表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の魂色  作者: 豆月冬河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/194

10-1 新しいマネージャー

 「めぇチャン! 会いたかったよぉ! 一週間が長かったよ〜!」


 風月(かづき)が、めぇを抱っこしながら頬ずりする。

 風月のめぇ参りは、週に一度程度で行われている。本人は『めぇチャンの補給』と言っている。


 「…あれ? 今日は久吾さん、いないの?」


 風月の問いに、めぇが抱っこされながら答える。


 「旦那様なら、昔馴染みの方にお会いしに行きましたメよ」


 「昔馴染み?」


 「富士のお山の近くだそうですメ」


 「へぇ…、その人、いくつ?」


 「えーと…、最初の(かた)から九代目とか言ってた気がするメけど…」


 「えぇ?」


 めぇも良く分からなかったようだ。


   ◇   ◇   ◇


 「お久しぶりです。光栄(みつえ)さん」


 久吾が訪れたのは、本栖湖に近い、とある町の一角にある『名執(なとり)』という名の旧家である。

 ここは、富士の『龍脈』に繋がる土地である。


 久吾が過去、世話になった家であり、戦時中はみー君とふーちゃんを匿ってもらったこともあった。

 久吾は定期的に訪れ、霊薬で得た収入の一部を納めている。

 久吾達の事情を知る、数少ない人間達のうちの一人だ。


 「まあ。久しぶりと言っても、久吾さんは息子夫婦よりも、まめに足を運んで下さってますよ」


 そう笑う光栄は、(よわい)80を超えているが、上品で矍鑠(かくしゃく)とした女性だ。光栄は布に(くる)まれた現金を受け取りながら、


 「いつも有難うございます。…それにしても、本当に不思議。何年経っても、貴方は変わりませんのね」


 「…そうですね。光栄さんと初めてお会いしたのは、まだ貴女がやっと歩き始めた頃でしたかね」


 光栄は、急須で入れたお茶を久吾に差し出し、懐かしそうに、


 「さすがにそれは覚えていないけれど…、母は久吾さんが来ると、いつも嬉しそうだったわ。…ご存知かしら? 母の初恋は、貴方だったそうよ」


 「…存じませんね。みねさんには、決まった相手がいらっしゃいましたよ」


 久吾はお茶を頂きながら、そう答えた。


 「フフ。貴方って、いつもそうね。優しいのに、深く関わらないようにして…。…でも、そうね。それが、『人』ではない貴方が『人』の中で生きる(すべ)なのかしらね」


 「………」


 「…本当に。『人』でないと聞いた時は、信じられなかったわ。貴方よりも非道い人間の方が、よほど多いのにね…」


 光栄は、自分のお茶も淹れながら続ける。


 「…この名執の家は、代々女の方が霊力(ちから)を持って生まれるけど、(みやび)は霊力を持たなかったから…。でもね、孫の彩葉(いろは)は受け継いでいたみたいですよ」


 「おや、そうですか。最後にお会いしたのは確か、小学校に上がるとかで、ランドセルを背負って見せてくれたような…」


 「そうね、十年くらい前だったわね。貴方がいらっしゃる時、大体彩葉は学校の時間だったから…。今ね、あの()、東京の高校に通ってるのよ」


 久吾が驚いていると、光栄の娘・みやびが庭から顔を出し、


 「あら、久吾さん! いらしてたんですか!?」


 慌てながら挨拶をするので、久吾も、お邪魔してます、と挨拶をした。

 みやびがパタパタ、と庭をかけていくのを見ながら、光栄が、


 「…そういえば、彩葉にはまだ久吾さん達の事情を話してないのよね。今度帰ってきたら、説明しないと…」


 そう言って、再びお茶をすすっていた。


   ◇   ◇   ◇


 章夫の息子・裕人の朝は早い。

 サッカー部の朝練があるため、毎日早くから起きて、父が洗濯をする間に簡単な朝食と弁当を作り、二人で食事を済ませて出かける。


 「よお! 裕人!」


 同じサッカー部の蓮が、学校近くの通学路で声をかけてきた。


 「おはよ。蓮にしちゃ、早くない?」


 裕人が言うと、蓮は、


 「だってさぁ、稲葉センパイが遠くに引っ越しちゃって、マネージャー不在だったのが、今日から新しいお方がいらっしゃるんだぜ!」


 裕人は、ああ、そうか、と言って、


 「誰? 蓮、知ってるの?」


 「何だ、お前知らねーの? 2年の名執センパイ。もう、チョー美人! 茶道部と掛け持ちでマネージャーやってくれるって、あんだけ盛り上がってたのに!」


 裕人は、興味なさそうに、へぇ、と言った。

 学校に到着し、部室で着替えてグラウンドに出ると、ジャージ姿の女子が水飲み場にいた。小柄で、長い黒髪を後ろに束ねている。

 その女子が、こちらに気づいた。

 ニコッと笑う。


 「おはよう。…えーと、まだ名前覚えられないや。私、名執(なとり)彩葉(いろは)。今日からマネージャーなの」


 そう声をかけられて、裕人は、ドキッ、とした。


 「…あ、お、おはようございます。…ぼ、僕、1年の伊川裕人です」


 彩葉はキラキラした笑顔で「よろしくね! 裕人くん!」と言って、部長の下へ走って行った。


 (…うわぁ、あんなに可愛らしい女の人、初めて見た)


 裕人の胸はまだ、ドキドキと脈打っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ