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flappers 1〜black side〜  作者: さわきゆい
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事件後の人々

あの事件の日から、あっという間に日々は過ぎていった。

あんまり、いろんなことがありすぎて、やらなきゃいけないこと、考えなきゃならないことが多すぎて、振り返ると時系列もあやふやだ。


まずは、愛凪ちゃんとカイ。

あたしたちが戻ると、愛凪ちゃんはもう起きていた。

カイが事前にある程度、話をしていてくれたようだけど、コミさんたちにも事件の顛末を伝えなきゃならず、本郷とあたしで、代わる代わる説明した。

いつもなら、こういう説明は本郷に任せるところだけど、さすがに疲れ切った様子を見ると、全てお任せするのは心苦しかったから。


ナオさんのことを話すのは、しんどかった。

話しながら、あの状況を見た警察や対策室の人たちが、どんな判断を下すのか不安になってくる。


ナオさんが知りたかったこと、あそこで起きた真実。それが、ちゃんと分かってもらえるだろうか?

あたしとしては何より、須藤誠次という人の正体を世の中に知らせたい。

桜木さんは…ひどい人だった。だけど、須藤がいなければ、こんな事件に巻き込まれなかっただろう。

桜木さんを撃ったのはナオさんだけど、強引に盾にしたのも須藤だ。

どんな歪んだ思いを抱えていたとしても、須藤を許す気にはなれなかった。


でも、愛凪ちゃんにとっての須藤は頼れる上司で、理想的なウィンガーだったみたいだ。

あたしたちの話を、とても信用できないという顔で聞いていた。

あたしたち以上に動揺していたと思う。


少し迷ったけど、ナオさんのスマホの録音を聞かせることにした。

あたしたちが着く前、須藤に暴行を受けるナオさんの音声も入っていて、生々しい音は、全員を沈黙させた。

そして、衝撃的な須藤の告白、狂気を帯びた声。


「ごめんなさい!!もう…聞きたくない…です…」

途中から、愛凪ちゃんは顔面蒼白になり、泣き出してしまった。

無理もない。


「全部すぐに信じろとは言わないよ。ただ、どっちの話も聞いてから、よく考えてどうするか決めて欲しい。だから、それまではオレたちのこと、黙っていてくれないかな」

本郷の言葉に、少しためらいながら頷く愛凪ちゃんがいた。

彼女がどういう結論を出すか分からなかったけれど、なるようになるしかないだろう。

疲れも手伝って、その先のことはあたしも考えられなかった。


未生ちゃんとは、なかなか連絡が取れなかった。

何度かけても、

『電源が入っていないか、電波の届かない…』

のメッセージが流れる。

さすがに疲れてリビングでウトウトしてしまったところに連絡が来たのは、11時を回ったころだった。


運ばれたのは市立病院。

救急指定病院は限られてるし、場所からして多分、市立病院へ搬送されるだろうと、予想はしていたものの、こちらから問い合わせるわけにもいかない。

地下鉄で二駅だし、連絡もらってから30分かからずに駆けつけた。

未生ちゃんには、速さに驚かれたけど。


ご両親にもまだ連絡はしておらず、とりあえずあたしにだけ、目を覚ましてすぐに電話をくれたらしい。

頼りにされて嬉しい反面、ものすごく心苦しい。

あたしが知ってしまったこと、見てしまったこと。

全部、未生ちゃんにはショックなことばかりだ。

それを知らないフリでいなきゃならない。


時間が時間のこともあり、あまり長く話をさせてもらえなかったのは、かえってありがたかった。




翌日は、眠い目をなんとかこじ開けて、講義には出た。

とはいっても、講義中もスマホが気になって仕方ない。


基本、同級生たちはウィンガーネタでは連絡を取り合わないことに決めている、と本郷が言っていた。

今時、どこで情報が漏れるか分からない。

文章で記録が残るメールは極力使わず、どうしても連絡が必要な時は電話で、手短に、がルールだそうだ。


それでも、なにか連絡はあるはずだと、繰り返し画面を見る。

だけど、午前中はむしろニュース速報の方に目を奪われた。


『病院跡地で男性3人の変死体発見』

『うち2人は未登録翼保有者対策室の職員か』

『同じ場所で意識不明の女性を保護。命に別条なし』


隠れウィンガーの保護に赴いた職員が返り討ちにあった、と匂わせるような記事が、昼休みなると様相が変わった。


『絵州市、病院跡地の殺人事件の記録音声?メディアに出回る』

『エリート職員の裏の顔?警察関係者も動揺』

『問題の音声、これが全文だ!』

ネットニュースは、進和会病院跡地の事件情報で埋め尽くされている。

もちろん、殺人事件としても衝撃的だけど、現場の音声を収めた音声データが出回ったことで、さらにセンセーショナルな事件となっていた。


もちろん出どころはナオさんのスマホ。

ただし、あたしたちの声も入っているわけで、全てを世間に公開することはできない。

メールで送るにしろ、発信元はすぐに分かってしまうだろう。


「ま、そこら辺は任せとけ」

そう言ってあの日、本郷はスマホを受け取った。

そういうことに全く詳しくないあたしは、その言葉を信じて任せるしかなかった。


音声データを文字起こしして出回っているものを見てみると、かなり編集というか抜粋された内容になっている。

本郷が、うまくやってくれたんだろうか…

音声の出所については、なんの情報も出ていない。


そんなニュースを眺めていると、やがて連続して着信が入ってきた。

まずは本郷。今日は休んでいたらしい。


「妹な、」

ほぼ前置きなく話し始める。

「オレらのことはしばらく黙ってるって。職場の対応に、ちょっと不信感持ったらしい。対策室は今パニック状態みたいだ。上の連中、会議室にこもりっきりだってさ」


それはそうだろう。

この間の歓迎会の様子を見る限り、須藤って頼りになる上司、って感じだったし。

そのキャラが職場全体に浸透していれば、あの音声の内容も、なかなか信じてもらえないだろう。


対策室や警察だけでなく、マスコミ関係にも音声をばら撒いたのは、内々に揉み消されないためと、須藤のそんな外面を知らない人たちの方が、容赦なく真相を晒してくれると思ったからだ。


本郷との通話を終えるとすぐ、未生ちゃんからの着信。

昨日より、落ち着いてはいるものの、力のない声が聞こえてくる。


「今、お父さんとお母さん、来てくれたの。もう、退院できるから…このまま実家帰るね」

「ああ、水沢さん!本当にありがとうね。心配かけて、ごめんなさいね」

前触れもなく、未生ちゃんのお母さんの声に変わって、あたしは慌てた。

「本当に、水沢さんがいてくれて助かったわ。ちゃんと会ってお礼したいんだけど、未生、ショック受けてて…うちに連れて帰って、しばらく休ませようと思うの」

「あ…はい。その方がいいと思います。あのっ、あたしはなにもしてないので…お礼とか、気になさらず…」


お母さんも、なんだか声がうわずっていて、テンパっているのが伝わってくる。

そりゃあ、娘が殺人事件に巻き込まれて、彼氏が殺されたとなれば落ち着いてなんかいられない。

何度も繰り返しお礼を言われ、やっと未生ちゃんに戻った。


「彩乃さんも退院できるの?」

彩乃さんも、一緒に市立病院へ運ばれたのは聞いてる。

「まだみたい。ていうか、会わせてもらえないの。警察の事情聴取が終わらないとダメとか言われて」

未生ちゃんの声、涙ぐんでいるのが分かった。

「ナオさんが隼くんを…まだ、信じらんない、なんて話したらいいかも…」

「あ…ごめんね、ごめん。余計なこと聞いて。今はとにかく、実家で休んで…」


慌ててあたしは、未生ちゃんの言葉を遮ってしまった。

今のところの報道では、まだナオさんが悪者だ。

桜木さんの本心を、まだ未生ちゃんは知らない。

今だって、彼氏が急にこんな形で亡くなってなって、辛いのは確かだろうけど…

あの録音が出てきたことで、この後は別な意味でショックを受けるだろう。

そして、それは彩乃さんも。


帰り道、少し考えた後で地下鉄を途中下車した。

洗面道具とかタオルとか、身の回り品をいくつか買い集め、病院へ向かう。

直接会えないのは分かっているから、ナースステーションで彩乃さんに、渡してもらうよう、お願いした。

今、あたしにできることなんてこれくらいしかなかった。

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