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恋と愛のエトセトラ  作者: 藍川 海咲希
【冴子×紅華】Even if this love does not come true.
15/16

大輪

「じゃあ、そろそろ行こっか」

待ち合わせの午後6時に全員が集まったので、冴子たちは祭り会場へと向い始めた。

すっかり日が高くなったなと思う。まだ1時だと言われても一瞬信じてしまいそうなほど空は明るかった。

ふと紅華の方を見ると、ぎこちないタメ口ながらも玲子と並んでにこやかに会話をしているようだった。

「じゃあ、玲子、は三笠祭り始めてなん、だ」

「うん、だからどんな感じか今から楽しみ」

小学校時代は、あの場所に私がいたんだ。

いつも紅華の隣にいるのは私だったのに。

紅華に恋人ができて、1番が玲子になって、女の子同士という禁忌性も忘れてしまうくらいに同性のカップルが近くにいて、それ故に躊躇った私に見せつけるように愛を語り合う。

一体私は前世でどんな罪を犯したのだろうか。


祭り会場は例年通りの賑わいを見せていた。

あちらこちらに見える露店。その中を楽しそうに走り回る子供たち。

これぞ夏祭り!というこの風景はやっぱり好きだ。日が沈んで花火が上がればもっと素晴らしい景色になる事だろう。

「まあお祭り来たんだし、まずはかき氷でしょ」

という縁の謎のこだわりに従って、かき氷片手に私はベンチに腰を下ろしていた。

隣では、縁と紗奈が私のとは違う味のかき氷分け合っている。

羨ましいなと思った。未だにそんな事を思う自分を嫌悪してしまう。

紅華にはもう恋人がいる。かけ算のように幾度も心の中で反芻した言葉と共に冴子は胸を押さえ、チラリと玲子と紅華の方に目線を移す。

(紅華、幸せそうだな・・・・・・)

紅華は、玲子の隣でやはりかき氷を口へ運んでいた。

2人の間に特段会話があるわけでもないが、玲子も紅華も互いに満たされた微笑みを浮かべている。

恋人とは斯くあるべしというべきその姿は、どうしようもなく冴子を苛む。

心はもう、限界だった。


田舎の花火は、開始時間が5分遅れるのもよくある話だ。それ故にタイミングを見極めづらく、だいたい花火が上がってから展望台に向かうのが小学校時代のセオリーだった。

(まあ今回は違うんだけどね)

今回はカップルが2組いるということで各々2人きりで花火を楽しんでもらおうということになった。じゃんけんの結果で展望台権は縁と紗奈が手に入れたので、お邪魔する訳にもいかない。また、玲子と紅華が狙いそうな見晴らしのいいスポットに近づく訳にもいかず、必然的に冴子と由那は花火の下、露店の中を歩き回っていた。

「ていうか、由那は彼氏いるでしょ?一緒に夏祭りとか行かないの?」

「ああ、今年は行かないよ。どうしても予定合わなくてさ」

残念残念。と言いながらイカ焼きにかぶりつく。本当に残念がっているのだろうか?

イカ焼きを飲み込んでから、由那はニヤリと笑って言った。

「で、冴子はそーゆー相手いないの?」

「いないよ、別に」

「じゃあ、好きな人は?」

ギクリとする。

「・・・・・・いるにはいるけど」

嘘をつくほどではない。冴子は隠さずに言った。

「え、誰!?バスケ部繋がりなら宮田!?それか中西!?」

予想以上に食いついてくる。やっぱり嘘をつくべきだったかとちょっと後悔する。

「いや、違うよ」

今更後悔しても仕方がない。冴子は隠すのを諦めたように答えた。

実際由那なら秘密をバラすようなことはしないだろう。

「じゃあ誰なの?」

「・・・・・・紅華」

目を、合わせられない。人を好きになるのは恥ずかしい事じゃないっていつか読んだ小説に書いてあったが、そんな事言われても恥ずかしいものはやっぱり恥ずかしい。

冴子は誤魔化しに自分のイカ焼きをかじった。

お祭りの露店の食べ物の味は濃いめのはずなのに、不安に揺れる鼓動が邪魔をして味に集中できない。

「・・・・・・そっかー」

由那は全てを察して答えた。

やっぱり由那は優しい。由那は他の人ように異性が好きな人なのに私や紅華ような同性を好きになる人を変だなんて言わないし、ただ普通に友達でいてくれる。

世界中の人が由那くらい優しければ、きっともう小学生の頃に紅華に告白できていただろうに。全く世界というものは思い通りにいかないものだ。

「そういえば冴子は紅華と小学校同じだったね。その頃から好きだったの?」

「・・・・・・うん。小学校3年生からだからもう片思い歴6年くらい」

笑って返して見せた。

普通なら6年も、その内3年はずっと会えない人に片思いし続けるなんてありえない事なのだろう。中学時代に告白されたことも何度かあるし、その中の誰かと付き合ってしまえば私もこんなに悩まなくてよかっただろう。それでも。

「・・・・・・それでも、やっぱり諦められないんだ」

口の中に苦い味が広がりそうになったので、またイカ焼きを口に運ぶ。

飲み込んでから息を吐いた。噎せ返るような痛みと熱は、何処かに流れ出したように綺麗さっぱりとしている。人に話すだけでこんなにも違うものなのか。

「じゃあ、この機会に告白しちゃえば?」

「駄目だよ。紅華にはもう玲子がいる」

やっぱりまだ、棘が抜けた訳ではない。

心臓はまた痛みを訴える。

「もう6年も片想いしてるんでしょ?なら、そのくらいの権利はあると思うな」

「でも・・・・・・」

「それに、最近ずっと苦しそうじゃん?特に今日。それって、紅華が好きで好きで仕方なくなってるからじゃないの?」

図星だった。何も言い返せない。

「別に絶対に今日にしろって訳じゃないけど、今日は花火も上がってるし、告白のシチュエーションとしてはこれ以上ないくらい最適だと思うよ」

「・・・・・・そんなの、身勝手だ。紅華を困らせるだけだよ」

自分から出た声とは思えないほど弱々しい声。

そんな私を、由那の優しい言葉たちが包み込む。

「冴子は優しいんだね。紅華のことずっと前から好きだったのに、玲子に嫉妬することもなく受け入れようとしてる」

「・・・・・・」

「その優しさを、今はちょっとだけ自分自身に向けてあげな」

「・・・・・・前々から思ってたけど、由那ってお姉さんっぽいよね」

冴子は顔をあげた。

「ありがとう、私、紅華に告白する」


紅華と玲子は、境内を奥に進んだところにある小さな休憩所で花火を見ているらしい。

休憩所と言っても、ただベンチがいくつかならんでいるだけなので、花火を見るには充分なスポットだ。そこへ向かう冴子の足は速まり、やがて全力疾走になっていた。

(紅華に言うんだ。好きです、って・・・・・・!)

休憩所までは、あと少し。

あの角を曲がれば─────────。


紅華が、玲子と、キスしてる。


足が固まったように動かなくなる。乱れた呼吸だけが取り残されたようにまとわりつく。

目を瞑り、うっとりと唇を重ね合う2人の姿は、それほどまでに美しく、勝ち目のないものだった。

しばらく見惚れていると、やがて2人は唇を離し、互いに恥ずかしそうに花火を見上げる。

(まったく、本当に君らは・・・・・・)

ウブというか、純粋というか。緊張していた足から力が抜ける。

冴子は笑って、紅華の方へと1歩踏み出した。

「玲子、ちょっと紅華借りていい?」


紅華を引っ張って行ったのは、休憩所から少し歩いた先にある神社の本殿だった。

ここは私と紅華が初めて仲良くなった場所だ。

ここで本を読んでいた紅華に、私が話しかけたのを覚えている。

「冴子、どうしたの?」

紅華が不思議そうに首を傾げている。

小学校時代より大分伸びた髪。

小学校時代より大人っぽくなった顔立ち。

夏の蒸し暑い夜に少し汗ばんだ好きな人に、せめてこの想いの全てが届きますようにと願いを込めて冴子は言った。

「私、紅華が好き」

一際大きな花火が、空に咲いたのだと思う。

遠くで派手な音が響いた。

その音が時間を連れ去ったように、しばらく2人の間に滞る沈黙。

その沈黙を破ったのは、紅華の涙だった。

「なんで・・・・・・紅華が泣くの・・・・・・?」

「だ、だってぇ・・・・・・私は、玲子と別れたくないけどっ、冴子と、ずっと友達でいたいもん・・・・・・っ!」

なんの事かと一瞬考えて、すぐに思い出す。

紅華は中学時代に告白してきた男子にいじめられていたのだ。

(そりゃ、そう考えちゃうよね)

冴子は紅華を抱きしめた。

「私は、紅華に酷いことしたりしないよ。私は紅華が好きなんだからさ。だからね、玲子と、幸せになって」

「・・・・・・ほんとに?ぃいの・・・・・・?」

「もちろん。だって私たちっ・・・・・・友達じゃん」

目から涙が溢れ出る。私は紅華の恋人にはなれない。そんなことはわかっていた。

けれど今、胸は痛くない。磔から解放されたように、その痛みは消え去っていた。

「好きだよ、紅華。だから、ずっと友達でいようね」

「うん・・・・・・っ!」

こんな恋も、悪くはないよね。冴子はふと思った。告白してもそのまんまの関係が、今はすごく嬉しい。

また、空に大輪が咲いた。





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