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flappers 1〜black side〜  作者: さわきゆい
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ダーウィン・ミッション

 須藤さんの顔。

 おそらく、普段なら人には見せない顔だ。

 歯を食いしばって、紅潮させた、凄まじい形相。渾身の力が込められているだろう手足。


 普通の人間なら、あっという間に投げ飛ばされているか、組み敷かれているか。


 でも、アーククラスとは格が違う。

 特に、本郷相手に力の勝負なんて。

 同級生でもまともに取っ組み合える相手は何人いるか…

 もちろん、あたしは絶対に無理。


 見てくれなど忘れているだろう須藤さんに対して、本郷は憎らしいくらい涼しい表情。

 須藤さんが、気の毒にすらなってくる。


「あのさぁ、オレがさっき、かなり手加減したの、分かってる?」

 両手を組んだまま、さらりと本郷が言う。

 あ、地雷踏んだかもよ。須藤さんの目つきが変わってる。


 それでも、あたしも本気で心配したわけじゃなかった。

 だから、須藤さんが意表を突いて頭突きをかまそうとしても、それをあっさりとかわされ、逆にドロップキックを喰らわされても、お約束にしか見えなかった。


 本郷、一瞬、翼で浮かんだね。

 須藤さんにしてみれば、ありえない体勢から両足が飛んできたように見えただろう。

 桜木さんも、後ろで息を飲んでいる。


 須藤さんの体は、今度こそ壁まで吹っ飛んだ。

 ドン!と、鈍い音を立てて叩きつけられる寸前に、翼が消えた。


「ぐはっ!げはっ…!!」

 体を折って、苦鳴をあげる須藤さんを見ても、あたしは冷静だった。

 怪我はしたかもしれないけど、命に関わるようなものじゃない。

 丸腰の相手に銃を向けてきた人間に対する反撃としては、当然と言っていいでしょう。


 相手のダメージを確認すると、本郷も翼を消した。

 静かに、須藤さんを見据え、

「ダーウィン・ミッション」

 と、一言だけ告げる。


 ミッション?なんかの作戦?

 なんのこっちゃで、???のあたしに対し、須藤さんは明らかに心当たりがあるらしく、ものすごい目つきで睨んでくる。


 これ見よがしに、血液混じりの唾を吐き出して、立ち上がると、

「嫌味なヤツだな…そこまで知ってるんじゃないか」

 強がりでも、まだ笑ってみせる余裕はあるらしい。


「レアライフってしってるか?」

 本郷の言葉はあたしに向けられたものだ。

 その団体名は聞いたことがある。


「環境保護団体だっけ?…希少生物の保護とかやってる…?」

 ただし、その保護のために、かなり強引な、というか過激な方法をとっていることで、ニュースになることが多い団体。


 顔は須藤さんに向けたまま、本郷は頷いた。

「ダーウィン・ミッションってのは、その中でも特に、ウィンガーは人間の進化の途中形態だ、って主張してるグループだ」

 未来の人類として、貴重だから保護しろってこと?

 で、その人たちがどう関わっているんだろう?


「最初は学説を発表したり、国際レベルでのウィンガー研究を訴えてるぐらいだったんだけど。最近は活動が過激化して、レアライフの中でも問題児集団になってる。その連中が、最近日本に…というか、絵州市に入り込んできた。と、マイケルが言っていたんだよ」

 急にマイケルさんの名前が出てきて驚いた。

 隠れウィンガーのネットワークコミュニティを作るだけじゃなく、他にも特別な活動してることは、薄々感じていたけど。


 しかし、過激な団体の中でも問題児扱いされるてる集団って…関わりたくないな…


「もしかして、あの、黒人の大男のことか?…ふっ、やられたね…というか、やっぱりというべきか」

 須藤さんの察しは早い。


 桜木さんが舌打ちするのが聞こえた。

 マイケルさんに関して、ちょっとウソついたのは確か。あたしにしてやられたと、思ったんだろう。


「ウィンガーで作られた組織があるってウワサは聞いてはいたけど、都市伝説だと思っていたよ。隠れウィンガー同士の情報網なんて、小説か、映画の世界じゃないかってね」

 須藤さんは、小馬鹿にした口調に、悔しさを丸出しの表情を見せた。

 いつもの調子は装いつつも、イラついているのは隠せていない。隠すつもりもないらしい。

「ウィンガーのぼく自身も知らない組織なんて、ひどい話だよ」

 自分が知らない話をされるのを嫌うタイプの人間だな。

 須藤さんが隠れウィンガーだったとして、マイケルさんが好んで仲間に加えるとは思えない。


「別に、ひどくはないさ。世界にはいろんなヤツらがいるんだよ。登録されているウィンガーが全てじゃないってだけ」

 本郷は淡々と、須藤さんの言葉を否定した。


 しばらく無言になった須藤さんが、不意にあたしの胸元を見ながらニヤッと笑った。

 何かに気がついたみたい…?


「そうか…"黒の女王"って…そういう意味か。まるで…女王っぽくないから、気づかなかったよ」


 正直、ギクリとした。

 その呼称を知っているとは…あたしだって、聞いたのは最近なのに。


 **************


 絵州市に隠れウィンガーのグループがあるとウワサになっている。外国人の隠れウィンガーが次々に絵州市に集まる原因になっている。

 そう、本郷から教えられたのは、大学で再会して間も無く。

「だから、気をつけろ」と、言われた。

 気をつけるって、どうすればいいのか分からなかったし、何にしても関わる気はないし、と聞き流していた。


『黒の女王』という言葉を聞いたのは、マイケルさんから。

 ブラック・クイーンとか、クイーンオブスペード、デッラネーラ、など呼び方は国によって様々。特定の地域だけじゃなく、世界中で噂が広がっているという。


『黒の女王』は、隠れウィンガーの仲間を集めている。その拠点が日本の絵州市にある。


 いくつもの尾鰭がついた噂の、それが共通項だった。


 考えなくたっておかしい。

 隠れ潜んでいるウィンガーの間で、世界中に噂が広がる?

 そんな不確かな情報を鵜呑みにして、絵州市にウィンガーが集まってきている?

 ありえない。


 最初はマイケルさんの冗談だと思った。

 だけど、隣で本郷は、バツの悪そうな困り顔になっていた。あたしと同様に笑い飛ばすだろうと思ったのに。


「世界中でそんな、伝説みたいな話が出回っているのは、本当なんだ。多分、アイロウにも情報は入ってると思う」

 そう言われても、あたしは『黒の女王』が自分のことだと認める気はサラサラなかった。


 当たり前だ。

 あたしはそんな団体、組織してないし、そんな呼ばれ方、全力で阻止しただろう。

 なんだ、女王様って…


「アナタガ女王デナイコトハ分カリマシタ。デモ、多分、黒ノ女王ハ、アナタノコトデス」

 初めて翼を見せた後、感慨深げに、そんな謎かけみたいなことをマイケルさんは言った。


「他にもいるってことじゃないの?黒い翼があたし1人だけって、誰が決めた?」

 翼を出した後のこともあって、少々突っ掛かり気味になったあたしを、本郷が制した。

「まあまあ、今のところ、本気で女王様探しに来てるヤツはいないよ。外国人の就労先が多い絵州市に入ってくる労働者に混じって、ウィンガーも入ってきているだけだろ」

 楽観的な理論だけど、それもまたしっくり来ない。


 結局のところ、『黒の女王』をトップとする組織の存在は確認できていない。

 しかし、『黒の女王』の噂の元は、あたしである可能性が高い。

 マイケルさんの言いたいことは、そういうことらしい。


  *************


「ねえ、本郷さん、取り引きに応じておけばよかったのに。君らを捕まえたら、ずいぶん面白い話が聞けそうじゃないか」

 獲物を見つけた猫の目になってる。須藤さん、すっかり『黒の女王』を真に受けちゃってるんじゃ…

 いや、ちょっと考えれば、馬鹿馬鹿しい噂話だって、わかるでしょうに。


 あたしは、そう口を挟もうとしたけど、

「それで、脅してるつもり?」

 本郷の方が早かった。そして、『黒の女王』について、否定してくれる気はないようだった。

「あんたらの方が立場は悪いんだぜ。ダーウィン・ミッションの名前知ってるだけのはずがないだろ。あんたらだって、取り引き相手が何をやってるか、知らないわけないよな」


 ……また、あたしの知らない方向へ話が向きを変えていく…けど…

 ダーウィン・ミッション。希少生物、貴重なウィンガーの保護。須藤さんたちのやってるウィンガーの人身売買。つまり…


「…えと…ダーウィン.ミッションがウィンガーをお金で買ってるっていうこと…?」

 あたしなりに出したこの話の結論を口にしてみた。

「ウィンガーを進化途中の希少生物として、集めてるわけ?」

 正解だった。


「そういうこと、らしい。オレも、聞いたことはあったけど、さっき、マイケルから話を聞くまでは、学術目的とか保護活動の一環で、ウィンガーを集めてるのかと思ってたよ。どうも…そんな平和なもんじゃないみたいだよな」

 さっき?かべっちの家では、そんな話はしていなかった。

 ここへくる途中で、連絡を取ったのだろうか?


 本郷はそのまま、話し続けた。

「保護活動なんて、笑える…ダーウィン・ミッションがウィンガーの国際売買をとりしきってるんだと」

 チラリとあたしの方へ視線を走らせる。


 もしかして、比嘉さんも、取り引きに利用されたウィンガーの一人ってことか。

 ナオさんの話を聞いたマイケルさんは、ダーウィン・ミッションと取り引きしているのが、須藤さんではないかと気がついた…


「集めたウィンガーを紛争地域の戦力としてとか、研究対象として世界中に売り飛ばしているらしい。裏切ったりしないように、人質になる家族や恋人とセットで拉致られることが、ここ最近、手口として定着してるそうだ」

 ナオさんと、彩乃さん。そういうことか。

 ナオさんも、比嘉さんの事件も含めて全てを理解したらしい。呆然としていた。

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