話し合いという名の脅し?
国王との謁見。
そんな難題がどうにかなるだろうかと心配していたのだが、案外あっさりといけた。
どうやら奴隷の待遇改善に大いに共感したらしいジーグさんの尽力により、翌日の夕方にはカルルク王国国王との謁見が成されたのだ。
その為にレジニシオン商会は国宝級のお宝を三つも出したというのだから頭が上がらない。
だが、お陰で謁見は叶った。これは何としても奴隷の待遇改善を約束させなければ。
俺はそんなことを思いながら、謁見の間へと通されたのである。そして、広間に足を踏み入れてすぐに息を呑んだ。
豪華絢爛。
一言で言うならそうとしか言いようが無い広間だ。下を見れば見事な分厚い絨毯。上を見れば鮮やかなステンドグラスが城の上部をぐるりと彩っている。シャンデリアも巨大で派手である。
ステンドグラスなんてこの世界にきて初めて見たぞ。
そう思いながら立っていると、俺の前を歩くジーグ、ラービアの二名が跪いた。
視線を前に戻すと、五段ほどの階段の上に二人の男が姿を見せていた。一人は五十代ほどに見える茶髪の男で、もう一人は深緑色の目つきの悪い男だ。こちらは二十代前半ほどに見える。どちらも豪華な衣装に身を包んでいるが、若い方が頭に王冠を被っているのでこちらが国王なのだろう。
つまり、イニシダ・デル・カルルク国王その人である。
「……む、そこの者! 跪け!」
と、ぼんやりと眺めていたら周囲の兵士達が殺気立ってきた。
思わず跪きそうになったが、事前に言われたことを思い出して慌てて仁王立ちスタイルに変更する。
ユーリから、侮られないように国王として胸を張っておかなくてはならないと言われていたのだ。
「貴様……!」
だが、激昂した兵士達が剣に手を伸ばした時、心が折れかかった。
思わず悲鳴を上げそうになったが、ラービアが大きな声で待ったをかけた。
「お待ち下さい!」
ラービアがそう叫ぶと、怒りに染まった広間の一同の目がそちらに向く。
「……レジニシオン商会からの献上とあったが、まさかそこの無礼な男がそれではあるまいな?」
壇上から若い男の声が響き、ラービアはびくりと肩を震わせた。見上げれば、恐ろしいほど顔を歪めたイニシダ陛下がこちらを睨んでいるではないか。
国王の怒りはそのまま広間の空気となり、まるで針のむしろである。
そんな張り詰めた雰囲気の中、ジーグが顔を上げて答えた。
「恐れながら申し上げます。我々レジニシオン商会はこちらのタイキ様のご要望の為、此度の場をご用意致しました。改めましてご紹介をさせていただきます。こちらが、天空の国の王、タイキ国王陛下にあらせられます」
ジーグがそう告げると、広間はざわめきに支配される。その騒々しさを見るに、それなりに天空の国の噂は知られているのだろう。
だが、壇上の陛下は疑惑の目をこちらに向けてきた。
「……天空の国の王? まさか、本気でそれを余に向かって口にしているのか?」
殺意すら混じる視線だ。その視線を一身に受けながら、ジーグは顎を引いた。
「……少なくとも、私は信じております。商売上、相手が嘘を吐いているかは分かるつもりですので……」
ジーグの返答に、イニシダは舌打ちをしてこちらを見た。
「……確かに、そこのエルフのような森の民ならばともかく、普通ならば他国の王族を前にそのような態度などとれんだろうな。だが、簡単には信じられんぞ」
と、イニシダも警戒心を抱きながらも、微妙に俺の扱いに困っている様子。糾弾したいが出来ない。嘘だと断定したいが証拠が無い。
そんなところだろうか。だが、このままでは話が進展しない。
膠着状態が続くくらいならば、こちらから話をさせてもらおう。
「イニシダ陛下。俺は天空の国の王、椎原大希といいます。そして、こちらがアツール王国のエイラ王女と、フリーダー皇国のユーリ王女。護衛は魔術師のアイファです」
「む、あ、アツール王国に、フリーダー皇国だと……?」
まずは自己紹介と思ったのだが、明らかに狼狽えた様子のイニシダを見て首を捻る。
実在するか分からない天空の国の名よりもアツール王国とフリーダー皇国の名の方が効き目が高いのか。
「宰相」
「……確かに、そういった名の王女がいたはずですが、本物かどうかは……」
イニシダは宰相と呼んだ男とそんなやりとりをしている。その様子を横目に見ながら、俺は口を開いた。
「それで、話をしてもよろしいですか?」
そう口にすると、イニシダは複雑な顔をこちらに向ける。迷いがあるなら、今が攻め時かもしれない。
「こちらからの要望は、簡単に言うと奴隷に関する法律の改正、でしょうか」
「……奴隷法を、改正?」
すっと、イニシダの顔から感情が抜け落ちた。周りの兵士達は混乱するばかりのようだが、宰相の顔は血の気が引いたようになっている。
「……えっと、まずは奴隷にも最低限度の衣食住を契約者に保障させること。次に、単純な犯罪奴隷と借金による奴隷以外を奴隷にすることを禁じること。後、違法な手段で奴隷を得た奴隷商人は厳罰に処すこと」
これ幸いと一気に要望をまくし立てていくと、イニシダよりも先に宰相が声を上げた。
「ちょ、ちょっと待っていただきたい! このカルルク王国にも法はある! 奴隷を扱う法もだ! それはそちらのご要望に近しい内容となっている!」
焦った顔の宰相にそう言われ、俺は首を傾げた。
「最低限度の生活は保障してある、と……屋根のある家屋、寝具、一日三食の食事、十分な睡眠時間も与えていますか?」
確認の為にそう聞くと、宰相やイニシダだけでなく、前で跪いていたジーグとラービアも固まってしまった。




