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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3866話 滅びし者編 ――説明――

 バルフレアから対応を要請されていた暗黒大陸までの海路付近で出没しているという幽霊船の除霊。それに向けて準備を行っていたカイトであったが、間にソラの試練を挟んで半月ほど。そこでバルフレアはついに幽霊船を発見するに至るも、幽霊船はエネフィアでも歴史上観測されたことのない幽霊船により構築された幽霊船団だと判明。カイトはバルフレアの要請を受けた皇帝レオンハルトの指示により、皇国全土から有力な退魔師・除霊師の協力を得るべく行動を開始する。

 というわけで皇国どころかエネシア大陸・アニエス大陸の二つの大陸において、最大規模の退魔師の集団でもある<<月牙>>の総本部から、総司令官にしてシャルロットの生み出した神官の中でも最古参かつ最高位の戦闘力と退魔師としての実力を持つというセレネを招聘する。

 そうして招聘から数日。カイトは表向きユニオンに招聘された冒険者の一人として、冒険者ユニオンによるオンラインの説明会に参加していた。だがそもそもの方針も説明内容も、彼が考えたものだ。なので話を聞く必要もなく、という塩梅であった。


「うーん……なるほど。そりゃそうか……オレの時代なんて、って言うと老害発言待ったナシだが」

「は……一応私も黒き森にて修行を積んだ身です。退魔の力は有しております」

「あはは……」


 カイトの言葉に応じたのは、現在レックスの大剣を受け継いでいるレクトールだ。セレスティアの推挙を受けて、彼を急遽呼び寄せたのである。というわけでそんな彼の返答に、彼はどこか自嘲するように笑う。


「まぁ、さっきも言った通りオレの時代なんてって言い方はしたくはないんですが。オレの時代なんて退魔の力なんて鍛える必要性も感じた事がなかったといえばなかったよなぁ……」

「あの……いえ、それはその方が凄いのでは……」

「そうだろうなぁ。ぶっちゃければオレだって全員さも平然とやれてたから退魔の力だなんて思った事もないわけだが……まぁ、知ってると思うが。大将軍の一人がこれがまぁ、やっばい奴でなぁ」

「「……」」


 いえ、大将軍は全員ヤバい連中です。カイトのまるでさも特定の相手が非常に厄介と言わんばかりの様子に、セレスティアもレクトールも思わず内心でツッコミを入れる。とはいえ、口にしない事にはカイトに伝わる事もないわけで、彼はどこか懐かしむように笑った。


「大将軍の一人に死霊術師(ネクロマンサー)がいてな。まー、戦場で無限に敵が出てくるの。あいつを討伐した戦いはレックスが主軸になって必死こいて除霊してまわってたな。オレは裏から奇襲を仕掛けたんだが……まー、あいつもあいつでやばくてな。最終巨大な骸骨が出てきてみんなしててんやわんや。ライムなんて攻撃が通用しないからもー、盛大に悪態つきまくって」

「「は、はぁ……」」


 おそらくこんな楽しげに笑っているのだが、実際の現場では自分達が想像する以上に全員必死だったのだろうが。現代において魔族と戦い続けていればこそ、二人はなんとも言いがたかったようだ。というわけで昔語りをしたカイトだが、少しして満足した事もあり脱線した話を元に戻した。


「いや、そりゃどうでも良いか……とりあえずそんな塩梅でオレ達の時代は全員持ってないと死んだからなぁ……あ、そうだ。二人の部隊にグレイスの血縁とか居ないのか?」

「紅き女帝グライス様ですか」

「んー、その二つ名はわからんが、そうだろうな」

「スカーレット家の者でしたら、我が隊とセレスの隊には不在でした。私は所属が違いますのと、セレスの隊は在野派が多くいましたので……」

「そかぁ……」


 少しだけ残念そうだが、確かにセレスティアの立場を考えればやむを得ないか。カイトは彼女の政治的な立場を聞いていればこそ、仕方がないと思ったようだ。


「スカーレット家は古くからあるシンフォニア王家にも連なる貴族の名家。立場的には、か」

「はい。御身も最優先で協力をお求めになられたと伺っておりますが」

「まぁな……記憶が摩耗しても染み付いた感覚は抜けてなかった。後ろ盾を求めるのならあそこだったが……いや、そりゃ良いんだ。ただこういう状況だとスカーレット家の血縁に協力が求められれば強かったんだがなぁ」

「退魔の火ですね」

「そ……敵の数が多い状況だと、スカーレット家の力で魑魅魍魎を焼き払い、オレが首魁を仕留める、ってのが非常に上策なんだが。霊体に氷が効果が薄いのと逆に、火は非常に有効だ。それにおいて、スカーレット家の右に出る者はいない……さて、どうしたものか」


 そもそも居ないものは仕方がない。なので手に入る手段で代替を考えるだけなのだが、やはり有効打を使えないとなると色々と考える必要がありそうだった。


「こーいう時、ベストは姫様かベルが居てくれればなんだが……姫様だと問答無用の一発だからなぁ。試しに聞いてみるんだけど、良いアイデアはないか?」

「御身で出ない以上、我らでは出ませんよ。経験も技術も御身には遠く及びませんので……」


 カイトの問いかけに、レクトールが苦笑気味に首を振る。まぁ、いくら退魔の力を有していると言っても、結局実戦経験が全てだ。特に幽霊船の対応なぞという稀有な事例に対処した事がある方が珍しいのだ。才能だけあっても使った事がないのであれば役立つかどうかは未知数だった。


「そうか……まぁ、実戦経験だけは如何ともしがたいか。そういえば今の大将軍に死霊術師(ネクロマンサー)はいないのか?」

「流石にいませんね。あれは稀有な力も稀有な力過ぎますので……敵にとっても、でしょう」

「そうか……まぁ、あれは死者と対話した上で使うなら非常に強い力だが、同時に死者を愚弄した使い方も出来る。良くも悪くも迂闊には手を出せん力か」


 一応、死者を弄ぶ形であれば出来る者は少なくないだろう。カイトは自分も同類と見做せる事が出来ればこそ、かつてよりはっきりとそう理解出来ていた。

 もちろん、結果が似ているだけで原理は全く違う。死者の合意の上で召喚しているのと、死者を強引に隷属させている形だ。もちろん一方的な隷属と合意の上での召喚ではその力も遥かに異なっており、カイトの召喚する死者達の方が遥かに格上だった。


「さて……そうなると、頑張って貰うしかないわけだが」

「「?」」


 にたり。どこかいたずらっぽく笑うカイトに、セレスティアもレクトールも小首を傾げる。そんな彼らを横目に、カイトはどこか慣れた手つきでどこかへと連絡を取っていく。


「……よし」

「あの、何がよし、なのですか? いくつか連絡されていた様子ですが」

「実戦経験が足りていないのなら足りるようにしてもらうまでだ。ま、付け焼き刃だが多少はマシになるだろう」

「と、言いますと?」

「これから数日、みっちり訓練だ。ちょうどセレネも来てくれたし、そっちの連携も確認しておきたかったしな」

「……あの、まさか」


 御身と戦うのでしょうか。カイトの楽しげな様子から、セレスティアが思わず背筋を凍らせる。言うまでもないが、カイトの実力は過去の世界で嫌ほど見てきているのだ。明らかに彼女の方がレクトールより震え上がっていた。とはいえ、流石にそんな無茶を言い出すわけもないし、何より間違えてはならない事があった。


「ま、流石にオレと戦えとまで無茶は言わないさ。何よりオレ……生身の相手と戦っても霊体相手の経験値にゃならん」

「あ……ですがそれならどのように?」

「色々とあるのさ。霊体相手に経験値を積むやり方が。こういう時、貴族ってのは便利で良いな」


 しかもウチは広いし領地としては古いし。カイトは笑いながらそうのたまう。そうして、彼は小首を傾げる二人を連れて、一旦冒険部のギルドホームへと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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