方向転換
【タイキ】
ブラウ帝国の首都とやらに着いたので、カメラを起動した。どうせなら詳細に見ようと思って遠視カメラを選択する。
スクリーンに分割された画面が表示され、徐々に地上の映像が近付いてくる。
その中の一つを見て、俺は首を傾げた。
「ん? 人?」
映っていたのはローブをはためかせて空に浮かぶ人間だった。長い金髪が目を引く。
「おぉ、飛んでる! あ、耳が長い? 耳長族?」
スクリーンに映る謎の人物に興奮していると、別のスクリーンを見るエイラが眉根を寄せて固まった。
「……まさか、皇帝……?」
「皇帝? 皇帝ってあの皇帝?」
エイラの呟きに思わずそう尋ねながら視線を向ける。
スクリーンには数人の空を飛ぶ人達がおり、真ん中には大きな椅子に座った老人の姿があった。
王冠みたいなものは被っていないが、雰囲気で偉い人だと分かる。
痩せたその老人は、子供のように無邪気に笑いながらカメラを見ていた。椅子を持っている他の者達は慌てふためいているが、椅子が揺れようと気にもしていない。
と、先ほどの金髪の耳の長い人が老人の下に降りて来て、全員で下降を始めた。
「ま、間違いない……」
怯えたようにその老人の姿を見ていたエイラに、俺は成る程と頷く。
確かに、狂気を感じさせる老人だった。笑い方は子供のようでもあったけれど、それはつまり自分の欲求に素直なのかもしれない。
侵略者のトップがそんな老人ならば、エイラが恐怖心を抱くのも分かる。
無邪気に容赦無く、欲しい物は全て奪っていくに違いない。
「よし。じゃあ、エイラが怖くないように、アツール王国だっけ? そっちに行こうか」
そう言って、タッチパネルに指を置く。
「え、あ、王国に、ですか?」
「ああ。そろそろ帰らないと親御さんが心配してるだろうし、ね」
ああ、言ってしまった。エイラの不安そうな顔を見て、思わず口にしてしまった。
エイラが帰ったら、また独りになってしまう。寂しくて死んでしまうかもしれない。
でも、それはエイラの家族にとっても同じことだろう。
俺は無理矢理笑顔を作り、口を開く。
「さぁ、行こうか」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、方向は南東を選択した。時速も二十キロから百キロに上げる。
「明日には着くさ」
そう言って立ち上がり、エレベーターに向かうと、エイラは神妙な顔で付いてきた。
無言でエレベーターに乗り俯くエイラに、俺とA1は顔を見合わせる。
いや、A1はエイラを見てるのか。なんて奴だ。まったく、困った紳士である。
食堂に向かい、料理をしようかと思って準備をし、何となく気まずいので話を振ってみた。
「料理、ちょっとやってみる?」
そう聞いてみると、無意識に椅子に座っていたエイラが慌てて立ち上がった。
恥ずかしそうな顔で隣に来ると、こちらを見上げて頷く。
「あ、は、はい! お願いします!」
「じゃあ、包丁の握り方からいこうかな」
そう言って、俺たちは並んで料理を始めた。
【ケーニヒス】
「街に城……空飛ぶ島……! おぉ、何ということだ。これ程までに昂ぶるのは久しく無いぞ」
興奮するケーニヒスに、アイファは厳しい表情で頷く。
「文明は高度であり、あの黒い物体が現れた島の下部には判断の難しい設備がありました」
そんなアイファの報告に、黙って話を聞いていたリガンが顎を撫でながら唸る。
「想像もつかない高度な魔法技術……どちらにしても、あの高さではこちらから何も出来ません。更に、かなりの速度で離れていったのです。調査も出来ませんな」
「馬鹿を言うな。アイファならばあの島に辿り着く可能性があるではないか。すぐに書状と馬を用意するぞ。あぁ、いや、これを持て」
早口に捲し立てたケーニヒスが自らの右手から指輪を一つ取り外した。中指に付けられた指輪である。まるで骨を削ったような質感の白い指輪だ。
「グランドドラゴンの指輪だ」
「グランドドラゴンの……」
「国宝では無いですか」
指輪を受け取ったアイファが目を丸くし、リガンは渋い顔で指輪を見た。
「うむ。この帝国が退けてきた相手の中で最も恐ろしい、強大な相手であったな。結局、討伐までは出来ず撃退に止まった。その時の素材から作った指輪である。魔力や身体能力の向上といった効果のある、最高位のアイテムだろう」
驚くアイファの顔を眺めながら「本当ならグランドドラゴンの心臓か目玉を使った物が作りたかったが」と言ってケーニヒスは笑う。
「……お借り致します」
応え、アイファはすぐに右手の中指に指輪をはめた。
「供を付けても良い。遅くならないように馬に乗り慣れた騎士が良いか?」
「それでは、体力のある若い者を二人お願いします」
「分かった。私の書状があれば帝国内では望むだけの支援を受けることが出来るだろう。だが、国外は別と考えよ」
「はっ」
あれよあれよと言う間に指示を終え、ケーニヒスは鋭く目を細めた。
「分かっているだろうが、何よりも優先すべき大役である。もし、私が島に行けるように出来たなら、お前の家族だけでなく、全てのエルフが一級市民となるだろう」
そう告げて、ケーニヒスはアイファの腕を横から軽く叩いた。
「そして、お前は魔術師としての貴族位だけでなく、上級貴族とすることを約束しよう」
ケーニヒスの言葉に周囲ではざわめきが起き、アイファは表情を引き締めて顎を引く。
「……承りました」
そう言ったアイファに、ケーニヒスは喉を鳴らして笑い、書状の用意をリガンに命じた。
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次話から展開が進みますので、是非また読んで下さい!




