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flappers 1〜black side〜  作者: さわきゆい
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逃飛行 1

須藤は咽び泣くようなうめき声をあげて、なんとか体を起こそうとしていた。

多分、この人も時間の問題だ。

ドアに向かおうとしたあたしたちは、かすかな物音にギクリと立ち止まった。

あたしたちでなきゃ、気づくのはもっと遅かっただろう。

それは明らかに足音を隠そうとする動き方だった。


「警察…かな…?」

本郷が呟く。警察ならまだいいんだが、と言いたそうに聞こえた。

マイケルさん情報からするに、ここに来るとすれば警察か、ダーウィン・ミッションの人たちか…


警察ならまだ、

「友達を助けに来た」

と、事情を説明して保護してもらうこともできる。でも、殺人事件の現場に居合わせたとなれば、あたしたちだって色々調べられざるを得ない。

ウィンガーとの因縁の深い経歴が分かれば、アイロウに目をつけられることは間違いない。


相手がダーウィン・ミッションなら、出くわしたくないのは当然のこと。

出来れば、どちらにも会わずに脱出したいけれど…


「水沢、窓の方から出ろ。まだ飛べるだろ?」

本郷の言い方がなんだか他人事で、あたしは首を傾げた。


「本郷?」

「表から出て見つかったら、どっちにしろ面倒なことになる。お前の羽なら、飛んでも見つかりにくい」

そりゃ、あたりはもう暗いしね、白い翼より黒い翼は目立たないよ。

でも、何?あたしだけ脱出しろってこと?


バツの悪そうな表情で頭をかきながら、

「オレは制限時間切れだわ」

あっさり言ってくれた。

翼を出すリミットタイム、来ちゃったってこと?!

この、肝心な時に…


翼を出していられるのは、一回に5分からせいぜい10分ほど。

インターバルをとれば1日に何回か出せるけど、トータルで30分も出せば、しばらくは体がだるくて、日常生活にも支障がでる。

経験値を積むと、あとどれくらい出していられるかも分かるようになるし、力の使い方次第で、トータルの『翼使用時間』を伸ばす、なんて加減も実は出来る。

ただ、これって本当に経験則と、慣れなのだ。

毎日運転している人の方が、アクセル、ブレーキのコントロールがわかりやすいのと一緒。

その加減を忘れたくなくて、あたしは未生ちゃんの留守には意味もなく翼を出して部屋を飛んでたりする。


開き直りか強がりか、本郷はニヤッと笑ってみせた。

「あんまり普段使ってないからさ、力の加減とか…まあ、出来てなくてな…出すには出しても、飛んだ途端に落下する自信がある」

胸を張って、堂々というところじゃない。


はっきりと、足音や気配が感じられるようになってきた。

もう、考える余裕もない…


とにかく、あたしは窓のロックを開けた。

一応、指紋がつかないように袖口越しに。


まあ、ここへきてからそんなこと考えずに、床や壁も触ってるし、気休めにしかならないだろうけど。


窓の外の様子を伺ってから、あたしは振り返った。

「本郷、早く!」

すっかり、ここへ残る気になっていた本郷は、キョトンとしている。

「え?いや、だから…」

「あたしが運ぶ」

あんぐりと口を開いた本郷に、あたしは大きく頷いてみせた。

「あたしがあんたを持って飛ぶ。翼出せば、そのくらい出来る」


本郷をここで失うわけにはいかない。

アイロウに渡して、その管理下に置かせるわけにはいかない。

あまりにいろんなことが起こりすぎて、脳みそが思考停止に追い込まれそうだったけど、あたしの中でそれだけはハッキリしていた。

むしろ、あたしが囮になってでも、本郷だけは絶対逃す。なら、あたしにできることは決まっている。


本郷も、それ以上は何も言わなかった。

2人して、外へ出ると、

「誰かいるのか!出てきなさい!!」

建物の入り口の方から声がした。警察の方が、ダーウィン・ミッションより早く着いたらしい。

彩乃さんもすぐに見つけてもらえるだろう。

横たわるナオさんは、もう動かない。

その顔が、穏やかなのは…そうあって欲しいという、あたしの願望がそうみせているんだろうか?


「少しは飛べるんでしょ?」

気を取り直して、あたしは本郷を見た。

頷いた本郷の背中に翼が現れる。

あたしも翼を出すと、一緒に宙へ浮かび上がった。


窓の向こうで、須藤が必死に体を起こすのが見えた。

青白い顔が、こちらを向く。

空中へ浮かんだあたしたちを見る目は、驚愕に見開かれていた。

まさか、人が空を飛ぶとはね、ウィンガーだからってそこまでは考えつかないだろう。

もう、動くのだってやっとだろうに、腕を目一杯に伸ばしてよこす。


「なんでだよ!」

振り絞った声が、あたしたちの耳にもはっきりと聞こえた。

「なんでお前たちだけが…!」

窓の方へ腕を伸ばしながら、須藤の体は前に倒れていった。


なんで、お前たちだけ飛べるんだ…そう、言いたかったんだと思う。

その声に、狂おしいまでの羨望の響きがあったから…

倒れてもまだ、追い縋るように腕を伸ばしていたから…



建物の入り口は、どんどん騒がしくなってきている。

動かなくなった須藤の体から、上空の暗闇に目を移し、あたしたちは上昇した。

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