからな。帝国軍が軍を二つに分けたのは明白です」
「いや、ツァン大臣よ。あの飛行物体を無視するのは……」
ライツェントが難しい顔で老人にそう言うと、ツァンと呼ばれた老人は鼻を鳴らして首を左右に振る。
「陛下。老人は何でも簡単に考えるのです。飛行物体は空高くにおり手は出せません。ならば、気にしても無駄です。それよりも、確実に来る帝国軍について考える方が簡単でしょう」
ツァンがそう答えると、ライツェントは呆れた顔で目を瞬かせた。
「……私もそれだけスッパリと割り切れたら楽なのだがな」
ライツェントはそう口にすると、溜め息を吐いて顔を上げる。
「一先ず、大臣の言うように帝国軍に対しての対策を練るとしよう。篭城か、打って出るか」
「ろ、篭城でしょう! 敵はあの帝国軍ですぞ! 今は守りを固め、援軍を……」
「馬鹿を言うな! ファルベは王都よりも兵も魔術師もおらんのだ! こちらが一刻も早く帝国軍を打ち破るか撤退させ、ファルベを攻める一軍を背後から……」
「いや、ファルベを守るハイラート将軍がすでに各地に援軍を……」
激しい議論が始まり、ライツェントは背凭れに体重を預けた。
臣下らの怒鳴り合う姿を眺めながら、静かに肘置きに肘を立て、拳に顎を乗せる。
「……降伏しても負けても我らはタダでは済むまいな。勝つしか無い。勝つしか無いのだ……」
ライツェントは小さく小さくそう呟き、小刻みに震える膝に手を置いて力を込めた。
【天空の城】
巨大なスクリーンに映しだされた地上の景色を見て、俺は大きく息を吐いた。
「凄いな。映画みたいだ」
地上には広い平野となだらかな丘、そして長い小川が映し出されている。丘の上には大きな四角い形の街があり、真ん中には城らしき建物も見えた。
そして、その四角い街から離れた場所では、まるで生き物のように形を変えていく帝国軍の姿がある。
数を数えるのも面倒になる兵士の数だ。奥には馬車も沢山あり、馬に乗った兵もズラリと並んでいる。その前には弓を持った兵士。そして長い槍を持った兵士といった順番だ。
「……いや、最前列は人じゃないか」
俺がそんな独り言を口にすると、隣で祈るように手を合わせたエイラが口を開いた。
「……あれらは全て帝国軍が誇る最大最強のゴーレムです。タイキ様のゴーレムとは形が違い分厚く造られていますが、それでも人間と然程変わらない速さで動くと言われています。それに、大きく分厚いだけに、その強靭さは圧倒的です」
深刻な表情で語られる情報に、俺は改めて帝国軍のゴーレムを観察する。
カメラを動かして拡大し、ゴーレム一体一体を順番に映し出していく。
どれも暗い色合いの金属の光沢を放っているが、形状には差異がある。四角いブロックが積み重なったようなゴーレムもいれば、反対に丸みのある形のゴーレムもいる。
「あ、形だけかと思ったら武器も違うんだね」
映像を見ていて気付いた事を口にすると、エイラは律儀に頷いて答えた。
「あ、はい……それぞれゴーレムの製作者が違いますから、戦い方にも違いがあります。槍を構えたまま突進することでゴーレムの大きさと重さを活かす者、剣と盾を持たせることで何処でも戦えるようにする者など、武器も戦い方も多種多様だそうです」
「へぇ。同じなのは紋章みたいなのが付いてるだけか。全員形と武器を揃えた方が軍隊っぽくて見栄えが良いのになぁ」
そんな呑気な感想を述べていると、エイラがそわそわしながらこちらを見た。
「……あ、あの、タイキ様……本当に、こんな大きな戦争を止める事が出来るのでしょうか……?」
不安そうに尋ねてきたエイラに、俺は小さく頷く。
「大丈夫、だと思う……やれるだけのことはやってみるから、天使様に祈っててよ」
「て、天使様に、ですか……?」
困惑するエイラに微笑み、俺は操作画面に手を置いた。
「さぁ、やってみようか」
さぁ、天空の城が本領を……いや、力の一部を見せつける!




