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flappers 1〜black side〜  作者: さわきゆい
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弾丸 

 須藤さんに、悪びれた様子はない。

「無理矢理やらされているウィンガーばかりじゃない。破格の報酬を約束され、かつ破壊的、暴力的衝動を満たされるとなれば、進んで協力する者もいる。君たちなら、分かると思うけどな…」

 いや、分からないよ。まるで、あたしたちを勧誘するかのような口調だけど。


「ウィンガー専門の人材派遣会社とでも思えばいい。ぼくらはスカウトマンってとこかな…言っとくけど、前よりずっといい暮らしをしてるウィンガーだって多いんだよ。一概に犯罪集団の片棒担いでる、みたいに言われたくないな」

 すごいこと言い始めた。しかもこれ、本心で言っているよね…

 呆れて、言葉が出ない。


 ナオさんが、必死に体を起こして反論したけど、須藤さんはどこ吹く風だ。

 ナルシズム丸出しの恍惚とした表情のこの人に、何を言っても通用しそうにない。


 あたしは、桜木さんを振り返った。

「桜木さん、知っててこんな仕事、手伝ってるんですか?」

 さっきから、無言でいた桜木さんは、そう言われてハッとしたみたいだった。

 それまでの呆然としていた表情を見る限り、桜木さんも初めて聞く事実が目白押しのよう。

 もしかして、その事実に良心を揺さぶられれば、一緒に須藤さんに立ち向かってくれるのでは、と淡い期待があったのだけど…


「ああ、彼はあまり詳しくは教えられていないよ。でも、桜木くんはぼくに従うしかないよね〜」

 須藤さんの、ねっとりとした口調に、桜木さんがピクリと頬を動かす。

 それが、ただ単に部下が上司に従わなければならない、とかいう意味でないのは分かった。

 無表情を装おうとしてるけど、桜木さん、口惜しそうな様子を隠せていない。


 その顔に、須藤さんは、爽やかに笑いかけてみせる。こうしてみると、サディスティックな微笑みだ。


「体育会系の好青年だと思ってた?ああ、そういえばさっき…」

 と、須藤さんは壁際に転がった銃に視線を走らせた。

「あの拳銃ね、桜木くんの私物なんだよ。いわゆる、ガンマニアってヤツが高じてモデルガンの違法改造を趣味にしちゃってるんだ。意外でしょ?」


 ……もう、あまり驚かなかった。

 銃の密輸の話とか出てたしね。ああ、自分で改造とかもしてたのね、って感じ。

 あれ…じゃあ、拳銃、いくつも持ってるってこと?他にもそんな物騒なモノ、隠してあったりして…


 ああああ、それよりも……

 未生ちゃん!なんでこんな人と付き合っちゃったの!

 あれだけ顔も性格もカワイイのに!もっと他にいい人、いるでしょうに!


 桜木さんいわく、須藤さんが唆して、未生ちゃんと付き合わせた、というけど、得意げにペラペラと桜木さんの裏の顔を暴露する須藤さんを見ら限り、それは真実らしい。

 桜木さんは、見た目にも冷や汗をかいているのが分かるくらいだった。


「あげくに、本物を密輸入しちゃったりしてね、口外されたくなければ、ぼくに従うしかないんだよ。まあ、実際…自分の銃を実際に使ってみたいのもあったんじゃないかな…」

 あ…思ったよりも、あたしの力、影響してるかも。須藤さんの目付きが、ちょっといっちゃってる。

 しゃべりながら、自分に酔ってきている感じ。


「だから彼はね、君たちの味方にはつかないよ」

 なにか、嫌な空気を感じる。

 桜木さんが、味方してくれるかも、という

 ささやかな希望は早々に諦めた。

 …さっきも、ちらっと考えたんだけど、拳銃…まだ他にも隠してあったら…

 桜木さんは、あくまで須藤さんの手下…

 不意に、鼓動が速くなる、


 桜木さんの手が動いてる…胸元へ…


 本郷があたしを振り返る。ちゃんと、桜木さんの動きを把握していたらしい。

 何が起きるか予想したというより、直感的にあたしは行動していた。


 あたしやナオさんたちの前に立ち塞がろうとした本郷を突き飛ばす!

 その反動で、あたしは反対側に転がった。


 パン!と、空気を裂く音がしたのは、それと同時。

 ウィンガーの動体視力でも、さすがに弾道までは見えない。

 弾を避けられたのは奇跡以外のなにものでもない。


 床に転がりながら聞こえた舌打ちに、狙撃の失敗を確認する。

 急いで立ち上がるあたしの視界の端に、白い光が映った。


 本郷…じゃなく、えっ…ナオさん…!

 翼を出したナオさんが、片足だけで床を蹴り、壁際へ滑る。

 あたしの動きに気を取られていた須藤さんの反応は遅れた。

 拳銃を構えたまま須藤さんの方へ移動していた桜木さんには、その動きが見えてもいなかったと思う。


「動くな」と、言おうとしたのだと思う。

 だけど、あたしが立ち上がるのと、

「グェッッ…」

 と、桜木さんが潰れた音を出したのは、ほぼ同時。


 ナオさんは、壁際に落ちていた拳銃を手に取ると、這いつくばったまま、でも躊躇なく引き金を引いていた。

 何が起こるか分かっていても、止められたかどうか…

 それくらい、ためらいのない、滑らかな動きだった。


 弾道の先にいたのは須藤さん、ではなく桜木さん。


「…は…?!」

 桜木さん自身、何が起こったのか分かっていない。

 呆然とした顔のまま、反射的に腹部を押さえている。

 その手の下に、赤黒いシミが広がっていく。


 桜木さんの襟元は、不自然に引き攣っていた。何かに引っ張られている。

 それが解放された瞬間、桜木さんは崩れ落ちた。

 桜木さんの後ろに、須藤さんのつまらなさそうな顔が現れる。


「急所に当たっちゃったか…まだこれからだって時に」

 何を言っているのか、飲み込めなかった。

 ただ、襟首を掴まれた桜木さんが、須藤さんの盾にされたのは、理解した。

 桜木さんから呻き声が漏れている。何か言ったみたいだけど、聞き取れなかった。


 体が動かない。声も出せなかった。

 拳銃があるのは見ていた。ただ、それが実際に使われて、こんな結果になったのを目の当たりにして、あたしは思考も体も停止していた。


 ドラマじゃあるまいし。

 やっとなんとか呼吸して、頭に酸素が回って、最初に浮かんだ言葉ですら、そんなだった。

 現実の実感が湧かない。


「まだ、翼がだせるとはね」

 須藤さんがナオさんに放った言葉も、音としてだけ聞いていた。


「悪いお友達がいたもんでね。こんなモンの扱いだって、ちょっとは知ってるんだぜ。みくびるな…」

 ナオさんは、まだ銃口を須藤さんに向けている。


 ナオさん、なんでこんなこと…

 比嘉さんのこと。真実を知りたい。

 それだけじゃ、なかったの?

 なんで…?こんなことまでしなければならない相手?


「あんた、マジてゲスいな…そいつ、部下だろ…?」

 ナオさんの言葉に、須藤さんはちょっとだけ首をすくめた。


「…須藤さん…あんた…」

 桜木さんが絞るように声を出す。

 その恨みと、憎しみのこもった声に、あたしはハッとした。


「桜木さん!」

 まずは、助けなきゃ。どんな状況であれ、どんな相手であれ、ほっとくわけにはいかない。

 だけど、飛び出そうとしたあたしを、本郷が後ろからがっちりと掴んだ。


 桜木さんを案じたあたしが軽率だったのだろうか?

 それは一瞬のことだった。


 あたしの動きに視線を動かしたナオさんの隙をついて、須藤さんが素早く屈む。

 あ…!!


 屈んだのは、ほんの一瞬。立ち上がった須藤さんの手にあったのは、さっきまで桜木さんが持っていた拳銃だった。

 銃口は、真っ直ぐにナオさんを向いている。


 仁王立ちの須藤さんと、床に腹這いになったナオさんが、お互いに銃を突きつけ合う光景になっていた。

 だけど、状況的に有利なのは須藤さんだ。


「動くなよ、同級生のお二人さん。彼がこれ以上傷つくの、見たくないでしょ」

 グッと息を飲んだあたしたち2人に、須藤さんはニヤニヤと笑う。

 …どうしよもない…


 だけど、ここでも行動を起こしたのは、ナオさんだった。

「う、ああぁぁ!!」

 叫びながら、折れてない足で床を蹴る。

 翼の力のなさる技だ。ナオさんの体は、猛然と須藤さんに突っ込んで行く。

 普通の人間なら避けきれないだろう、その体当たりに、須藤さんの顔が変わった。


 銃を構えたまま飛び退く須藤さんの背中に、光の粒子が集まる。

 そのまま撃たれるのかと、背筋が凍ったけど、ナオさんの手が、須藤さんの銃を掴んでいた。


「うっっ…くっ…」

 ナオさんの顔は苦痛に歪んでいる。

「ナオちゃん、やめろ!そんな体じゃ無理だ!」

 本郷が、駆け寄ろうとしたけど、

「来んな!ジャマすんな!」

 ナオさんに怒鳴られた。

 たしかに、拳銃を持ったまま掴み合いになっているウィンガー2人。

 下手に近付いたら危険だ。危険だけど、だから、だから…


「もう、やめて!!」

 あたしには、そう叫ぶことしかできない。


 パン!

 混乱を終結させたのは、突然鳴り響いた破裂音だった…


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