16-13 《0》の夢・その12
長かったけどついに。
夢の話もあとちょっと。
「《0》、方舟を別の場所に移動させようと思うのですが…」
眠りにつこうとする《0》に、《1》が提案する。
アララト山周辺にも人間が増え、《7》が天候を操って人を近づけないようにしていたのだが、いっそ場所を移したほうが面倒が無い、と《一桁》皆で話し合ったそうだ。
《0》はそれを許可し、眠りにつく。場所が変わろうと、《0》のやる事に変わりは無いのだ。
《1》が提案した場所は、世界の果て・南極。人間が滅多に訪れることのない氷の大陸である。
巨大な氷の中に空洞を作り、そこに方舟の内部をまるごと据えることにした。《1》・《2》・《7》が能力を使って場所を確保し、三人で力を合わせて転移させた。
以前より広くなった空間に、各々の執務室を増築した。それらを繋げる通路には、まるで人間の城のオブジェのような美しい細工を施した。
…方舟はいつしか『宮殿』と名を変えていくことになる。
◇ ◇ ◇
―――およそ百年後。No.301〜400。視える者はいない。
―――さらに百年後。No.401〜500。視える者はいない。
「―――《0》は何のために複製を造り続けてるんだろうな…」
《8》が疑問を《1》に投げかける。
「前にも言ったろう。彼は精神体となった子供達を…」
「だから、その後だよ。俺達が更新しても特にお咎めなしなんだぜ。そして、《0》は確実に衰えてきている。考えられるのは…」
要するに、《0》は優秀な個体から抜擢して、自分の依代にするつもりではないか、と《8》は考えたらしい。
「悪いが、俺は宮殿を出る。…何つーかよ、同胞を排除し続けるってことが、少しばかり不快に感じるようになってきてな」
今まで《0》が眠っている間の複製の進捗を担っていた《8》が、宮殿を去ることになった。
今後の進捗作業は、《6》と《9》が引き継いだ。
去り際に《1》が、
「何かあれば声をかけてくれ。君の能力は我々に必要だ」
そう言って送り出した。
◇ ◇ ◇
―――再び百年後。No.501〜600。視える者はいない。
―――さらに百年後。No.601〜700。視える者はいない。
時折特殊変異型が生まれているようだったが、《0》は子供達が視えない者には興味を持てず、その処遇は全て《一桁》達に任せていた。
―――《3》が人間の少女を自室に引き込むようになった。
「…あの者、我々の住まう宮殿でいかがわしい行為を…」
《2》が苦言を訴えるが、《0》は《3》の行為を「大目に見てあげなさい」と許容した。
見た目が変わるほどの衝撃から何とか立ち直り、その能力で人間社会の情報を収集していた過程で何かあったのかも知れない。
他の《一桁》も、持て余した時間を好きに過ごすようになっていたが、人間に深く介入しなければ《0》は特に何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
((―――もうすっかりおじいちゃんだねー))
No.701〜800の複製作成の準備を進めていた時、ガブリエルが《0》にそう言った。
((…ハハ、そうだな。こんなにかかると思わなかったよ))
自嘲気味にそう答えると、ウリエルが、
((………私、祈ってみようかな))
((何に祈るんだ、ウリエル。…まさか、神、か?))
ラファエルに言われ、ウリエルは考えるが、ミカエルが笑って、
((何でもいいよ。ボクらの祈り…、願いが、聞き届けられますよーに! エヘヘ))
そう言うと皆で頷き合い、核となるオリハルコンに向かって祈る。《0》は子供達を見ながら、
((………そうだな。私も、祈ろう。今度こそ、君達が視える者が生まれることを…))
《0》はそう願いを込め、準備を終えて眠りについた。
◇ ◇ ◇
―――その日。
オリハルコンのそばで眠っていたミカエルは、ふと視線を感じて目を覚ました。
…試験管の中からこちらを見ている、一体の複製。
((……………?))
ふよふよ、と、ミカエルが飛びながら近づいていく。その複製は、それを目で追っている。
ミカエルが複製の目の前までやってくる。
複製の細い目が、ぱちくりと瞬きした。
((………))
ミカエルが、じー…、っと複製を見ていると、複製は、にっこりと笑った。
((!))
ミカエルは驚いた。急いで他の子供達を起こす。
((み、みんな! あの人、視えてる! ボク達のこと、視える人だ!))
え!? と全員が飛び起き、その試験管の前に集まる。
No.795。彼は、集まった子供達の顔を見ていた。
ミカエルは大急ぎで、《0》の元に飛んでいった。
((《0》! 《0》、起きて! 生まれた! 生まれたよ!))




