一石二鳥を三鳥に
グレイとカテリーナを歓待し、一晩考えた二人から「協力する」という言葉をもらったタイキは、笑顔で城の三階、ロボットの待機部屋に案内した。
「協力者となるお二人に、まずはこちらが先に力を貸しましょう」
タイキがニコニコと笑顔でそう告げたが、二人はそれには反応出来なかった。
無数に並ぶロボット達の光景に、茫然としていたからである。
「まさか、このゴーレム全てを一斉に……?」
ようやく、グレイがそれだけ呟き、タイキが頷く。
「もしもの際には全てを動員することもあるでしょう。まぁ、そんなことはまず無いでしょうが」
笑いながら答えたタイキに、顔を強張らせるカテリーナがそっと呟いた。
「……最初から、勝敗なんて決まっていた、ということね……カルルク王国の王家なんて、眼中に無い筈だわ」
雲の無い空に舞い降りていく二人とロボット達を見下ろしながらタイキが手を振る。
今回はグレイ達を守り、店まで避難させるだけの為にロボットを十体派遣した。ロボット達に囲まれながら地上に降りていく二人を見送り、タイキは背伸びをして息を吐く。
「ふぅ、緊張したね」
そう呟くと、エイラが驚いた顔で振り向いた。
「タイキ様がですか? どの王侯貴族と対面しても緊張なんてされてなさそうでしたが……」
「ああ、最近は王様とかにも慣れてきた気がするね。でも、元奴隷の人に奴隷売買に協力してくれって言うのは、ちょっとね。今のところ、レティシアさんもリヒトさん達も文句も言わず協力してくれてるけど、もし色々と精神的に弱ってしまったり、何か起こるようなことがあれば、俺が直接話を聞こうと思う」
アフターフォローが大事だからね、と言って笑うタイキに笑みを返すエイラ。すると、エイラの隣にいたユーリが口を開く。
「これからどうされるのでしょうか?」
端的な質問を受け、タイキは眉根を寄せて唸る。
「う〜ん……まぁ、一先ずはこれから混乱しそうなカルルク王国の一号店を防衛強化の為に周囲に壁や住居を作ろうかな。後は、帝国に二号店、フリーダー皇国に三号店を作ろうかな? アツール王国はこちらが手を出さなくても、お願いしたらやってくれそうだし」
「大きな貸しのあるブラウ帝国もアツール王国と同様では?」
「いや、帝国は一部隣国から攻められ始めてるらしいし、国内の地盤固めと国境線の維持が忙しそうだからね。皇帝さんに許可を貰って勝手にやらせてもらおう」
そんな軽いノリで今後の方針を固めつつ、タイキはディスプレイに指を触れる。
何度か操作すると、正面のスクリーンに衛星写真のような映像が映し出された。
それを見て、エイラとユーリ、ついでにお茶を配膳にきていたメーアが目を見開いて固まる。
「最近、いろんな場所で撮った景色を繋ぎ合わせて簡単な地図を作ったんだけど……」
そんなことを呟きながら、ディスプレイに人差し指を押し当ててスクリーン上に矢印アイコンを出現させるタイキに、皆は目を丸くしたまま文句を口にした。
「……久しぶりにタイキ様の理不尽なまでの力を見せられました」
「これは簡単な地図などでは無い気がいたしますが……?」
「前人未踏の山や森まである……」
タイキは知らないが、強大な魔物や厳しい自然環境、地形などの要因により、これまでどの国も詳細な地図は作成が困難だった。
せいぜいが自国の領土と隣接した地の簡易的な地図である。最大の領土を誇ったブラウ帝国がそういった意味では多方面に有利な広い地図を有しており、大国を大国たらしめる武器の一つとしているほどである。
それに対して、他の国には無い空からの写真撮影という反則技であっさりと地図を作り上げたタイキに、エイラ達は驚きを通り越して呆れたような笑いが出た。
生温い視線を向けられているとは気付かずに、タイキはスクリーンを眺めながら話を続ける。
「立地的に、カルルク王国は経済の中心地になり得るのは道理だとは思う。今は大型の魔獣が多く生息する海を渡る手段が無いから、カルルク王国の立ち位置はしばらく変わらないだろうね。でも、色んな国と繋がっているこの状況は、攻められたら弱いということでもある」
「は、はい」
タイキがカルルク王国の現状を語ると、エイラ達は首を傾げながらも返事をした。その戸惑う雰囲気を感じて笑いながら、タイキはスクリーンを指差して口を開く。
「言うなれば、世界で最も稼ぐ機会をくれる国。でも、いつ戦争になるか分からないという側面がある……行商人の一部は行きたくても二の足を踏むだろうし、隣国も様々な品を輸出入したいけど出来ない状況だよね。それらを加味すると、安心さえあったなら、本来ならもっと経済的に発展していても良い国だと思う。ということは」
そこで言葉を切り、タイキは振り返って笑う。
「天空の城の力を使って防衛を整えれば、どの国も力尽くでカルルク王国を奪おうとはしないと思う。デメリットの方が大きくなるだろうからね。そして、交易に適したこの場所を隣国も行商人も全力で利用しようとする」
そのセリフを聞き、エイラが「なるほど」と大きく頷いた。
「その為にカルルク王国を武力で潰さずに乗っ取ろうと!」
そして、そんなことを宣った。
「え? いやいや、別に乗っ取るつもりは無いんだけど……」
「流石はタイキ様ですね。最初は奴隷店の実績を作って他国に支店を出すと言われたので、てっきり他国内に情報収集のための拠点を作るのかと思っておりましたが、まさか更にもう一段階上手の狙いがあったとは……予定通り、奴隷の待遇は変わり、旧いやり方の奴隷売買をしていたカルルク王国の奴隷商人はいなくなるでしょうし、王国自体は瞬く間に天空の国が支配することになりましょう」
エイラの勘違いにタイキが困ったように笑って否定するが、ユーリが素晴らしい笑顔で口を開き、また明後日の方向に話を纏めようとする。
それらの会話を聞いていたメーアは難しそうな顔をして、首を斜めに傾けた。
「……つまり、カルルク王国がタイキ様のモノになって、奴隷の扱いは変わって、他の国には支店も出来るから……お金持ちになる?」
「お金持ちにもなりますよ。恐らく、世界で一番くらいの」
エイラが疑問に答え、メーアの目が輝いた。
「おー、すごい!」
そんなやりとりを眺めて、タイキは乾いた笑い声をあげる。
「……いや、そう簡単に国を乗っ取ったり出来ないと思うけど」
小さく呟かれたタイキの台詞は、三人の耳には入らず、エレベーターの前に立っていたA1が首を回して顔を向けるにとどまった。




