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天使の魂色  作者: 豆月冬河


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12-6 昔語り・その5

 ―――戦争が終結し、今まで定住先を持たなかった久吾が、天使たちと暮らす家を持つことになった。


 《(ヘット)》に協力してもらったこともあり、自宅の完成祝いに、久吾が日本酒『八海山』を出した時、


 「美味いな、八海山か。…八、俺と一緒だな。よし! これから俺を『(ハチ)』と呼べよ!」


 …その後、ハチのところにファリダが、久吾のところにめぇが増え、メンテナンスなどで時々会いながら、数十年が過ぎていった。


 美奈は、蓼科家の顧問のような立場になっていた。美代が亡くなった後も、事情を知り跡を継いだ美代の息子に、利益になるよう助言をしながら蓼科家を支えていた。


 子供達も美奈の手伝いをしながら、事務作業や通訳などで蓼科家と関わっていた。

 シンは、持ち前の運動神経の良さから、親しくなった出入りの要人護衛の者達に、格闘術を教わったりしていた。


 ―――最初の出会いからおよそ百年の時を経て、久吾の家にもっちーが増えた頃には、四人はすっかり大人の姿になっていた。


 チーとボーの兄妹は、祖母が欧州の生まれだったこともあり、目鼻立ちのはっきりした端正な顔立ちに育った。

 小さな頃は、そのせいで村の子供達にいじめられたこともあったが、ルーとシンが、いつも二人を助けてくれていたのだ。


 ボーは事務仕事の他、蓼科家で庭の手入れなどを時々手伝っていた。

 蓼科家を訪れる客がボーを見初めることもあったが、ボーは大抵逃げ出していた。


   ◇   ◇   ◇


 「こんにちは」


 いつものようにボーが庭の手入れをしていると、背の高い優しそうな男に声をかけられた。

 ビクッ、と反応するボーに、その男は笑って、


 「ごめんね、驚かせて。この綺麗な花達、君が手入れしているの?」


 立ち振舞がとても上品で、柔らかな物腰のその男に、ボーの警戒心は少し薄れ、


 「…い、いえ、私はお手伝いだけで…」


 そう小さく答えると、男が少しだけボーに近寄り、


 「そうなんだ。僕は宝来(ほうらい)(わたる)。今日は父に就いて、仕事を学ぶために来たんだ」


 宝来家といえば、日本屈指の財閥である。蓼科家にとっても、大事な仕事相手(ビジネスパートナー)だ。

 ボーは慌てて、ペコリと頭を下げ、


 「お、お世話になっております。私、ボー、と申します」


 「…ぼー? 変わった名前だね」


 優しく笑う渉を見て、ボーの心に今まで感じたことのない感情が湧いた。

 渉は、「また会いたいな」と言って、手を振って父親の元に戻っていった。

 ボーの顔は、しばらくの間、熱を帯びたままだった。


   ◇   ◇   ◇


 ボーの反応を見た後の、渉の行動は早かった。頻繁にボーに会いに来て、二人の仲は急速に深まっていった。

 すっかり渉に夢中になったボーは、初めての恋に浮かれていた。


 チー達が二人のことに気付いた頃、美奈が心配して、久吾に相談をする。


 『ボーの中の白虎の精霊と、話をして欲しい』、と。


 ボーは少し不満そうだったが、皆に言われて仕方なく久吾に視てもらう。


 久吾が白虎の精霊に、このままで良いか聞くと、


 ((…良くはないんだがね。アタシも我等を祠から解放してくれた、この子達が可愛いんだよ。特にアタシは、(ボー)が幸せそうにしてるのを見ると、何も言えなくなっちまうんだよねぇ))


 そう言うが、どうも相手の男の考えが読めないらしい。


 (((ボー)と会ってる時は、あの男、本気で(ボー)を愛している、ってのを感じるんだがね。…人間にも、あんなのがいるんだねぇ。本音が別のところにあって、読めないのさ))


 久吾も聞きながら、ふむ、と考える。白虎の精霊は最後に、


 ((…それから(ボー)だけどね。身籠ってるからね))


 え!? と久吾は驚いた。


   ◇   ◇   ◇


 白虎の精霊との話を終え、久吾が包み隠さず報告すると、チー達が「何!?」と怒っていたが、ボーだけはとても嬉しそうだった。

 美奈もどうやら白虎の精霊と同じ心境のようで、とても心配そうにしている。


 ―――ボーは、渉に妊娠の報告をした。

 そして、自分が精霊の加護によって、百年以上生きていることを正直に告げた。


 渉はそれを聞いて、にっこりと笑う。


 「…そうなんだ。じゃあ僕達、これで終わりだね」


 ………え?


 ボーは一瞬、渉が何を言っているのか分からなかった。


   ◇   ◇   ◇


 「離せ! アイツ、殴ってやらなきゃ気が済まないよ!」


 怒りで我を忘れているチーを、ルーとシンが必死で押さえる。ボーは泣きはらした顔で放心していた。


 再び久吾に来てもらい、精霊達と相談することになった。

 四体の精霊と久吾との、精神世界での会話が行われた。


 青龍の精霊が言う。


 ((考えようによっては、良かったかもしれん。(ボー)に宿った赤児(あかご)の魂を連れて、我等は本体に戻るとしよう))


 どういう事ですか? と久吾が聞くと、玄武の精霊が、


 ((我等が戻るには、清い魂の(にえ)が一つ必要だったのじゃよ。丁度よいじゃろ))


 朱雀の精霊も、


 ((百年以上かかっちゃったけど、やっと皆、普通の人間に戻れるよ! 良かったね!))


 贄が必要だったのですか? と久吾が聞くと、白虎の精霊が、


 ((仲の良い子供達だったからね。誰か一人だけ犠牲に、ってのは可哀想だと思ってたのさ。アタシらも、本体に戻るための精力(エネルギー)は必要なんだ))


 なるほど、と思い、会話を終わらせ報告する。


 ―――話を聞いて、皆、一様に驚いていた。

 ルーが言う。


 「じゃあ問題ないだろ。精霊達の言う通りにしよう」


 チーもシンも頷くが、ボーは、


 「………少し、考えさせて」


 そう言った。

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