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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3888話 滅びし者編 ――ポスター――

 暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、冒険者ユニオンは皇国へと協力を要請。各地から霊力や退魔の力を操る者を招集。カイトは幽霊船に対応出来る数少ない一人として幽霊船の一隻の除霊に乗り出すわけであるが、乗り込んだ幽霊船は特殊な異界に近い状況となっていた。

 というわけで経験を積ませるべく連れて来たアリス。元々が教国にて退魔師として活動していた実績のあるソーニャと共に幽霊船の内部を進めていた。そうして船内へと進んだ三人だが、第一階層を経て第二階層。ガレオン船であるがゆえにか同じぐらいの広さとなっていた空間を第一階層同様に一つずつ探索していた。

 だが、やはり何十もの部屋が作られた幽霊船。ただ歩くだけでも霊力も体力も消費する環境だ。どうしても罠に掛かって別空間へ飛ばされてしまうカイトの(しるべ)となる役割を担うソーニャの疲労が特に著しく、カイトは彼女を休ませるべく安全域の発見を急いでいた。


「……安全域……セーフティエリアか。助かった」

「えっと……ここが?」

「セーフティエリアだろう。一応は」

「「……」」


 おそらくそうだろうが、認めたくはない。アリスもソーニャもようやくと言った塩梅で見つかった安全域に、しかしどこか顔を顰めていた。とはいえ、ようやく見つかった安全域だ。なのでソーニャは盛大にため息を吐きながらも中に入る事にする。


「……はぁ。まぁ、目を閉じれば休める事は間違いなさそうですか」

「言ってやるな。船員達だってまさか女の子に寝室に入られるとは思ってなかっただろう」


 ただでさえ船の上だ。船員達に個室があるのかは定かではないが、少なくとも女の子を連れ込む事は出来ないだろう。そんなわけで、この安全域は男の欲望なのか願望なのかで満ち溢れた船員の寝室をベースに客室が作られていた。というわけでソーニャの続いて、アリスもまた部屋の中に入る。が、その視線が泳ぐのは仕方がない事だっただろう。


「……うぁ」

「あー、なんだ。気にするな。とりあえず中に入れ」


 入って早々、正面にあったポスターを見てアリスがまるで湯気でも出るのではないかと思うほどに顔を真っ赤に染める。そうして思わず、という塩梅でじーっとポスターを見る彼女を強引に部屋に押し込んで、カイトが扉を閉じる。と、扉を閉じて、アリスが硬直状態になっていることに気が付いた。


「……」

「……アリス?」

「あぅ……はい……あの」

「ん?」

「カイトさんも……好きなんですか?」

「ふぁ?」


 赤面した様子で、アリスがカイトへと問いかける。そんな彼女の視線の先にあったのは、特大サイズのポスターだ。ただし、そこに乗っていたのは半裸よりも更に際どい服装の美女だ。

 露出度であれば間違いなく水着等より更に際どく、間違いなく成人向けのポスターであった。この部屋には長い船旅でそういう性欲を満たすためのものだろう様々な品が乱雑に散らばっていたのであった。というわけでそんなポスターを見ながらの問いかけに、カイトが素っ頓狂な声を上げる。


「いえ、その……カイトさんも男の人ですし……その、こういう胸とかお尻とか大きい方が良いのかな、って……」

「いや、まぁ……好きか嫌いかであれば嫌いじゃございやせんが……って、そうじゃない!」

「何か違うんですか」

「いや、あのね……」


 いつものように冷淡な様子でのソーニャの断言にも似た言葉に、カイトはがっくりと肩を落とす。アリスにもソーニャにも誤解が生じていないか。カイトはそう思うのだが、自分の行動が原因ではあるので仕方がない所ではあっただろう。とはいえ、そんな彼も話の流れもあり、ポスターに視線を向けた。


「……」

「「……」」

「あはは……」


 見入ってしまったが、それは仕方がない事ではあっただろう。というわけでどうしても男として見入ってしまった事に恥ずかしげに笑ったカイトであったが、そんな彼が顔を上げて今度はじっくりと観察するようにポスターを見た。そんな彼に、ソーニャが盛大に顔を顰める。


「そんな気に入ったんですか?」

「違うって……なーんか見た記憶があるんだよ、この女の人」

「「……」」

「いや、待って。その冷たい視線やめて?」


 うわぁ。そんなドン引きした二人の様子に、カイトは再度がっくりと肩を落とす。下手をすると、ここしばらくで一番ダメージを受けている様子であった。というわけで落ち込んだ様子で、どこかぶっきらぼうに彼が見入った理由を説明する。


「欲しいとかそういうんじゃない。更に言うと持ってるとかもない。そもそも考えてもみろ。この船が沈んだのは最低でも百年以上も昔だぞ。オレがこのポスターというか、この女の人の雑誌を持ってたらおかしいだろう」

「「……あ」」


 確かに沈んだ時期にカイトが居なかった以上、普通に考えれば手に入るわけがない。というわけで二人もようやく、カイトが気になっているのが半裸だから、美女だから、ではない事を理解する。


「このポスターが写真である以上、実在した誰かしらだ。つまりこの写真から、何時、どこの誰かが掴めれば何時頃沈んだかがわかるんだよ」

「ということは……カイトさんが見た事があるということは沈んだのは直近……?」

「いや、それはないだろう。ポスターの印刷技術が今の一般的な雑誌のポスターより格段に悪い。それにこのポスターの紙。耐水加工がされていない。耐水紙技術が一般化する前のポスターだ」


 どうやら自分達はかなり失礼な事を考えていたらしい。半裸の美女そのものだけではなく、紙質やら印刷技術やら様々なものから、この幽霊船の情報を手に入れていたカイトに二人が思わず舌を巻く。と、そんな彼の解説に、ソーニャがふと問いかける。


「……ん? ですがそう言えばポスターは別に耐水紙ではないのでは?」

「普通はな。だが船乗り達のための雑誌の付録として作られるポスターは耐水紙で作られていると聞いた事がある。船旅、だからな。多少の水気に耐えられるような加工が施されているそうだ……これにはそれが施されていない。最低でも百年以上は昔のポスターだ……そうだ、思い出した。この女の人はラエリアの……」


 そう言えばこの間そんな事を聞いたな。カイトは話している内に色々と思い出したらしい。ブツクサとなにかを呟いていた。


「いや、だが……おかしいぞ。確か大大老に殺されたんじゃなかったか……そうだ。それであいつが残念がって……そうだ。それで雑誌を見せられたんだ。似てるだけか……? そうだ。確か胸の谷間のギリギリにほくろが……ない。別人……か?」

「なにかわかったんですか?」

「ん? ああ、いや……昔知り合った船乗りに見せて貰ったというか、強引に見せられたグラビア雑誌に載ってた気がしたんだが……別人らしい。そのモデルはラエリアに住んでいたそうだが……大大老に殺されたそうだ。召し上げられるのを断った結果な」

「ではやはり最近……?」

「いや、逆だ。亡くなったのは大戦期の話だ。そいつがまぁ、ド変態な馬鹿野郎でな。人魚族なんだが、まぁ、エロ本を何百冊もコレクションしてた。で、男同士のバカな話の中で大大老に対しての愚痴に発展した事があってな。あいつのせいで、とか泣きながら雑誌投げられたんだよ。海の男の癖に、と言うと悪いが泣き上戸でな。酔っ払って聞きたくもないシモの話を延々としやがったよ」


 豪快なんだか繊細なんだかよくわからん男だったなぁ。カイトはその昔の馴染みである船乗りの一人を思い出して、わずかに苦笑する。そんな彼に、ソーニャが呆れるように告げる。


「……その彼と、この部屋の主人は話が合うのではないかと」

「あはははは。ま、生きてたら合うんじゃないかな……さ、そんな事はどうでも良い。とりあえず部屋を調べる前に休憩……できそうにはなさそうだが、休憩だ」

「……あの、その前に少しだけ片付けても良いですか?」

「……そうだな。流石にそうしておこう」


 いくらなんでもこの部屋には男の性欲を満たすためのあれやこれやが散らばりすぎている。先程カイト達が見ていた壁際は当然のこと、ベッド横の小さな棚の上には何冊も成人向けの雑誌が並び、その他アリス達が見た事も聞いた事もないようなおそらく男性向けの道具なのだろう道具があちらこちらに置かれていた。

 一応フォローしておくと、この部屋の主人達も片付けてはいたのだろうが、部屋の空間が改変された折に飛び出してしまった、というのが実際の所だろう。

 だがだからこそ、アリスは顔を真っ赤にするしかなかった。どこを見ても、そういう物しかなかったからだ。確かにこれで休憩できるか、と言われれば男のカイトはまだしもアリスには厳しかっただろう。


「ソーニャ。もうひと頑張りできそうか? いや、まぁ……流石にこの部屋は外と同じような状態だから負担という意味では大丈夫だろうが……」

「別の意味で負担がありすぎて嫌になります」

「あはは……そうだな。まー、その、何だ。オレも男だから、オレが散らばってる道具類は片付ける。雑誌は見ないで部屋の片隅にでも投げとけ」

「はい」

「……はい」


 やはり一応は男の性欲を向けられてきたソーニャと、そういった物にほとんど触れてこなかったアリスだ。ソーニャが何処か呆れつつも諦めの滲んだ返答であるのに対して、アリスは恥ずかしげかつ、返答までに僅かなタイムラグが生じていた。というわけで一旦三人は情報収集を兼ねて、休憩より前に部屋を少しだけ片付ける事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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