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最終話 ずっと幸せ

 学校が始まった。司君とは、手を繋ぎ、仲良く登校している。去年の暮れから、私と司君の仲は進展し、とってもラブラブみたいという、そんな噂も流れているらしい。


 そんな噂が流れ、また大山先生が何か言って来るかと思っていたが、私たちが婚約したというのを知ったからか、何も言ってこなくなった。


 美枝ぽんは、彼氏にもらった指輪をどうどうと左手の薬指にはめている。可愛らしい細い金の指輪だ。

 麻衣は、今度の連休に彼と会うんだと、顔を赤くして言っていた。

「ちゃんと彼に話してみたんだ。そうしたら、麻衣のこと、大事に思ってるよって、メールが来たの!」

とすごく嬉しそうだった。


 なんだか、今、周りがやたらラブラブだ。そういえば、この冬休みにもう一カップルできあがったらしい。沼田君が、ちゃんと瀬川さんと付き合うことにしたと冬休み明けに報告に来たのだ。

 私も司君もびっくりした。放っておけなくなったと言っていたけど、それ、恋愛感情あるの?って私は思ってしまい、おせっかいにもメールでそれを聞いてしまった。


>自分でもびっくりだけど、クリスマスだの正月だのを一緒に出かけたりしてて、なんだか可愛く思えてきて。瀬川さんは恋愛初心者で、けっこう可愛いんだよ。

という、びっくりの返信が来た。


 ほ~~~~~~~~~。そうなんだ。瀬川さんはもしかすると、本気で沼田君に惚れちゃったのかもしれないなあ。恋をするときっと、可愛い女の子になっちゃうんだね。

 

 私は、どうだろう。最近、すっかり司君に甘えん坊になっているけど、司君、うんざりしたりしていないかなあ。


 学校の帰り道、家の近くまで来て、いきなり気になり司君に聞いてみた。

「ねえ、私って、最近甘えすぎていない?」

「え?」

「司君、呆れたり、うんざりしてない?」


「………。穂乃香、そんなに甘えてる?」

「うん」

「くす」

 あれ?

「なんで笑ったの?」


「いや。そんなことを言って来る穂乃香も可愛いなって思って」

 うわ。また、そういうことを最近司君は平気で言うんだから。


 家に入ると、いつものごとくお母さんが元気に出迎えてくれた。その隣にはワフワフと嬉しそうなメープルがいる。


 お風呂に入り、髪を乾かし、ドライヤーを返しに洗面所に行くと、誰かが中に入っているようなので、ドアをノックしみた。守君だよね?

「誰?穂乃香?」

 あ、司君の声だ。


「うん。ドライヤーを返しに来たんだ」

 ガチャ。司君が洗面所のドアを開けた。

「司君、これ…」

 ドライヤーを渡そうとすると、腕を掴まれ洗面所の中に引っ張られてしまった。


「司君?」

「ん?」

「ちょ、ちょっと待って。今、バスタオルだけ?」

 司君は腰にバスタオルを巻いている。


「うん」

 うわ~~~~。なんだか、恥ずかしいよ。それに、抱きしめてきたし。

「あ、ま、守君が来ると大変だし、離して」

「守、まだ帰って来てないよ?」


「え?そうなの?」

「母さんが言ってた。最近彼女を家まで送って行くらしく、帰ってくるのが遅いらしい」

「へえ。じゃ、彼女とうまくいってるんだね」

「うん」

「で、でも、離して」


「嫌だって言ったら?」

「司君!」

 じたばたしていると、ようやく司君は私を離してくれた。


 私は慌てて洗面所から抜け出した。ああ、恥ずかしかった。

 そりゃ、司君に抱きしめられるのは嬉しいし、幸せだけど、やっぱりバスタオル一枚の司君は抵抗があるよ。


 私がダイニングに行くと、5分後司君もやってきた。髪はまだ濡れていて、頬はほんのりピンク色。

 ああ、さっき抱きつかれたからか、なんだか照れくさくって司君が見れないなあ。


「守、遅いわねえ。先にご飯にしちゃいましょうか」

 そう言いながら、お母さんがご飯をよそって持って来てくれた。

「どうせ、彼女を送り届けて、いちゃいちゃしてるんじゃないの?」

 司君がそんなことを言った。


「そうなのよねえ。最近、やたらとご機嫌なの。彼女とうまくいってるのね。あの子、本当にわかりやすいわよねえ」

 お母さんもにやにやしながらそう言った。


「良かったよな。穂乃香離れができて」

「あら、どうして?」

「穂乃香が長野に行っても、もう大丈夫だろ?」

「そうねえ。あと1年もあるんだし、この分じゃ、穂乃香ちゃんを長野には絶対に行かせない!なんて、わがままも言わないようになるかもしれないわねえ」


「長野に俺も行くなんて、そんな馬鹿なことも言わないようになるさ」

「え?何それ?」

 私がびっくりして聞くと、お母さんが、

「あの子、高校は長野の高校に行くって、言ってたのよ。笑っちゃうでしょ?」

と笑いながらそう教えてくれた。


 し、知らなかった。そこまで、思いつめちゃってたの?

 ああ、守君に彼女ができて、本当に良かった。彼女をほうって、長野にまで来るなんてもう言いださないよね?


 ただ、一つ気になるのは、彼女が司君を気に入ってるって言うこと。一回、土曜日、テニス部の帰りに彼女が来て、司君に会って顔を赤らめていた。

「やっぱり、守君のお兄さん、かっこいいですよねえ」

 守君はその時、メープルと遊んでいたから、彼女のそばには居なかった。


 彼女は司君に近寄ってそう言うと、

「守君も可愛いけど、私、お兄さんみたいな人理想だなあ」

と目をうっとりとさせて言ったのだ。

 うわ。やめて。ここに彼女が、いや、婚約者がいるんだからね!そう思いながら、私は彼女を睨んでみた。でも、わかっていないようだった。


 司君は無表情。だけど、

「守、君みたいなしっかりしている子がいてくれると、兄としても安心だな」

とそう言って、それから私をちらっと見ると、

「俺ら、高校卒業したら、長野に行くんだ。だから、その間は守のことをよろしくね」

と、守君の彼女にそう告げた。


「そ、そうなんですか」

 守君の彼女は、顔を青ざめさせた。でも、そのあと、司君に話しかけることをしなくなった。

 

 司君の部屋に行って、司君に、

「守君の彼女、司君に気があるみたいだから、ちょっとひやひやしてたんだ」

と言うと、司君は驚いていた。

「え?そうだったの?」

「うん。長野に行くってちゃんと言ってくれて、ありがとう」


「いや、穂乃香がそんなことを気にしてるなんて、思っても見なかったな」

 あれ?私がやきもち妬いていたから、そう言ってくれたんじゃないの?

「穂乃香は俺の婚約者なんだし、もう、他の子なんて気にしたりしないかと思ってた」


「気になるよ…」

「どうどうとしていてもいいのに。俺、浮気なんてしないよ?」

「…そ、それは…。わかってるけど…」

 司君の胸に抱きついた。


「本当に、他の子なんてどうでもいい?」

「うん」

 司君も私をしっかりと、抱きしめてきた。


「今日は俺の部屋で寝る?それとも、穂乃香の部屋?」

「…。えっと、司君の部屋」

「うん、わかった」

「…司君はベッドだと窮屈?」

「いや、そんなことないけど」


 ベッドだと、より司君にひっついていられるんだよね。狭いから。それが嬉しくって、なんて言ってもいいかなあ。言っても呆れないよね?

「あのね、ベッドだと狭いから、べったりくっついていないとならないでしょ?」

「あ、穂乃香が窮屈な思いしてた?」


「ううん。そうじゃなくって。べったりくっついていられるから、嬉しいなって」

「……」

 あ、今の顔、呆れた顔?かたっぽの眉だけ動いた。

「穂乃香ってさ」

「う、うん」


 何?甘えん坊過ぎるとか?

「本当に俺が喜ぶこと言ってくれるよね?」

「え?」

 あ、司君の耳真っ赤だ。なんだ、喜んでいたんだ。


 そんなこんなで、その日も甘い夜が更けて行った。


 翌日、司君に帰りに、

「お腹空いちゃった。どっか寄って帰ろうか」

と言われた。


「え?うん」

 帰りにどこかに寄るなんて、久しぶりかも!

 私は浮き足立って、司君とカフェに入った。ここは、ずいぶん前に司君と入ったお店だ。


 パンとコーヒーを買って、2人で席に着いた。司君は甘いクリームの入ったパンを買い、私はベーグルだ。

「司君は、見た目と違って甘党だよね?」

 コーヒーにお砂糖を入れている司君を見て、なんとなくそう言うと、

「がっかり?」

と司君が聞いてきた。


「ううん。家でもたまに、甘いものを幸せそうに食べてるでしょ?可愛いなって思って見てるんだ」

 そう言うと、司君は耳を赤くして、

「そうなんだ」

と小さくつぶやいた。

 ああ、なんだか、幸せだなあ。この時間も。


「今度の土曜日、どっか行く?」

 ふと、隣の席のカップルの会話が聞こえてきた。大学生くらいかなあ。仲よさげに話している。

「見たい映画があるんだけど、行く?」

「うん。何の映画?」

 女の子の方も嬉しそう。付き合ってどのくらいたつんだろうか。


 その時、逆側の隣にも、カップルが座った。高校生だ。それもうちの学校の生徒。

「お、おごってもらっていいの?」

「いいよ。このくらい」

 そんな会話をしている。そして、女の子は顔を下げ、しばらく黙り込んだ。


 男の子は黙ってコーヒーを飲むと、女の子のほうを見てから、視線を外した。

 大学生カップルは、楽しげに話し、高校生カップルは、まだ沈黙だ。

「あ、あのね」

 お。女の子が話し出した。顏は真っ赤。もしかして、付き合いだしたばかりのカップルかも。


 ほんのちょっと話をしては、だんまり。そんなことを続けている。

 ああ、私と司君もこのお店に初めて来た時、あんなだったかもしれない。

 何を話していいかもわからず、2人で黙ってた。


 っていうか、今も黙っているけど。

 司君は、美味しそうにパンを食べた後、コーヒーを飲んで、そのあとずっと私を見ている。

「何?」

「いや。穂乃香、静かだなって思って」


「司君があまりにも幸せそうにパンを食べているから、話しかけたら悪いかなって思ってたの」

「……そんなに俺、幸せそうだった?」

「うん」

「でも、それって、パンが嬉しかったって言うより、穂乃香といられるからだと思うけど?」


 え?

 うわ。そんなことを言われて、照れて顔が赤くなる!

「わ、私も、嬉しいけど」

「ん?」


「こんなふうに帰りに寄ったの、久しぶりだし」

「そうだね」

「……司君。部活が休みの日ってある?」

「あるよ。今度の日曜は休みだ。どっか行く?」


「うん!」

「どこがいい?」

「え、えっとね~~」

 わあ。デートだ。嬉しい!


「くす」

 あ、また笑われた。

「穂乃香、いっつも嬉しいのが顔に出るよね?」

「今、嬉しそうだった?」

「めちゃくちゃ」


「だ、だって、本当に嬉しいから」

 そんな会話をしていると、視線を感じた。あ、隣の高校生の女の子だ。羨ましそうに私を見て、私と視線があうと、思いきりうつむいた。


 もしや、心の中で、いいな。なんであんなふうに仲よさそうにできるのかしら。それに比べて、私はなんで、こんなに黙りこくって暗いのかしら。彼氏にも申し訳ない。なんて思っていたりする?昔の私みたいに。


「さ、澤田さん」

「え?」

「ごめん、なんかつまんない思いさせてるかな?」

「ううん!私の方こそ」


 隣の男の子の言った言葉に、その子は思い切り首を振った。ああ、なんだか、ますます昔の私を見ているかのようだ。


「穂乃香、じゃあ、映画でも見に行こうか」

「え?あ、休みの日?」

「うん」

「どんな映画?」


「思い切り怖い、SF映画」

「い、嫌だ。そんなの」

「なんで?俺にずっとしがみついててもいいよ?」

「嫌だってば!」

「あはは。そうだった。穂乃香は怖がりだったんだ。じゃあ、侍の映画」


「…そ、それもちょっと」

「くすくす」

 あ、司君、からかってた?

「もう~~~!司君の見る映画は、マニアックすぎるよ」


「ごめん。穂乃香が見たい映画でいいよ。今、何やってるかな」

 司君はそう言うと、携帯ですぐに調べ出した。私も顔を近づけ、一緒に携帯を見た。

 あ、今、頭と頭がこつんと当たった。


 司君と目が合った。司君はくすっと笑い、それから私のおでこにキスをしてきた。

 え?

 なんでこんなところでキス?


「痛かった?俺がぶつけたところ」

「う、う、ううん。で、でも」

 私は真っ赤になっておでこを手で隠した。

「な、なんで、き、キス」


「ああ、痛かったかなあって思って」

 だからって、なんでカフェでキス?!ほら。隣りの高校生カップルなんて目をまん丸くして見ているし、大学生カップルだって、じっとこっちを見ているよ~~!


「穂乃香、この映画は?穂乃香、好きかも」

 司君は平然とした顔でそう言ってきた。だから、なんで平然としているの?

 私はまだ顔が熱い。


「穂乃香、真っ赤」

「だだだって、司君が」

「ん?」

「だ、だから、司君が…」


 さすがに、こんなところでキスをされると私は平気でいられないってば。


 それから、司君とカフェを出て、手を繋いで駅に向かった。

「寒いね。穂乃香、寒くない?」

「大丈夫。まだ、顔熱いし」

「まだ?まだもしかして照れてる?」


 あ、照れてることわかってたんだ。

「そうだよ。だから、人前でキスはしないで」

「ああ、ごめん。俺もちょっと反省した。ついつい、キスしちゃったけど」

 ついって…。おいおい。


「これからは、気を付けるよ」

「そ、そうだよ、周りの人もびっくりしていたよ」

「うん。カフェで俺と穂乃香がキスしてたって、きっとすぐに噂が広がるんだろうなあ」

 そうだよ~~!


「ま、いっか。どうせあの二人は、婚約してるんだしって言われるだけだろうから」

 いやいや。よくないって。

 でも、司君は平然とした顔で改札を通り、電車に乗り込んだ。そして、私のすぐ横に来て、私の顔を覗き込む。


「怒った?」

「え?」

「もしかして、怒ってる?」

 ああ、また可愛い顔で、可愛い声で聞いてくる。やっぱり、司君は変わった。


「お、怒ってないけど」

「よかった」

 司君はそう言うと、にこりと微笑んだ。うわ。その顔も可愛いんだってば。


 ああ、私はこれからもこうやって、司君にどきまぎしたり、ときめいたりしているのかなあ。

「くす。穂乃香ってなんで、いつまでたってもそんなに可愛いのかなあ」

 司君が小声でそうささやいた。


 電車のドアに映った司君の顔、なんだかとっても幸せそうだ。その横で私も、幸せそうな照れた顔をしている。

 

 きっと、これからも、ずっと私は司君の隣で、こうやって幸せな顔をしていると思う。

 司君の隣りだったら、きっとずっと。


 電車の揺れる音が、とても優しく感じた。その優しさと司君からかもしだされる優しさで、私はとっても安心できた。


「司君」

「ん?」

「今日は、私の部屋?司君の部屋?」

「……俺の部屋」


「…なんで?」

「穂乃香とべったりくっついていられるから」

 2人だけにしか聞こえないくらいの小声で、そんな会話をした。高校生の会話じゃないかな、これ。でも、いいよね?


 これからも、べったりとくっついている、そんなカップルでいようね。

 ずうっと、司君の隣なら、私は幸せでいられるって、なんだかそう確信してるの。不思議と。


 ずっとずっと、司君のこの優しさもあったかさも変わらないって、それも確信してる。だから、今も、安心していられるのかもしれない。

 

 電車は、ゴトンゴトンと片瀬江ノ島駅に向かって走っている。今日も、家はあったかくって、お母さんとメープルは元気に出迎えてくれるだろう。あと1年したら、私と司君は長野に行くかもしれないけど、その時まで、ずっと変わらず出迎えてくれるんだろうな。


 あのあったかい家に、司君と帰れるのが嬉しいな。


 そして1年後、長野に行ったらどんな日々が待っているのかな。それはわかんないけど、きっと司君の隣に私はいるんだろうな。


 繋いだ手は今日もあったかくって、今日も私は思い切り幸せだった。司君の存在は、私を本当に幸せにしてくれる。

 ずっとずっと、この幸せが続きますように。そんなことを思いつつ、私は司君に寄り添って歩いていた。


          

                 ~もう1度恋をしてⅡ おわり~

 







長い間、「もう1度恋をして」を応援していただき、ありがとうございました。

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