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天使の魂色  作者: 豆月冬河


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16-4 《0》の夢・その3

 救済の旅は順調だった。

 人間達が『神』と呼んでいた、その地で敬われていた土着の先住神(後に精霊や悪魔(!)と呼ばれる類)をノアが発見し、天使達が力を送り込んでいく。


 彼等のほとんどは、先日のアープのように異形の姿をしていた。

 今までノアが彼等の姿を見たことが無かったのは、唯一神(ヤハウェ)の傘下にいた事が影響していたらしい。


 相手によっては、天使達の力が多く必要な場合もあり、その時はしっかり天使達を眠らせ、休息しながら旅を続けた。


 ノアも天使達も、食事は何故か必要なかった。どうやら大気中の精気を、無意識に取り込んでいるようだった。

 ただ、時々畑仕事などを手伝った時や、ガブリエルが歌を口ずさんだ時など、お礼だったり感銘を受けたといった人間達が、果物などの食べ物を分けてくれた時があった。

 そんな時は、皆で分け合って美味しく頂いていた。


 「…洪水の被害範囲は、ほぼあいつの教圏だけだからな。あっちの大陸まで行く必要はない」


 ラファエルの言葉を聞き、ノアは驚く。


 「そうなのか? てっきり、世界の全てを呑み込んだのかと…」


 「そんな訳ないわよ。そもそも、唯一神(ヤハウェ)がいくら強大な力を持ったと言っても、自力で洪水を起こした訳じゃないし…」


 ウリエルの答えに、どういうことだ? とノアが聞くと、ミカエルが、


 「唯一神(ヤハウェ)は洪水が起こる時期を予測して、君に伝えたのさ。…そりゃあ、ある程度は力を加えたと思うけどね」


 そうなのか、と言うノアに、ガブリエルが、


 「…そういえば、あなたが造った『方舟』は? それに方舟を造った頃、あなたも絶大な能力(ちから)と知識を持っていたんじゃなかったの?」


 言われてノアは考える。


 「………確かに、そうだった気もする。…が、すまない。どうも、当時の記憶が曖昧で…」


 そう言って、ノアは頭を押さえる。その様子を見ながらラファエルが、


 「…確か方舟は、アララト山にあるんじゃなかったか?」


 ミカエルが頷き、


 「うん…。たぶん、だけど、ノアの知識と能力(ちから)のほとんどは、『方舟』に封じられてるんじゃないかな」


 え!? とミカエル以外が驚く。ラファエルは、


 「それじゃあ、救済をしながら『方舟』を目指した方が良いな。君の能力(ちから)は相当便利だったはずだぞ」


 『方舟』………。ノアは思い出そうとしたが、思い出せない。

 ただ、方舟に行けば、色々なことが分かるような気がした。


   ◇   ◇   ◇


 ―――とある大きな街を通り過ぎようとした時、あちこちで噂されている話を聞いた。


 『イエス・キリストの復活』


 何でも、ローマ帝国に処刑されたはずの男が蘇ったそうだ。ラファエルが、


 「…どうやら、唯一神(ヤハウェ)が新たに選んだ人間らしいな」


 少し前にも、唯一神(ヤハウェ)が選んだらしいイサクやヤコブ、モーゼといった人間の名を聞いた気がした。ノアが、なるほど、と思っていると、


 「……………」


 ミカエルが、何やら考え込んでいる。


 「どうしたの?」


 ガブリエルが聞くと、ミカエルは、


 「………うん、実はこの間、本体から連絡が入ったんだ」


 え!? と皆が驚く。ミカエルは続けて、


 「どうも唯一神(ヤハウェ)は、今回のイエスを最後に、人間に関わるのをやめるらしい」


 「そうなの?」


 ウリエルが聞くと、ミカエルは頷いて、


 「ボクらも仲間をずいぶん助けて来たけど、今後の人間達の信仰具合を見ると、ムダになっちゃうかもね」


 「? どういうことだ?」


 ノアが聞くと、ミカエルは、


 「君も一度死んじゃうまで、仲間達のこと見えなかったでしょ? つまり…」


 「…ああ、認識されなくなった仲間達は、いずれ人間達の意識から消えていく。…それは、存在の抹消、ほぼ『死』と同義語だな」


 ラファエルもそう言った。


 「そんな………」


 ノアは驚いた。せっかく救済した『神』達が、消えてしまう…。

 天使達によると、これだけ世界に人間が席巻している今、人間達に忘れられることは、存在が消されるのと同じことらしいのだ。


 ふいにガブリエルが、ノアに尋ねた。


 「それで、アララト山…、『方舟』への入り方は思い出せた?」


 ノア一行は、一度アララト山に到着したのだが、肝心の方舟が何処に在り、どうやって入るのか、ノアはすっかり忘れてしまっていた。


 「…すまない、思い出せないんだ。急いだほうがいいかな?」


 ガブリエルは首を振り、


 「ううん、こうやってのんびり旅をするのも、私達、楽しいもの」


 天使達が笑って頷いた。ノアも、


 「…そうだな。私も君達と旅をするのは楽しいよ」


 そう皆で笑い合う。ミカエルが、


 「でも、出来たら帰れなくなった仲間達も『方舟』に迎えられると良いかな、って思うんだよね。あれはそういう舟だったんでしょ?」


 ノアは、少し考えながら、


 「あ、ああ…。多分、そうだった、と思う。…すまないね、『方舟』への入り方と同様、思い出せないことが多いみたいだ…」


 天使達が心配そうにノアを見る。


 ―――ノアが蘇生させられてから、既に百年近く経っていた。

 ミカエルは皆には言わないが、もう一つ、本体から聞いていたことがある。


 …本体が配置した分身は、自分達で最後になってしまったそうだ。

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