皇帝の反応
世界の南にあるリースブラス山脈は三つの国を分断している。一つは山脈から見て南西にある小国のツィノー。一つは南東にある小国のアツール王国。
そして、もう一つが北にある大国、ブラウ帝国という国だそうだ。
エイラはアツール王国の町に住んでいたらしいが、帝国には良い感情を持っていないようだ。むしろ、意識的には敵国という感覚である。
「あの国は私が産まれる前はアツール王国と同じくらいの国力だったそうです。しかし、今の皇帝である、ケーニヒス・ブラウ皇帝が近隣の小国を攻めて属国にし、急速に大きくなっております」
そんな感じの説明を聞き、首を傾げる。
「てっきり王都とかに住んでたのかと思ったけど、エイラはもしかして帝国との国境に近い町に住んでたの?」
憎しみにも似た強い感情を感じてそう尋ねたのだが、エイラは視線を泳がせてから俯いた。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
不安になった俺は、話を逸らそうと別の話題を必死に探すのだった。
【ケーニヒス皇帝】
その男はメイドに肩を借りて立ち、休む事なく空を眺めていた。
ブラウ帝国の皇帝、ケーニヒス・ブラウである。白い長い髪が顔に掛かっても気にすることなく遠くを見つめるケーニヒスは、ただただ無言で空を見た。
城のバルコニーに立っているケーニヒスの後ろには椅子が置かれており、近くには豪華なローブを手にしたメイドも控えているが、ケーニヒスは見向きもしなかった。
「来た、来たぞ……!」
誰にともなくそう叫び、ケーニヒスが顔を上げた。前のめりになった身体を支えようとメイドが腕に力を込める。
「お、おぉ……何だあれは……確かに、ドラゴンではない……」
ぶつぶつと呟きながら、ケーニヒスは目を細めた。
「何だ? まさか、山が浮いているのか? いや、上には何かが乗っているようだ……」
と、そこへ大人数を連れたリガンが姿を見せる。
「魔術師を集めて参りました」
そう言って現れたリガンとローブ姿の者達は、空を見上げて声を上げた。
「な、なんと」
「し、島が飛んでる?」
口々に驚きの声を上げる皆を眺め、ケーニヒスは鼻を鳴らした。
「あれは高過ぎて手が出ないな。だが、何が飛んでいるのかは気になる」
そう言うと、リガンのすぐ後ろにいる長い耳の男を見た。
「アイファ、飛翔魔術が得意な者を五人選べ」
「はい」
アイファと呼ばれた男は長い金髪を揺らして背後を振り向き、すぐに五人の男女を選び出す。
「アイファは先導せよ。私はこの椅子に座る。他の者達は椅子を抱えて飛べ」
「は、はっ!」
ケーニヒスの言葉に、選ばれた五人は緊張しながら返事をした。
椅子にどっかりと座り、その周りに魔術師が並ぶ。
「行ってくるぞ」
「お気を付けて」
ケーニヒスの台詞に、リガンが頭を下げてそう言った。
「さぁ、行け」
指示を受け、皆がぶつぶつと口の中で呟き、アイファが先に飛び上がった。それに引っ張られるように、ケーニヒスの周りに立つ魔術師達も身体が浮き、ケーニヒスが座る椅子と共に空へと飛んで行く。
グングンと伸びるように速度を上げて上昇していくケーニヒスは、上から下に下がってくる雲や地上の景色に口の端を上げた。
だが、徐々に上昇する速度を落としていく魔術師達。
高さは地上から千メートル程だろうか。まだ速度を落とさずに上昇を続けていたアイファが失速に気が付き、戻って来る。
「あまり無理をしない方が良いでしょう。飛翔魔術は多大な集中力を使います。限界を越えれば魔力の消費はそれだけ加速度的に増加致します」
「良い。此処からでもかなり見やすくなった」
そう言ってケーニヒスが斜め上空を見ると、辛うじて空を飛ぶ島と、その上にある城の屋根が視界に入った。
「空を飛ぶ島……」
「た、建物が見えるぞ」
「城だ」
魔術師の一人が言った言葉をケーニヒスが訂正した。
徐々に顔が喜びに歪むケーニヒスに、顔を見た魔術師はギョッとする。
椅子の上で身体を震わせるケーニヒスは、噴き出すように大声で笑いだした。
「は、ははは、はははははっ! なんということだ。空を舞う島、そして島の上に建つ城……いや、天空の城、か!」
一頻り笑い、興奮を隠しもせずにアイファを見上げる。
「行けるところまで行って参れ! 天空の城の景色を見て、私に伝えよ!」
「はっ」
アイファは短く返事をすると、一気に高度を上げて行った。その姿から目を離すと、ケーニヒスは少しずつ近付いてくる島に目を細める。
「この歳になってこれほど心が揺れるとはな。なんという雄大な姿だ! まさに、神の住まう島に神の住まう城!」
そう叫び、両手を広げ、ケーニヒスは天空の城を羨望の眼差しで睨み据える。
「欲しい……何と引き換えにしようと手に入れねば……! あれが手に入るならば、他の何も要らぬわ!」
そう口にして、ケーニヒスは狂ったように笑い続けた。
【アイファ】
空へと舞い上がり、危なげなく高度を上げたアイファは、島の二百メートル程下にまで到達した。
上昇を止め、アイファは近付いてくる島の威容に目を見開く。
岩肌が露出する島の下部には人工の壁や何かの設備らしき穴が見え隠れし、上部には広い庭園と無数の白い住居が見えた。そして、丘の上に聳える見事な城の姿。
「城と城下町がそのまま飛んでいるのか……」
アイファが呆然とそう呟いた瞬間、島の下部から黒くて小さな何かが次々に現れる。
「……何だ? まさか、攻撃か?」
そう口にして暫く黒い何かを観察していたアイファだったが、すぐに眼下に皇帝がいることを思い出し、下降を始めた。
「……もし攻められれば、帝国は何も出来ないな……」
冷静に状況を分析するアイファだったが、その顔は険しかった。
ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。
感想が返せず申し訳ありません。
全て読ませて頂いており、作者の活力となっております。
まだまだ楽しく書かせて頂きますので、また是非読んでみてください。




