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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3871話 滅びし者編 ――世界――

 暗黒大陸へ向かう航路の最中に発見された幽霊船により構築された幽霊船団。この対応のため、各地から霊力や退魔の力を操る者を招集。それでも足りないと考えたカイトはソラやセレスティアらも動員する事にするのだが、その準備としてソラへの教練を兼ねてマクダウェル領内にある森奥の洋館にやってきていた。

 というわけでソラはカイト達見鬼と呼ばれる霊体を視る力を持つ者たちの動きを観察しつつ、自身の身を敢えて幽霊に晒す事でこちらを認識させるという荒業を行う事でなんとか幽霊を視る事に成功する。


「……んぁー」

「なんだ、変な声をいきなり……一応言うが、全部のエリアを回ってもお前は取り憑かれてないからな」

「ああ、悪い……でもやっぱ最後まで完璧に視る事は出来なかったなぁ、って」


 反応に困ったような微妙な笑いを浮かべるカイトに、ソラはどこか困ったような様子で笑う。結局あの後も何度か大丈夫そうな場所で前線に立たせてもらったわけだが、やはり一朝一夕に見鬼の力が覚醒なぞというご都合は訪れなかったようだ。結局、最後の最後まで幽霊を常時視えるようにはなっていなかった。


「そりゃ完璧に視えるようになるまでは時間が掛かるだろ。エルは元々土台があって、後はたどり着けるだけっていう話とは違う。ただそれでも、視える事がわかっただけ御の字だ」

「それでも意識を集中して、しかも身を晒してなんとか、だけどな……退魔師への道は厳しそうだ」

「そりゃそうだろ。そんな簡単に視えるほど、魂ってのは軽いものじゃない。才能があって、更に修行してようやく除霊や退魔ができる」


 元々才能があった上で、きちんと修行をして初めて退魔師として活動出来るのだ。しかも才能を持っている者も少なすぎて、世界中で活動する冒険者ユニオンが皇国に協力を依頼するほどである。いくら才能があったから、と目覚めるだけで退魔師になれるものではなかった。というわけでそんな当たり前と言えば当たり前の話をされて、ソラがカイトに問いかけた。


「確か魂って世界で一番貴重で希少な素材の一つ……なんだっけ?」

「そうだな。世界にとって、人もまた自らを構築する資材だ。だからこそ、なんだって失われないように保護もする……そしてその才能もまた希少になる。最も扱われては困る素材に手を出されるわけだからな」

「ならなんでそんな才能を与えてるんだよ」


 手を出されて困る、というのに手を出せる才能を人に与えているのだ。そんなある意味創造主とも言える存在の考えが理解出来ず、ソラが思わず苦笑する。とはいえそんな人知の及ばぬ創造主達の考えを、カイトは理解していた。


「なにかしらのトラブルは起きるからだ。そして起きた際に自分達が動く事がどういう事か……いや、どう動かすしかないかを世界達も理解しているからだ。トラブル放置は下策だからな」

「『守護者(ガーディアン)』ってことか?」

「確かに『守護者(ガーディアン)』もそうだな……だが場合によっては天変地異を起こして解決する事もある。『守護者(ガーディアン)』が出るか否かってのも是々非々なんだよ」

「最悪過ぎね?」

「それでも、魂やらが失われるよりは随分と良い……魂が失われる、って意味がわかるか?」

「……そっか。魂が失われるってことは……」


 転生さえない完全なる死。ソラは世界にとっては希少な素材の損失程度で済むが、自分達からすればそれは死よりも更にひどい、次さえないものなのだと理解する。そうして理解した彼に、カイトが問いかけた。


「そ……どっちが良いか、ってのは誰にもわからんだろう。今死ねば、転生も可能だ。だが今死ななければ今後一切転生もない……どっちが良いんだろうな?」

「……死んだ後の事は死んだ後に考えるってのは?」

「それが出来ないからの問いかけだろう? 死んだ後なんてお前には無いんだぞ、と言われているんだから。しかもここでキツいのは、お前には、という単語がある事だな」


 それは誰にも答えられないだろう。ソラはそう思う。確かに自分という意味で考えれば、転生もなく死んだ所で関係はないと言える。だがそう言えるのは、あくまで死んだ後が理解出来ないからこそだ。

 それがもし、自分にとってもっと悪い事態を引き起こすのだとなれば、今ここでは死を選んだ方が良いかもしれない。誰にも答えられない問いかけだった。というわけで悩めど答えなぞ出るわけのない問いかけに、カイトが笑う。


「選べないだろう? だから世界は天変地異で殺す場合がある。それがたくさんの人に起きた場合には、天変地異で纏めて殺した方が良い場合もあるんだ」

「ひどいな、それ」

「あはは……そうだな。だが世界にとって、魂とは資源だ。そこに宿る人の心情なんて意味のないものだ。無価値とは考えていないらしいが……だからそういう無情がまかり通る。世界とはシステム。システムに感情的な判断を求めても意味はない。ミクロで生きるオレ達の願いなぞ、ないようなものなんだ。そして、そうせねばもっと多くが悲劇に遭う。それが大局的な視点からすれば一番最良なんだ」


 それが出来なくなったからこそ、オレは永劫にも近い殺戮の日々という地獄を味わったんだしな。カイトは世界達がそうせねばならない理由も、それが出来なくなってしまったがゆえに起きた悲劇の数々も知っていればこそ、どこか諦めにも似た表情が浮かんでいた。


「大局的な視点で見れば……か。優れた政治家みたいなんだな、世界って」

「あははは。確かになぁ……」


 だからこそ、オレは今こうして為政者になっているのかもしれない。カイトは今更ながら、かつての世界の代行者としての旅路が自らに為政者としての視座を与えたのだろうと思い至る。そうして考えた彼だが、一転して首を振ってそんな考えを追い払う。


「……いや、どうでも良い事か」

「んぁ?」

「なんでもない……兎にも角にも、そういう考えで言えば、人に魂を操る才能を与えたのはある意味温情でもあるだろ?」

「……そっか。世界はマクロの存在だから、天変地異とか『守護者(ガーディアン)』でしか対処出来ない。でも俺達なら……」


 世界がただ一人を狙い打つ事が難しい事は今までの話でソラもなんとなくだが理解出来たようだ。そしてだからこそ、こうして才能を与えている事が温情だというカイトの言葉も理解と納得が出来たようだ。


「そう。一人一人に向き合う事も出来るし、一つ一つピックアップしてそれだけを取り除く事も出来る。場合によっては、世界側が手を貸して最小限の被害に抑え込めるようにしてくれる事もある」

「そのためのヴィヴィアンさん達……って事か」

「ああ、そっか。そう言えばお前もあそこでヴィヴィ達と会っていたか……そうだ。ああやって道具を貸し与えて解決を促す事もある」

「無情なのか有情なのか……本当にわかんねぇな」


 助けてくれないのかと思えば、助けてもくれるのだ。ただ助けられないとなったら切り捨てられるだけで。それも世界という全てを創った者、もしくは全てそのものなのだ。

 それが助けられない、と断ずる時点で助ける方法がないわけで、諦めるしかないのは当然だ。だがそれを認められるかどうか、と問われればまた別なわけだし、とソラの顔には複雑な笑みが浮かんでいた。


「そうだな……ま、だから見鬼の才能を持っているのなら鍛えて損はないぞ。そういう悲劇が目の前に来た時に、助けを請える」

「助けを求めて、世界達は助けてくれるのかよ」

「当たり前だろ。さっきも言ったけど、世界にとって魂は一番希少な素材だ。それが失われないで良いなら、魂だってそっちを優先する。ただマクロの存在である世界がミクロを……一人を救う事が出来ないだけで。一人救って十人死ぬなら世界は容赦なく一人を殺すが、一人救うだけなら一人救う方を取る。だからああやっていろんな魔道具を用意してくれているわけだ。割と思うより世界は優しいぞ?」

「本当に優れた政治家だな、おい……」


 どうしようもなくなれば常人には出来ない決断をするのに、一人を救えるとなると一切の労力を厭わず一人を救うのだ。少しだけ楽しげに笑うカイトの言葉に、ソラは思わず苦笑いだ。


「ま、そういうわけだから。力は持っておいて損はない。頑張れよ」

「おう」


 ここで頑張れば、何時かどこかで誰かを救えるかもしれないのだ。そうなれば後は頑張るしかないだろう。そんなカイトの言葉に、ソラもまた応ずる。が、すぐに停止する。


「……あ、でもこの修行ってここ以外でどうすれば良いんだ?」

「え? ああ、そもそもウチ、山程付喪神が居るだろ。あいつらをもっとしっかり視れば良い。付喪神は魂が顕現したような存在だ。魂が視えるようになれば、もっとはっきりその存在がわかるはずだ」

「あ、そっか……まぁ、ビビらせない程度にやってみる」

「そーしろ」


 自身の言葉に次の指針を受け入れたソラに、カイトもまた一つ頷いた。というわけで、ソラの教練を終わらせてカイトもソラも帰る準備を開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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