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焦る大捜査線

「のおおおおおおお! クロムしゃまが、いなあああああああい!!」

「カトリーナ様、落ち着いてください。廊下の外まで丸聞こえです」

「でもでもだって、でもでもでもでも……」

「しつっこい! 騒いだからって、どうなるものでもないでしょう?」

「そんな。うう、クラリスぅ」


 泣き叫んでも、仕方がないと思う。

 だって視察に行った翌日から、クロム様が姿を消したのだ。


 初めは買いものにでも出かけたのかとのんびり構えていたが、あれからもう三日も()っている。


 あまりの衝撃に、夜は眠れず食事も(のど)を通らない。

 クラリスのおかげで日々の仕度は完璧だけど、目の下のクマは、濃い化粧でも隠しきれていなかった。


「カトリーナ様、早くご自分を取り戻してください」

「そんなの無理よ。クロム様がいないと、何も手につかない」

「でも、ご本人が自ら姿を消したのですよね? だったらこれ以上近づくな、という警告ではないですか?」

「なんで? クラリスは、クロム様が暗殺者だって信じてないんじゃなかったの?」

「それは……御者(ぎょしゃ)の話を聞いたので、そうも言っていられなくなりました」


 気絶していたクラリスは、山賊撃退の顛末(てんまつ)を、知り合いから聞いたらしい。


「そう。ようやく認めてくれたのね」


 ベッドに伏せて(なげ)いていた私は、ようやくちょっぴり復活して、身体を起こす。


 一方クラリスは、うんざりした様子で肩をすくめている。


「なんで? 妄想じゃなく、本当だってわかってくれたんでしょう?」

「姫様のお話が真実なら、クロムは王女が別の男性と仲良くなれば、暗殺を中止するんですよね? だったらもう、いいではありませんか。彼以外に目を向けて……」

「なんでえええええ! クロムしゃまがいいいいいいいいいい」


 力いっぱい叫ぶと、クラリスも負けじと叫ぶ。


「やかましいわ!」

「はっ!?」

「いい加減にしてくださらないと、鼓膜(こまく)が破れそう。逃げたのなら、放っておけばよろしいのでは?」

「いいえ、放ってなんかおけないわ。それに逃げたんじゃない! クロム様は自分がいると私に迷惑がかかると考えて、身を引いたのよ。私が彼の心情を、きちんと察していれば……」


 クロム様を思い出すと、胸が痛い。


 あの微笑み……はないけど、優しくエスコート……もされてないけど、それでも運命の日の後も「教師としてなら」と、城に残ってくれたのだ。

 あの言葉に、嘘はないはずよ!


「姫様。せっかくですからクロムではなく、セイボリーのルシウス殿下と懇意になられては?」

「クラリスの意地悪! ……って、あなたも推しているのに。どうして?」

「推しって、好きという意味ですよね? 好きは好きでも、ただの憧れです」

「憧れが、熱い想いに発展することだってあるわ。現に私がそうだもの」


 推しを想うと、またもや胸が痛くなる。


「クロム様は、ご無事でいるかしら? お一人で寂しい思いをしていらっしゃるのではなくて? 考えただけで、切なくなるの」

「姫様……」


 困った顔のクラリスをよそに、私は続ける。


「かくなる上は、捜索隊を結成して……。そうよ、いないなら自分で探せばいいんだわ!」

「姫様! 無茶な考えはおやめください」

「どうして? クロム様のいない世界なんて、豚の入っていない酢豚のようなもの。牛肉じゃない牛丼、タコの入っていないタコ焼きと言った方がいいかしら」

「申し訳ありません。たとえが全く理解できません」


 うっかりしていたわ。

 この世界には酢豚も牛丼も、タコ焼きもないものね。


「つまり、クロム様は私にとって一番大事な人なの。彼に出会うため、自分はこの世に生まれてきたと、言ってもいいくらい」


 クラリスは眉間(みけん)(しわ)を寄せて、考え込んでいる。


「ま、そういうことだから。叫びすぎて疲れたわ。少し休むので、また後でね」

「……かしこまりました」


 たぬき寝入りをした私。

 クラリスが退室したのを見届けて、音を立てないように、ベッドの上で身体を起こす。

 次いでそうっとドアを開け、タールを探しに行く。


 第一国家騎士団は、国王直属。

 第二国家騎士団も、王太子ハーヴィーの管轄(かんかつ)なので動かせない。

 だけどタール(ひき)いる第三国家騎士団は、その他の王族の護衛を主としている。


 ター坊に頼んで、クロム様の行方(ゆくえ)を探してもらおう!




 私はいつになく地味なドレスのおかげで、外の訓練場まで、呼びとめられずにたどり着くことができた。


「会いたかったわ、ター坊!」

「……え? カトリーナ様が、俺に!?」


 剣の指導を終えたタールに声をかけると、目を丸くされた。


 ――変ね。そこまで驚くことかしら?


「俺も。……いや、ああっと、ご用件はなんでしょう?」

「あのね、クロム先生を探してほしいの」

「クロム・リンデル? 勝手にいなくなったと聞いていますが?」

「講義もまだ途中だし、事情があるはずなの。だからお願いっ」

「けど俺、あいつ嫌いです」


 嫌いって、そんな!

 平静を装い聞いてみる。


「あら、どうして?」

「それは……カトリーナ様、彼は本当に教師ですか?」

「え? ……ええ。語学が堪能で、歴史にも詳しい優秀な先生よ」


 思わず言葉に詰まったが、笑顔で乗り切った。


 でもタールは、顔をしかめている。


「おかしいな。この前、山賊をあっさり倒していましたよ。俺と同じか、それ以上に叩きのめしていたはずです」

「きゃあ♡ ……じゃなかった。ええっと、たまたま剣術が得意なんじゃない?」


 首をかしげて、すっとぼける。


「いいえ。あの強さは尋常(じんじょう)じゃない。瞳の力を持たない者があそこまで動けるなんて、聞いたことがありません」

「それは……ター坊の見間違い、とか?」

「いいえ」


 第三国家騎士団長のタールは、クロム様の強さを見抜いている。

 腕の立つ彼を嫌っているみたいだが、私に言わせれば同族嫌悪だ。


 好き嫌いはどうでもいいから、とにかく探し出してほしい。焦った私は、早口でお願いする。


「あのね、クロム先生を最優先で見つけてほしいの。これは、あなたにしか頼めない。神様、騎士様、タール様、お願いっ!」

「ぶふっ。なんですか、それ」


 タールは面白そうに笑うけど、私は全く笑えない。


 ――満月の夜をせっかく乗り越えたのに、もう会えないなんて、つらすぎる!


 散々拝み倒した結果、タールが捜索を引き受けてくれることになった。


 あとは、クロム様が出国していないことを願うのみ!



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