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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3893話 滅びし者編 ――探索再開――

 暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。各地から霊力や退魔の力を操る者を招集。カイトは幽霊船に対応出来る数少ない一人として幽霊船の一隻の除霊に乗り出すわけであるが、乗り込んだ幽霊船は特殊な異界に近い状況となっていた。

 そうして安全域と呼ばれる異空間が生じる事により生ずる空間と空間の境目、もしくは隙間を利用して休憩を取りながら最深部を目指すカイトであったが、その最中。第二層の安全域にて見付かったアルバムから、彼はこの幽霊船がかつて自身が見知った船乗りが乗っていた船である事を知る。

 というわけでかつて見知った船乗りの遺言に――従いたくはなかったものの――従って遺品を回収したり、カイトへの信頼をついに自覚するに至ったソーニャから好意を明かされたりとしていたわけだが、その甲斐あって幽霊船に奪われた体力も随分と復活していた。


「……」


 幽霊船の探索を再開したからと言って、やる事は休憩前と変わらない。カイトを先頭に扉を開いては中を確認し、どこかの異空間に飛ばされるトラップならソーニャを目印に帰還。普通の部屋であれば中を軽く探索して情報を収集し、とするだけであった。

 というわけで、今までと同じようにカイトが扉の前に立ってドアノブに手を当て、後ろの二人へと視線で合図。警戒を促して、それに二人が応じたのを受けてカイトが僅かに扉を押し開く。


「っ……」


 開いた。カイトは一瞬の警戒を滲ませながらも、扉から闇が吹き出して引き込まれる事がない事を確認。この先の部屋か空間は空間を押し広げられた事により作られた罠ではない事を理解。更にわずかに押し開いた隙間から、カイトは部屋の中を覗き込むための筒状の魔道具を差し入れて、中を覗き込む。


「中……異変等は見当たらず。目視による確認に移行する」


 地球でも言われている事であるが、どれだけ技術が進歩しても人の目に勝るセンサーは存在しない。それは魔術の世界でも同様で、魔道具を介して幽霊を見る事はほぼ不可能だった。

 このほぼ不可能、というのは量産性と採算性を度外視し、幽霊を認識可能な最高位の細工師が作れば不可能ではない、という程度。現実的には不可能と断言してよく、最終的に目に頼らざるを得ないのは仕方がなかった。というわけでひとまず魔物の気配がない程度を理解したカイトが、扉の隙間から中を確認する。


「……問題なし。安全域ではないが、幽霊の居ない部屋だな」

「そうですか……と言っても単に一時的に居ない可能性もあり得ますが」

「だな……とはいえ、居ないなら居ないでその間に調べてしまおう」


 幽霊達の行動はその個体により異なっていて、一つの場所や部屋に留まる者もいれば、他の部屋を行き来する幽霊もいる。そして幽霊船や幽霊屋敷だからと全ての部屋に幽霊が居るかと言われるとそうではなく、安全域ではないが部屋次第では幽霊が常駐していない事も珍しくはなかった。

 もちろん安全域とは違うので、例えば悪意ある幽霊に追いかけられて逃げ込んでも逃げられるわけではないし、単に一時的に移動しているだけの場合もあり得る。

 あくまでも今は居ない、というだけの可能性も十分にあり得た。というわけで、幽霊が居ない部屋だろうと手早く調査をしてしまう事は鉄則であった。


「……部屋としては……書庫……という所でしょうか。ただ……さっきのセーフティエリアと異なって、全部ボロボロです」

「どうせならこっちがマトモで、向こうがボロボロなら良かったのですが」

「そうですね」


 自身の言葉に呆れるように話すソーニャの言葉に、アリスが思わずと言った塩梅で同意する。とはいえ、これにカイトは笑った。


「まぁ、船員用の船室が安全域になるのはある意味道理ではあるだろう。誰にとっても入れる部屋ではあるが、同時に全員にとって自分の部屋以外は他人の部屋でもあるからな。誰の部屋が選ばれていたかは知らんが、それを考えればここは共用部だ。こうなるのも道理だろう」

「「……」」


 それはそうなんですが。アリスもソーニャも先ほどの安全域での色々とを思い出し、何故あんな――自分達にとっては――実用性の欠片もない書物達が当時のままで保存され、有用な情報があるだろう書庫がボロボロなのだろうか、と思わずにはいられなかったようだ。

 カイトの言葉を理性では理解しながらも、同時に釈然としない物を感じずには居られなかったようである。そしてそれについては彼も理解はしていたようだ。なので苦笑いを浮かべながら、彼は本の一冊を手にとってみる。


「とはいえ……これじゃマトモな本は残ってなさそうだな」

「書庫の本は防水加工など施されなかったのでしょうか」

「一般の大量生産品になると、防水加工は施されていなくても不思議はない。さりとて自前で本を用意する事も稀だろう。必然、防水加工は施されなかった、と考えても良いだろうな」


 アリスの疑問に対して、カイトはボロボロに朽ちた状態は何ら不自然のないものだと口にする。とはいえ、その結果書庫の本は見るも無惨な状態で、かろうじて幾つかの文字は読めるものの、大半が文章として理解出来るかと言われれば首を振るしかなかった。

 というわけで、数冊の本を手にとっては中身を確認し、その全てが同様であると理解したカイトは書庫の本は諦めるしかない、と結論付ける。


「こりゃ駄目だな。おそらく無事だとすれば、船長室にある航海日誌やらの重要書類だけだろう。あっちは沈没した際に備えて、防水加工の施された本棚にしまうのが規則だ……まぁ、問題はその加工が今も生きてくれているか、という所だが」

「どれぐらい保つんですか?」

「本棚を作成した工房によりけりだ。腕の良い工房なら海中の魔力を利用して半永久的に保管する事が出来るが、腕の悪い所だと劣化して数十年しか維持出来ない事もある。特に沈没した場合に備えて、なんて考えん船も珍しくはないらしいからな。今ならまだしも、この当時なら積まれていなくても不思議はない……この規模の船なら流石に国の監査も入るだろうから、積まれていない事はないだろうがな」


 規則として地球のブラックボックスのように準備する事が義務付けられているわけだが、この船が竣工した頃はまだ厳密に統一された規格の導入や最低限度の設定が困難だった時期だろう。

 なのでこの船に積まれた船長室の本棚の加工がどの程度のものか、は見知った船乗りが乗っていただろうカイトにもわからなかったようだ。アリスの問いかけにため息混じりに首を振るばかりであった。


「積まれていなかったら?」

「その時は最高だな。船長の幽霊をぶん殴っても許される案件だ。見つけ次第、遠慮なくぶん殴る」

「あはは」


 本棚はある意味ブラックボックスなのだ。沈没するまでの経緯の詳細はわからなくても、例えば前日まで天候が荒れていた等の当時の状況をある程度類推出来るようにはなる。というわけで自身の冗談に笑うアリスに、カイトは小さくボヤく。


「……てか、マジでやってなかったらぶん殴っても許されるよな、オレは」

「なんですか?」

「いや、なんでもない」


 小声だったからか、アリスは何を発したか聞こえなかったようだ。カイトは笑いながら首を振る。まぁ、彼がこんな反応をしている理由は当然ある。

 実は船へのブラックボックスの搭載を提言したのは彼で、その話は馴染みの船乗りも知っていたからだ。この船の重要人物だっただろうその船乗りがそれを知りながら怠ったのなら、確かに彼はその船乗りの幽霊は船長であろうとなかろうと殴っても許されるだろう。


「……まぁ、この部屋は諦めた方が良いか。ソーニャ、そっちになにか重要な情報は見当たったか?」

「……こちらも無駄そうです。せいぜい客人や非番の船員が暇つぶしに読む程度の本の背表紙が読めた程度でした。やはり重要な書類は別に保管されていたと考えて間違いないかと」

「そうか……ってことはやはりどう足掻いても船長室には行くしかなさそうか」

「幽霊船を除霊をする上で船長室に向かうしかないのは必然かと。幽霊屋敷でも主人の部屋、病院の院長室等は幽霊屋敷を解除する上で訪れねばならない可能性の高い部屋ですので」

「だな……まぁ、幽霊屋敷なら書庫に結構重要な情報がある場合もあるから、幽霊船でも見付かればと思ったわけだが」


 ソーニャが述べた部屋は、どれもこれもがその建物の中で一番重要な情報が収められている可能性の高い部屋だ。なので幽霊屋敷と化した原因、ないしはその原因に繋がる情報が残されている可能性が一番高い部屋でもあり、ここへの到達が第一目標だった。

 実際、今カイト達が最深部へ向かっているのも船長室に入るために最深部にあるだろう鍵を手に入れるため、と言及されている。言ってしまえば単に楽出来るか、というだけに過ぎなかった。というわけで、改めてカイトは書庫の状態を確認して、ため息混じりに首を振った。


「……これはもう諦めた方が早そうだな。下手に悪霊化した幽霊達に見付かる前に、とっとと次に向かった方が良さそうだ」

「それが懸命かと」


 何度か言われているが、カイトは確かに皇国でもトップクラスの除霊師・退魔師だが、幽霊の相手は物差しが異なる。いくら生きている相手には最強の名を冠する彼でも幽霊相手に関しては最強とは言い難く、避けられる戦いは避けるべき、というのは正しい判断だった。というわけで書庫を後にした三人は、先程同様にカイトを先頭に次の扉へと移動する。


「そう言えばソーニャ。今空間としてはどのぐらいの位置だ?」

「……もうそろそろ上への階段が視えておかしくない位置です。残る部屋数としては……おそらくこちら側に三つか四つが上限かと」

「となると、そろそろ階段が出ても不思議はないな」


 確かにこの階層も無限回廊のように円環を描く空間になっているわけだが、だからこそ部屋数は有限だ。そして通路の終点に階段があるわけではない場合が多い事を考えれば、確かにカイトの言葉通りそろそろあたりを引き当てても不思議はなかった。そして、案の定だったようだ。


「……っと、噂をすれば影が差す。ようやくあたりだ」


 きぃ。先程同様に少し押し開いた扉の中を確認したカイトが、大きく扉を押し開く。その先には第一階層と同様に階段がある部屋があった。


「次かその次が最深部だな……そう言えばソーニャ。高低はわかったりするか?」

「申し訳ありません。下にも部屋がある事はわかりますが……その更に下までは如何とも」

「いや、下に部屋がある事がわかるだけ御の字だ。それなら下に降りれば、次があるかわかるわけだからな……よし。下へ行こう」


 この階層にもまだ情報が残っている可能性が無いわけではないが、虱潰しに調べる時間があるわけではない。そして幽霊船には居るだけで体力も霊力も消耗してしまうのだ。長居が出来るわけもなく、ある程度は諦める事も必要であった。というわけで、三人は階段を降りて、第三層へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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