城下町
「ようこそ、テルツィエール魔導国へ」
その言葉と共に、周囲を兵士達に守られながら城門を潜った。
守っていると同時に監視されているわけだが。
「思ったより物々しい感じで入国になっちゃったね」
そう呟くと、馬車の中にいる面々、エイラとメーア、ディツェンが頷いた。そして、アイファが神妙な面持ちで頭を下げる。
「申し訳ありません」
「あ、いや、アイファを責めてるわけじゃないからね。なんかごめん」
すっかり落ち込んでしまったアイファに謝る。
ちなみに、ラントは一応外で周囲の様子を探る役目の為に御者席に座っていた。
「とりあえず、軽く王様に挨拶してから観光したいことを伝えてみよう。もし何かするって疑われたら、監視をつけてもらっても良しとしよう」
本当なら身内だけで気楽に観光したかったけど、仕方ない。
と、そこへ馬車の窓から外を見ていたエイラとメーアが興奮した様子で振り向いた。
「タイキ様、建物が綺麗ですよ」
「エルフもいっぱい」
その言葉に頷いてから窓に顔を寄せる。外を見ると、汚れ一つない白い建物が並んでいる。雪山の麓にあるだけに外は寒く、住民達の厚着も含めてとても調和の取れた景色に見えた。
エルフの少女が白い毛皮をマフラーのように首に巻き付け、白い息を吐きながらこちらを見ている。まるで絵画のような美しさだ。
「……凄いね。それに、思ったより人口が多そうだけど、街の雰囲気は静かで落ち着いている」
感想を口にすると、エイラは嬉しそうに頷いた。
「綺麗で静かで、とても良い国のように思います。お食事がどうかも気になりますね」
「あ、食べ物は私も気になります!」
エイラとメーアが目を輝かせてこちらを見つつ力説する。そこへ、ディツェンの素朴な疑問が発せられる。
「エルフの食事って、葉っぱか果物ばっかりじゃないんですか?」
そんな疑問に、エイラとメーアが愕然とする。そして、無言でアイファを見た。アイファは静かに首を左右に振る。
「私は森の民であり、テルツィエール魔導国のことは詳しくない。我らは肉や魚も食したが、この国の食生活がどうであるかは分からない」
珍しく困ったように答えたアイファに苦笑を返し、エイラ達を見る。
「まぁ、それもその時までのお楽しみとしとこうか」
そのまま城まで案内されて、馬車から降ろされた。
一応、A1達の同行には何も言われていないので、全員で城内を進む。
城を目の前にして見上げた光景も見事だったが、城内の景色も美しかった。白い壁や床の広い空間に、白く丸みのある柱が等間隔に並んでいる。シンメトリーに美意識をもっているのか、城内は神経質なまでに左右対称を守っていた。
外の気温が低いのもあって、城内も若干空気が冷たい。無駄な装飾も無い真っ白な城内は、まるで大教会の中のような神聖な雰囲気を感じさせてくれる。
我々を囲む兵士たちもエルフであり、城内の各所で待機している騎士や魔術師らしき者もエルフである。
ちなみに、中心を歩いているアイファにエルフ達の視線が集中している。A1やエイラにも視線は向くが、やはり天空の王と思しき人物がエルフであると思い、気になっているのだろう。
一方、アイファは実に堂々としていた。皆からの視線には気付いているだろうが、全く気にした様子は無い。
暫く中を進んで行くと、長い長い大階段に辿り着いた。
まるで山を登るように長い階段で、見上げてみるとかなり登った所で階段が途切れている。
これは、覚悟して登らないとな。
内心でそんなことを思いつつ、階段の一段目に足を掛けた。
そこからは無言である。ただただ気合いを入れて階段を登り続けた。途中で休もうよと言いたくなったが、周りの兵士たちは鎧を着込んでいるのに無表情に登り続けている。
「……大丈夫ですか、タイキ様」
隣を歩くエイラに遠慮がちに聞かれて、思わず意地を張ってしまう。
「だ、大丈夫だよ。エイラも大丈夫?」
そう聞き返すが、エイラは微笑を浮かべて頷いた。
「はい。ありがとうございます」
本当に大丈夫そうである。
なんとも言えない敗北感を味わいながら、必死に階段を登った。ようやく登り切った頃には、足は棒のようである。
その為、登り切った先に広い通路が続き、その奥に更に階段があるのを発見した時には、流石に心が折れてしまった。
「……ちょっと、休んでも良い?」
小さな声でそう提案した瞬間、アイファが素早く口を開いた。
「小休止だ! ここで休む!」
「はっ! 皆、天空の王が休みたいと仰っている! 椅子を持て!」
「はっ!」
アイファの宣言に、皆が機敏に反応して動き始める。兵士達は通路の左右にある部屋の中へ消え、すぐに人数分の椅子を持って帰ってきた。
「どうぞ、御寛ぎください」
言われて差し出された木製のシンプルな椅子に座り、持ってきてくれた兵士に会釈をしておく。
情けない限りである。どう考えても休む必要のなさそうな皆様を眺めて、深い溜め息が出る。
皆、体力あるなぁ。天空の島に戻ったら毎日ランニングしようかな。最低でもエイラより体力つけたい。
と、我ながら情けないことを思う。
結果、五分くらいゆっくり休ませてもらい、ようやく階段登りを再開することとなった。
そうして、足が棒になって登り切った先には、クリスタルの宮殿とも言うべき豪華絢爛な世界が広がっていた。
真っ白な壁や床、天井には細部まで精巧に作られたクリスタルの調度品やシャンデリア、像などが設置されており、我々は揃って目を奪われてしまう。
光はクリスタルのシャンデリアによって反射し合い、広間を幻想的に演出していた。
その美しい光景の先に、芸術作品の一部のように白銀の鎧に身を包んだエルフの騎士達が並び、奥に五段程度の階段と、その上には背もたれの高い椅子に座する白い衣装のエルフの姿があった。
神の御前である。控えおろう等と言われたら、思わず土下座してしまいそうな神々しさである。
その荘厳な光景の中を、アイファ、ラント、俺、エイラ、メーア、ディツェンの順番で歩いていく。A1達ロボットはその更に後ろを付いてきている。
エルフの騎士達の前に辿り着くと、騎士達は左右に綺麗に分かれて道を作った。奥の階段とその上に座する一人のエルフの姿が目の前に現れ、アイファは立ち止まる。
このまま上がっていいのか、それとも待機で良いのか。はたまた、その場で跪いた方が良いのか。
色々考えていることだろう。
それらは全てアイファに任せた。俺は思考を全て放棄し、エルフの城の美しさに感心しつつ、騎士も皆美形ばっかりだなぁ、なんて感想を頭の中に思い浮かべることにする。
と、その時だ。
突然、階段上のエルフが小さく笑い声を上げた。
「ふ、ふふ……」
その笑い声に、白いローブのエルフが女であると知れた。
女エルフは顔を上げ、まっすぐに俺の目を見た。
「天空の王がどんな人物かと思っていたが、やはり中々の大人物であるようだ。なにせ、この状況下で城内の景色を楽しむ余裕があるくらいなのだからな」
そう言って、女エルフは愉快そうに笑った。
え? もしかして、心を読まれてる?
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異世界転生して教師になったが、魔女と恐れられている件
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