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天使の魂色  作者: 豆月冬河


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5-2 噂

 『伊川章夫は死神に取り憑かれている』


 ―――いつからか、章夫はそう噂をされていた。


 (………本当に、名奈さんがああ言ってくれなかったら、とっくの昔に心が折れてるなぁ)


 今まで『あなたは何も悪いことをしていない』『あなたのせいではない』と言ってくれたのは、久吾ただ一人だけだった。


   ◇   ◇   ◇


 妻のみゆきが死んだ時、休職をしていた。

 その間に社内では、噂が飛んだ。


 『あの人の家族になると死ぬ』


 両親と弟を亡くしていることは、皆知っていたので仕方がない。

 しかし、休職していたおかげで、復帰した頃には噂も落ち着いていた。


 裕人の保育園も決まり、そこが少し遠いので引っ越すことを久吾に報告したことがあった。すると、


 「何かあれば、連絡を入れてからこの住所にいらして下さい」


 と、引っ越し先に程近い住所を教えてくれた。

 連絡して行ってみると、全く同じ家がそこにあったのには驚いた。


 その時、久吾と縁側で話をした。

 赤ちゃんの裕人が、ふーちゃんの手につかまって、立ち上がろうと頑張っていた。


 「…未だに考えてしまうんですよね。妻は、あの男に未練があったのかな、と…」


 久吾は少し考えてから言った。


 「…私は、章夫さんほど奥様を存じ上げないので、何とも言えませんが…。あなたの中の奥様がどんな方だったか、今一度思い出してみてはいかがですか?」


 そう言われて、思い出す。

 口下手で、感情が乏しくて、でも自分と暮らしてからは、穏やかな顔をしていて、裕人が生まれた後は、片時も裕人を離さなかった、そんなみゆきの姿を。


 …既にみゆきはこの世にいない。訊くことは出来ないが、章夫はわだかまりを捨てることにしたのだ。


   ◇   ◇   ◇


 それ以来、裕人を連れて久吾の家に行くことはなかった。理由はあるが、章夫も色々と忙しくなってしまっていた。


 裕人が小学校に上がった時―――


 「お父さん! ボク、サッカーやりたい!」


 「ハハ、そうか。じゃあ、学校のチームに入ってみるか?」


 …しかし、保護者同士の付き合いが面倒だった。


 係の仕事も多く、土日が潰れた。

 試合には弁当を作って裕人を応援した。すると、


 「まぁ、裕人君のお父さんはスゴいわねぇ、私より上手」


 「ホント、ウチの旦那と取り替えたいわぁ」


 「うらやましいわねぇ」


 そう言う一方で、離れた所では


 「…でも私、聞いちゃったのよ。あの人の家族、裕人君以外みんな死んでるって」


 「やだ、ホントなのぉ?」


 「何か怖いわねぇ…」


 と、色々噂をされていた。


 ―――しかし、裕人が中学生になると、保護者同士の付き合いが減った。楽になった。

 裕人はサッカー部で頑張っていた。この頃になると、裕人も自分で弁当を作ったりしていた。


 裕人は、みゆきによく似ていた。


 「…ねえねえ、裕人クン、良いよね?」


 「…ねー。優しくて、カッコよくて…」


 母親譲りの容姿のおかげで、周りの女子たちが色めき立っていたようだ。


 しかし本人はそんな自覚はなさそうだった。

 友達と一緒の方が楽しいらしく、


 「裕人、お前はモテるからいいよなー」


 「えー? そうかなぁ…。そういうの、あんまり興味ないんだよねぇ」


 のびのびと育ってくれたし、なにより父のことを大好きな優しい子になった。

 

 ―――先日、受験を乗り越え志望校に合格し、晴れて高校生になった。


 「おめでとう、裕人」


 「うん! ありがとう、お父さん」


 裕人はアルバイトを始め、勉強・部活とも両立させるべく忙しい毎日を送っている。


 …そして、アルバイトも部活もない、その日の朝。


 「…そうか。じゃあ久しぶりに、外で食事でもしようか?」


 「ホント!? やったぁ!」


 ………しかし、夜8時を過ぎても帰ってこない。連絡もない。学校にも連絡したが、既に下校した後だった。


 章夫は焦った。

 居ても立ってもいられず、警察に連絡をした。


 『…帰宅途中で攫われた少年がいる、という情報が届いています。…が、まだお宅のお子さんかどうか…』


 正確な事が分かったら、連絡して迎えに行くので、家で待機するよう言い渡された。


 ………落ち着かない章夫は、久方ぶりに自分から久吾のところに連絡を入れた。

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