第60話:クライスの大森林への侵攻4
ブラッケラーは、私の言葉の意味を理解したのか、私とクソ王子を交互に見ると、軽く吠えた。
そして、クソ王子を掴んで・・・・・・・・・、首を引きちぎった。
うっわ、エグッ・・・・・・
それから器用に、無駄に豪華な鎧をどけて、身体を口の中に放り込んだ・・・
うん、エグい。
これは見るんじゃなかったな。
さすがにスプラッター過ぎる・・・
『精神耐性』が仕事をしているのか、思ったよりも動揺しなかったが、決して見たいもんではなかった。
ブラッケラーは、クソ王子を食うと、反転して森の中へ消えていった。
残っているのは血溜まりと、鎧の残骸だ。
まあ、自分のやったことの報いを受けただけだな。
ヤツは、カイトとポーラの家族を殺し、2人の生活を破壊した。
そして今度は、私たちの生活を破壊しようとした。
哀れで無様な最後だが、同情する気にもならない。
初めて侵攻軍の形跡に触れたため、もう少し周りを確認してから帰ることにする。
少し歩くと、森の開けた場所にでた。
そこでは、悲惨な光景が広がっていた。
地面には多数の血溜まりができていて、鎧や剣、盾なんかの残骸が転がっている。
だが、死体はない。そこら中に肉片が散らばっているが、人間としての原形をとどめているものは無かった・・・
ここは、さっきのブラッケラーの襲撃現場かな?
殺した兵士は、食べたのか・・・
予想通り、ラシアール王国軍は、強いわけではないようで、この森の魔獣には勝てないのであろう。
となると、他の場所でもこんな惨劇が繰り広げられていても不思議ではない。
ってか、そんなに弱いのによくこの森に入ってきたよね。
無謀にもほどがある。
今日は最後に、『アマジュ』の群生地を見て帰ることにしようかな。
ここから比較的近いし、見るからに魔法で作った人工物だから、逃げた兵士が助けを求めてたどり着いているかもしれないし・・・
『アマジュ』の群生地に近づくと、叫び声が聞こえてきた。
・・・誰かいるの?
そう思いながら、近づくと、兵士と思われる数人が毒池を背に、フォレストタイガーと相対していた。
毒池の中には、数人の兵士が倒れているので、逃げ込もうとして、毒の餌食になったようだ。
つまり、あの兵士達は、後ろに逃げられないことを知っていて、フォレストタイガーに向かっているのか・・・
どうしようかな。
助けるのは簡単だし、フォレストタイガーごとき一撃で沈められる。
それに、クソ王子と違って、巻き込まれただけの気の毒な兵士だ。
敵ではあるが、同情すらする・・・
まあ、助けてやるか。
別に人助けがしたいとかそんな話ではない。
ここで助けても、森から無事に抜けられるのかは分からない。ただの気まぐれだ・・・
フォレストタイガーの斜め後ろに回って、フォレストタイガーの頭部に石弾を叩き込んで、始末した。
突然の出来事に、兵士達はあっけにとられているようだが、別に説明したりはしない。
というか、姿を見せる気も無い。
目の前の脅威が去ったことを理解して、森から出て行ってくれたらいい。
その道中で死んだとしても、それは知らないし。
兵士達は、フォレストタイガーが死んだことを認識し、後方の毒池の向こうにある壁を越えることは叶わないと悟ったようで、その場から離れていった。
毒池の中には、数体の死体が転がっているが、どうしようもないのだろう。
侵攻が終わったら、片付けておこう。
改めて、この世界では人は簡単に死ぬ。
魔獣や魔物の襲撃を受ける恐れはいつもあるし、盗賊なんかもいる。
そして戦争だ。
今回の遠征は、ラシアール王国にとっては未開の地の開拓であろうが、私からすれば戦争だ。
攻められている。
だから、基本的に相手を殺すことを躊躇いはしない。
今回助けたのは、気まぐれと、どう考えても脅威にならないと判断したからだ。
仮に、拠点の方へ向かうようなら、攻撃することも考えていたし。
そう考えると、この遠征を行うことを決定した、クソ貴族とクソ王子の責任は重いな。
まあ、上に立つ者は責任を負うのが仕事なんだけどさ・・・
クソ王子の死亡は確認したが、クソ貴族はどうなったのかな?
クソ王子と一緒にいたのなら、死んでいるのだろうが、別の場所にいたのならまだ生きているかも?
クソ貴族だけは、もし見つけたら殺すか、拘束するべきかもしれないな・・・
そんなことを考え、少し周りを見て歩いたが、見つかるのは死体の一部や血溜まり、防具なんかの残骸だけだった。
♢ ♢ ♢
〜レーベル視点〜
昨日は、偵察に出ておられたコトハ様が、此度の侵攻を引き起こした張本人の1人であるラシアール王国第二王子ロップスの死亡を確認したとのことです。
まあ、当然の報いでしょうね。
カイト様とポーラ様のご家族を殺し、お二人の生活を奪った上、今回はコトハ様を含めた皆様の生活を脅かそうとした愚物ですから。
もう1匹のレンロー侯爵という愚物も、見つけ次第始末したいのですが、この森の中で特定の人物を見つけることは難しいですね・・・
コトハ様のように強力なオーラを放っているわけでもないですから。
本日は、いつも通り私が偵察に出るとしましょう。
コトハ様曰く、拠点の西側、『アマジュ』の群生地付近に多くの戦闘痕があったとのことでしたが、敵の目的の1つが、西側に向けての貿易ルート確保にあるのですから、西側に多くの兵を割いていても不思議ではありません。
私も『アマジュ』の群生地付近を確認してから、東へ向かいましょうか・・・
『アマジュ』の群生地には、コトハ様が作られた壁と、その壁にたどり着けないようにと作られた、リン殿の毒で満たされた、毒池があります。
リン殿の毒は、かなり強力で、『人間』であれば、触れただけで即死、または直ぐに死に至るほどの猛毒をあびることとなります。
そうして死に至ったのであろう愚か者の亡骸が数体、毒池に浮かんでおりますね。
魔獣の足跡もいくつか毒池の前にありますので、魔獣から逃げて、壁を目指したのでしょうか・・・
しかし哀れな者どもですね、身の程知らずな愚物の指示に従い、コトハ様の治めるべき土地であるクライスの大森林に侵攻してきたかと思えば、底辺の魔獣に襲われ死に至るなど。
続いて東へ向けて進んでいきますが、いくつか戦闘の痕跡がありますね。
どこも散らばる肉片に、血溜まり、そして武具の残骸が見られます。
まあ、森の魔獣にとって人間はエサですから当然ですかね。
そして肉片の1つから、知っている魔力の残滓を感じました。
『悪魔族』は、魔力の感知に長けております。
コトハ様の気配を感じたこともそれに繋がります。
・・・これは、森の入り口でコトハ様に対し無礼な振る舞いをした男の魔力ですか。あの時確か、レンローと呼ばれていましたよね。
となると、レンロー侯爵なる愚物も死にましたか。
これは予想外でしたね。
本当は、この手で始末してやりたかったのですが・・・
まあ、愚物の駆除も完了できたということで、良しとしておきましょうか・・・




